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名探偵サクラ ~魔王を倒せと言われたけど、職業が名探偵なので倒すビジョンが思い浮かばない件について~  作者: 乙黒


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第三十五話 五人目

 あの日から三日後、もみじ、恵、千里の調査もすることがほとんどなくなった。

 もみじは蔵書室に記載のあったプライズの情報は三日間の間に殆ど集めた。ゾラとも顔を合わす機会が多く、その度に緊張が漂ったが、問題なくプライズの事を知ることが出来た。

 その結果、やはりゾラの持つ金と銀の指輪に関しての記述は全くなかった。指輪のプライズは何個かあったが、どれも魔術を補佐するプライズであり通常なら長い詠唱が必要なのを短くするためのものだ。桜たちの望む情報ではなかった。

 姿を隠すプライズについては、条件が多くて厳しく桜の望むものではなかった。また五人を隠すほどの大きな物もない。剣や槍など、武器を隠すプライズが殆どだったのだ。手に入れるのも難しいものばかりで、一度貸し出しをもみじは頼んだが断られたらしい。


 だが、その代わりに多くのプライズの条件は得る事ができた。

 その結果として言える事は、プライズの発動の殆どが詠唱が必要な事。それ以外の条件はプライズによって大きく違い、絞ることも難しいという事だった。

 だから桜はこの三日間、様々な方法で指輪を試すことになったのだ。なめたり、かじったり、もしてみたらしい。結果はよくなかったが。


 恵は三日間の間は、訓練に参加しながら積極的に神倉へと話しかけて彼の訓練の様子を伺っていた。相変わらず神倉以外の者には怪しまれているようだが、恵の興味の対象は神倉だけではない。

 他のプライズを持つ萩村朱音はぎむらあかね雨宮あまみや 可憐かれんも恵は調査に含んだのだ。

 桜からは頼まれていなかったが、聖剣の調査は一日目で殆ど終わったので、他の二人のプライズに関しても調査したのだ。結果は上々だ。プライズに関しての生の知識を得る事ができた。

 だが、槍のプライズを持つ桐原敦に関しては、流石に話しかける機会は持てなかったが。彼の周りにはクラスメイトだけではなく、貴族や商人の姿が多かった。どうやら聞いた話によると、他のクラスメイト以上に桐原は国の内情に深入りしているらしい。訓練以外の時間は彼に近しい者が囲っており、とても近づけそうにはなかった。

 プライズの情報は毎日桜に率先的に送られて、神倉とも親しくなったようだ。萩村や雨宮の警戒心も徐々に薄れているらしい。


 千里は三日間とも城内の調査に及んでいた。スマホのカメラで動画を撮った上で、ずっと手帳に道を書き込んでいたのだ。途中でゾラから質問されることもあったが、桜を引き合いに出して誤魔化した。また手帳もゾラにチェックされたが、書き込んでいたのは簡単な地図と壷などの位置だけなのですぐに返された。

 どうやらスマホで動画を撮っているのはばれていないようだ。手帳でメモを取っていたのがちょうどいい隠し蓑となっていたのかも知れない。

 もちろん調査の結果は桜、恵、もみじに共有されている。


 桜は元々方向音痴ではない。むしろ道場の訓練で何度か歩いた道は忘れないようになっているのだが、どうしてか城内に関しては道を覚える事がなかったので、その理由を探していたのだが、桜は千里が撮った全ての映像を見た結果、恐ろしい事に気づいた。

 城内は曲がり角や距離などは当然のように変わっていなかったが、置かれている調度品の位置が毎日変わっていたのだ。ある時は順番を入れ替えて、またある時は一つずつ移す。また調度品の間隔も等間隔のように思っていたのだが、どうやら微妙に変えていたらしい。だから距離感が狂い、道が覚えられなかったのだ。

 調度品を目印に何度道を覚えても、辿り着く先は違うのだから。


 だが、千里の撮った映像によって、調度品に頼ることなく正確な城内の様子を知ることが出来た。これで問題なく、この世界に来た時の最初の場所に辿り着けるだろう。


 この城で調べられることは殆ど済んだ。

 あとは指輪だけ発動できれば元の世界に帰ることが出来るだろう。

 だから四人は前と同じようにもみじの部屋にも集まっている。またそれプラス礼香もこの部屋にいた。前とは違い、目隠しもしておらず他の四人と同じくスマホを持っている。


 五人は棒読みで、いつものように偽の会話を始める。

 真実はスマホのみが移すのだ。

 五人はまだあいさつしかしていなかったが、その中でももみじが礼香を眺めながら言う。


『で、聞きたいことは一つよ。どうして――摩那崎さんがこの場で私たちの話を聞いているの?』


 桜はもみじと礼香を交互に見渡してからため息をつきながら言う。


『結果的に言うと、俺たちの関係が摩那崎にもばれた。だからこの場所にいる』


『どうしてばれたのよ? この関係は内緒じゃなかったの?』


 もみじは今にも桜に掴みかからんとする勢いで、スマホの画面を桜の顔の前へと近づけた。

 桜は「分かっているよ」と小さな声で呟いてから、事情を説明しだす。思い出すのは昨日の事だった。


 桜はその日も礼香の部屋で過ごしていた。

 礼香はベッドの上で桜が秋山から借りたスマホで本を読んでいる横で、木の椅子にだらけて座りながら金と銀の指輪を手の上で弄っていたのだ。

 考える事は金と銀の指輪の事ばかりだ。この指輪をどうやったら発動させられるか、どうすれば元の世界へと帰るための鍵となるのか、そればかりが桜の頭の中でぐるぐると渦巻き、行き詰っていた時だ。


 様々な方法を試すうちに、桜は遂に偶発的に“異世界への扉”を開いた。その姿を礼香に見られてしまったため、桜は仕方なく現状の事を礼香に告げた、と言う。


『で、俺から全てを話した。もちろん、こいつが誰かに言う事も考えたけど、騒ぎだすのを止める事を優先した。するとだな、こいつも元の世界へ帰りたい、って言い始めたんだよ。別に断る理由もないからこいつはここにいるんだ』


 礼香は当然でしょ、とばかりにふんぞり返りながら、私の事を紹介しなさい、と桜の腹を肘でつつく。


『そういうわけよ。あたしも仲間に入ったわ。これからよろしくー』


 礼香は桜達と同じようにピンクのカバーがつけられたスマホを四人へと見せながら、もう一方の右手をひらひらと振った。

 彼女に緊張という二文字はなく、特にもみじと千里に関しては旧友のように親し気だった。

だが、そのフレンドリーさにもみじは顔をしかめた。


『本気で彼女を仲間に入れるの? 信じられるの? 私たちは元の世界に絶対に帰るためのグループよ。彼女のように口の軽いものが信じられるわけ?』


『一応、こいつにも元の世界に帰る理由があるんだよ』


 桜はため息をもう一度ついた。

 なんとなくだが、もみじと礼香の相性が悪いことは分かっていた。クラス内でも二人は殆ど喋ったことはなく、所属するグループも真逆と言っていいほど違う。もみじはクラス内でもあまり目立たない日陰者のグループであり、礼香はクラス内で最も派手で誰の目をも奪うグループだ。

 きっと住む世界が違うのだろう。


『何なのよ、その理由って?』


『そんなの織姫じゃなくて、あたしに直接聞けばいいでしょうが』


 もみじが桜に聞こうとすると、それを遮って礼香が足を組みながら堂々と言った。


『そうね。なら直接聞くわ。あんたはどうして元の世界に帰りたいのよ? こっちの世界でお山の大将を気取っていた方がいいんじゃない? お仲間も多いようだし』


 そんな礼香に対して、もみじは挑発するように言う。


『あたしに喧嘩を売っているなら買うわよ。でもね、あたしにもこの世界にいられない理由があるのよ』


『なによ、それ?』


『あたしって王女様の指輪を盗んだでしょ? 織姫たちが黙っているとはいえ、ばれたらどんな目に会うか分からんないじゃん。だから元の世界に帰りたいの。あたしの安全の為に』


 礼香の言い分に、もみじは思わず顔を複雑に歪めてしまった。

 なんて勝手な言い分、と声に出して糾弾したかったが、彼女の言い分にも一理ある。確かに指輪を、それもゾラにとって一番大切な宝物を盗んだ犯人だと知られれば、きっと扱いは酷いだろう。例え神倉が庇ってくれたとしても犯罪者なのだから。

 元の安全な世界に帰りたい、と思うのも当然だろう。


『なら、どうしてあんたは指輪を盗んだの?』


『え、そんなの決まっているじゃん。あの中で一番かわいかったの。だから体を拭いている時に、あたしの頭にぴーんと来たわ。急に思いついて盗んじゃったの。本当、衝動って怖いわ』


 礼香以外の四人は、思わず顔を見合わせて頭を落とした。

 彼女の頭の中に計画と言う言葉はないのだろう。突発的に盗んだのだから。どうやら礼香は短絡的な人間のようだ。


 だが、桜は思うのだ。

 ゾラは人の動きの機微によって心理を掴む天才だ。もしも礼香が計画的にゾラの指輪を盗もうとしていたら、きっとその魂胆を暴かれて警戒されてしまい、盗むには至らなかっただろう。ゾラに錆びるから指輪を置くように言ったのは善意であり、その時には盗む気がなかったからこそ、安全に盗むことが出来たのだ。


『つまり、あんたはナチュラルなコソ泥ってことね。最低な人間。やっぱり信用できないわ』


『あんたの信用なんていらないわ。でも、あたしも元の世界に帰るから。付いて行くから。一人くらい一緒に行っても問題はないでしょ?』


『そうだな。元から反対する奴はいねえよ』


 桜はこの場を収めるために言った。

 確かに礼香の言い分通り、元の世界に戻る人が増える事に問題は全くないため四人とも礼香の事を受け入れた。誰も反対する者はいなかった。

 もしも礼香の反対をして妨害されたり、無理に付いて来ようとして元に帰るための行動が阻害されるのが嫌だったのだ。


『てことで、これからよろしくー。あ、あたしの事は礼香って呼んでいいわよ。あんた達も名前で呼び合っているんでしょ? あたしも同じ扱いでいいから。その代わり、あたしも名前で呼ぶし』


 礼香は桜以外の一人ずつと握手をしていく。その中でももみじとは互いに睨みあいながら握手していたが、他の二人とは和やかに握手をしたのだった。


『で、この五人で帰ることが決まったとして、これからの事を進めるか。どうやって帰るのか、その為の作戦を』


 礼香の紹介が終わったので、ようやく桜が元の世界に帰るための会議を始めようとしていた。

指輪の力をそのまま使えば、元の世界に帰れる、と本当は桜も言いたかったが、残念ながら桜はそれほど悠長な性格ではない。昨日扉が開いた時も通ったりなどはしなかった。開いている場所がどこに繋がっているか分からないから。

 一パーセントでも高く元の世界に帰るため、桜は口を開いたつもりだったのだが、それを遮るように千里が手を挙げた。


「あのー」


『なんだよ?』


 桜は指輪の問題点と帰るための準備を話そうとしていたのを止めて、千里へとスマホをを見せた。

 暗にスマホで話せ、とも言っていた。


『さっき桜さんはこの五人で元の世界に帰るって言っていましたよね?』


『ああ』


『他の皆さんは一緒に帰らなくていいのでしょうか? クラスメイトです。彼らも一緒に帰った方がいいのではないでしょうか?』


 恐る恐るといった表所だった。

 千里の言葉に、思わず桜も思考が止まった。

 確かにそれは考えていなかった。

 自分たちが帰る事ばかりで、同郷のクラスメイトまでは気が回っていなかった。


『そうかも知れないな』


 それが桜の捻りだした答えだった。

 見つけた二冊の日記を信じるなら、この世界にいたとしても災難にしか会わないだろう。王女を筆頭にした彼らの言う事は殆どが嘘で、彼らの真意も分からないのだ。


『ですよね。では今から皆を説得して、全員で元の世界に戻りましょう』


 元気よく千里は文字を打つが、冷ややかにその姿を見る者がいた。


『それはちょっと無理じゃない』


 礼香だった。

 彼女は鼻で笑うように言った。


『どうしてですか?』


 千里は眉間にしわを寄せている。礼香の言葉をよく思っていなかった。


『確かに私も日記の事は桜から聞いた。何気なく行っていた儀式が魔術を学ぶためだけ

ではなくて、別の可能性があるって。それもとってもやばい奴って』


『そうです。だから皆を助けないといけないのです』


『あたしは桜の言葉を信じたわ。よくよく考えたら、あたしも教室に入ってきている王女様を見たからね。でもさあ、あんたの言葉を誰が信じるわけ? 知らないの? あたしたちのクラスメイトはこの国の人間を信じ切っている。いい人だって言っている人もいるわけよ。この世界に呼び出されたけど、手厚くサポートしてくれるって』


『それは知っています。でも、心から説得すれば、きっとみんなも納得してくれるはずです』


『じゃあ、これは知っている? ――えな子がこの国の貴族に抱かれたって話は』


 えな子とは、礼香のグループに所属していた女子の一人だ。指輪を盗んだ容疑者の一人でもあった。


「え?」


 これまで喋っていた日常会話を止めて、千里はすっとんきょうな言葉を出してしまった。それから真っ赤に顔を赤く染める。

 そんな千里の様子を声に出さないように手で押さえながらくすくすと笑っている。


『別に抱いた、抱かれた、って言うのはえな子だけじゃないわよ。この世界の人に手を出している人は多いわ。男子も、女子も。そんな話をあたしは幾つも聞いた。気持ちは分かるわよ。私達なんて、例え元の世界じゃモテたあたしもここでは冴えない女に過ぎなくて、この世界の人は絶世の美男美女よ。そんな人からちやほらされるもの。浮かれて当然だわ』


『でも、それが元の世界に戻れない事とどうつながるのですか?』


『簡単よ。童貞や処女が初めて相手をしたのよ。情が生まれるのよ。中には毎晩城に泊まって“している”人もいるわ。彼らが元のつまらない世界に帰りたい、と思う人が多いと思わない』


『でも、皆さん、お父さんやお母さんには会いたいはずです!』


『千里はそうだけど、でも、他の皆の違うと思うわ』


 二人の話は平行線だった。

 どちらの言い分にも一理あり、間違っているわけでもない。

 東雲が桜に目でやった。もみじも同じような目つきをしている。

 桜にこの状況をなんとかまとめろ、と暗に言っているのだ。桜は頭をかいてから、二人へと優しくスマホを見せた。


『別にどっちの意見も間違っていない。クラスメイトに元の世界に戻るかどうかの選択は聞くさ』


『なら、きっと皆さん、帰るって言ってくれますね』


 桜の言葉に、千里は嬉しそうにスマホへと文字を打つが、桜は首を横に振った。


『でもこの世界に残るって言う者に、無理強いは出来ない。ここに残ると強く希望する者まで、一緒に行くわけにはいかない。だから帰るかどうかは、彼らの自由意思に任せようと思う』


 きっと元の世界に戻るクラスメイトは少ないだろう、と桜は思う。

 この世界で自分たちは甘い蜜を味わってきた。それは多岐に渡る。魅力的な異性と出会える事だったり、魔術と言う不思議な現象の獲得だ。

 それだけではなく執事やメイドに、奴隷といった付き人が付くと言う好待遇だ。まるで上流階級の人間になったかのような優越感が味わえる。

 食事なども豪華であり、とても美味しかった。風呂が欲しいと言えば城の中に大浴場が作られ、大抵の願いは叶うのだ。


 また元の世界で漠然と生きてきた者達にとっては、魔王を倒すと言う目的は酷く魅力的だろう。達成すれば今までの自堕落な自分とはおさらばできて、英雄や救世主としてあがめられるのだから。


 それに彼らは常に自分たちを褒めて、気分をよくしてくれる。貶される事など無い。元の世界で様々な鬱憤が溜まっていた現代人にとって、これほどの楽園はないだろう。ぬるま湯のような世界であり、ここにいたいと思って当然だ。


『そうですか』


『だから千里、これは約束してくれ。皆に今の状況を説明して、元の世界へと帰るかどうかの選択を迫る場は作る。でも、帰らないという人たちに強制はできない。その場合は諦めてもらう事になるけど、いいな?』


 桜の言葉に暫く言葉を失った千里は、口をきつく結びながら文字を打った。


『日記に書かれている彼らの正体についてもいいますよ。信用できないって。彼らは怪しいって』


『分かった』


 桜は頷いた。

 だが、元の世界に帰るための会議はこれだけでは終わらない。

話し合う事は多くある。

 その一つ一つを潰していくかのように五人は話しあった。

 また元の世界へと帰るかどうかのクラスメイト達への提案は、この寮でする、と桜は言った。城内だとどんな妨害に会うか分からないからだ。だが、この寮ならクラスメイトしかいないので安全だ。

 そのセッティングは恵が取り仕切ることとなった。

 二年二組のリーダーである神倉に頼んで、皆を集めてもらうのだ。

 その日は今日の夜に決めたので、すぐさま恵は行動をし始めるために部屋を出た。桜もやることがあると同じタイミングで部屋を出て、残ったのは女三人だけだった。


『私、絶対に皆さんを説得しますから』


 強い意思の籠った目で礼香を見つめながら千里は告げる。


『はあ、分かったわよ。無駄だと思うけど、皆に説明する時の言葉に関しては協力するわよ。別にあたしはどっちでもいいのよ。あたし自身が元の世界に帰れればね』


 どうやら礼香は千里に折れたらしい。

 それから三人で今晩、どのように説明すれば皆に受け入れられるか、必死に知恵を絞って相談を始める。

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