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名探偵サクラ ~魔王を倒せと言われたけど、職業が名探偵なので倒すビジョンが思い浮かばない件について~  作者: 乙黒


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第十五話 名探偵


 桜が風呂を上がった後、移動させられたのは城内にある大きな広間だった。そこにはいつもと同じように長机が並べられており、白いテーブルクロスがしかれてあった。

 二年二組の生徒は依然と同じ場所に座っている。執事やメイドも依然と同じように部屋の隅に立っているが、異世界側の代表としているのはゾラ一人で他には貴族も誰もいなかった。ゾラはずっと俯いたまま暗い顔をしていた。

 そんなゾラの肩を優しく叩いた神倉は真剣な表情で立ち上がった。


「さて、皆もここに集まった理由は知っていると思う。今日の入浴で大変な事が起こった。本当ならゾラさんに話して貰いたいけど、本人はショックでそれどころじゃないみたいだからオレから言おうと思う」


 桜は集められた理由を全く把握していなかったが、周りの生徒を見てみると誰もが神妙な顔つきをしている。どうやら大変な事が起こったらしい、と桜は感じた。

 桜と東雲は何故か浴場に入ってきた女子たちに命令されて、急遽風呂を上がって服を着る事となった。おかげで他のクラスメイトとは違って、二人は髪が濡れており、ぽたぽたと机の上に水滴を落としていた。

 神倉はクラスメイトを全員見渡してから口を開いた。彼が厳しい目つきを向けたのは、男子生徒よりも女子生徒だった。


「――事の発端は、今日の入浴だ。この城の人たちがオレたちの為に用意してくれた脱衣所で起こった。事件はシンプルだ。ゾラさんは皆と一緒に大浴場で入浴したんだけど、その時に身に着けていた家宝を外して脱衣所の自分の籠の中に入れたんだけど。戻ってきた時にはなかったらしい。近くを探してもなかったとゾラさんは言っている――」


 つまり、誰かが盗んだ、と神倉は言いたいようだが、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら口を濁した。

 どうやら神倉自身もクラスメイトを疑いたくはないようで、ずっと悲痛な表情をしていた。


「そもそも女風呂の脱衣所に入った人は、ゾラさんの他にはこの中にいる女子だけだ。使用人たちは皆、廊下で待機していたと聞いている。他に入った人はいないんだ。つまり――」


 神倉はずっと遠回しするように言っていた。

 やはり断定したくはないらしい。

 そんな中、濡れている髪をオールバックに流した桐山が椅子を引いて、机に組んだ足を置いた。今の状況をさもおかしそうに笑いながら口を開く。


「言っちまえよ。この中の、女子の誰かがそいつの大切な物を盗んだって。他に怪しい奴はいないんだろう? じゃあ、この中の誰かが犯人だ」


桐山の言葉に数人の女子が睨むように彼を非難した。

 まるで私たちは犯人ではないと言いたげだった。

 それから神倉に助けを求めるように視線を向けるが、神倉は口を複雑に歪めながら言った。


「……そうだね。この中の誰かが犯人だ。だけど、オレはちょっとした出来心だと思いたい。だからこれから皆、目を瞑ってくれるかな? それで盗んだ人は手を挙げる。そして後でゾラさんに盗んだものを返して、頭を下げて謝る。ゾラさんも出来心だろう、と家宝が手元に返ってこれば責める気はないらしい。だから正直に盗んだ人は出てきて欲しい」


 どうやら神倉はクラスメイトの善性を信じているらしい。

 だが、そんな彼をあざ笑うかのように桐山が言う。


「お前はどうするんだよ?」


「オレ? どういうこと?」


「俺達は目を瞑って、犯人を見れないようにするんだろう? 犯人を守るためだ。で、誰が、その犯人を確認するんだよ?」


「……犯人の確認はオレがするよ。もちろん手を挙げた人が誰かは言わない。オレの胸に一生秘めるつもりだ。だからオレの事を皆も信じて欲しい」


「……つまんねえ、提案だな」


「そうかい? でも、オレは皆を信じているし、皆もオレの事を信じている。だからきっとこれで物事が解決すると思うんだ。これから先、オレ達は力を合わせて魔族と戦わなくちゃいけない! そんな戦いに勝つためにも、まずはオレ達の気持ちが一緒にならないといけないと思うんだ!」


 そんな神倉の言葉に同意するように、彼に近しい物から目を瞑り始めた。あるものは机の上に腕を枕のように置いて何も見ないようにして、別の者は目を両手で隠す。最初にしたものは男子ばかりだったが、その波が女子にも伝達したのか、次第にクラスメイト達が次々と目を瞑り始めた。

 桜や東雲、またぼたんも他のクラスメイト達に混じるように目を瞑り始める。

 そんな様子を見ていた桐山が他のクラスメイトを見下すように言った。


「茶番だな――」


 そして最後に秋山が目を瞑ると、神倉が意を決したように言った。


「――さて、これでオレ以外は誰も見ていない。だからゾラさんの家宝を持っている人は素直に名乗り出て欲しい」


 桜は目の前が真っ暗な中で神倉の声が響いて、それから無言の時間が暫く流れた。その間に聞こえたのは、隣の人の呼吸音や誰かが身をよじった時に出る布が擦れる音。あとは誰かが骨を鳴らす音だろうか。

それは数秒とも、数十秒とも取れるような、短くて長い時間だった。


「……そうか――」


 それから諦観したような神倉の小さな声が孤独にも響いた。


「ふん。どうせ誰も名乗り出なかったんだろう? おい、皆、目を開けてみろよ。誰も手を挙げていないから安心して開けろよな」


 桐山の声と共に、クラスメイト達は顔を上げて目を開き始めた。

 桐山はクラスメイトの様子を満足するように見てから、神倉を嗤う


「で、だ。神倉。お前は皆の正義を信じるって言ったよな。だったら、お前が嘘をつく理由もないよな? 犯人は手を挙げたのか?」


「くっ――」


 神倉は答える事をしなかった。

 悔しそうに唸っただけだ。


「その様子だと俺の予想通りだな。どうするんだ? ここにいる女子は立派な盗人だ。これからの俺たちはどうすればいい? こんな下種どもと同じ寮なんて、俺は夜も怖くて眠れねえよ」


 女子たちを睨みつける桐山。


「ちょっと何それ、失礼じゃない? あたしたちが盗んだって言うの? そんな事をやってないんだけどー」


 そんな中、女子たちのグループでも最も影響力が多い摩那崎まなざき 礼香れいかが大きな声で言った。

 彼女はクラス内でも派手な女子生徒だ。

 髪の毛は地毛なのか茶色であり、ウェーブがかかっており艶もあった。また目力は強く、鷹のように鋭い。化粧も薄くしており、よく言えばギャル、悪く言えばヤンキーと言えるだろう。


「そうなんじゃねーの? と言うよりも、真っ先に反応する摩那崎が怪しいような気もするがな」


 桐山は挑発するように言った。


「信じらんない! あたしがそんな事をするわけないでしょ? 冗談でもそう言う事を言うのは止めて!」


 ぷりぷりとしながら摩那崎は怒るが、桐山は無視したように神倉へと語りかけた。


「で、神倉よお、どうするんだよ? 王女の大切な家宝は奪われて、今はどこにあるかも分からねえ。犯人は確実にこの中にいる。どうやってこの落とし前をつけるんだよ?」


「それは……」


「今から犯人を炙り出すのか? それとも女子全員を尋問するのか? どっちにしようとこのクラスに信頼関係なんてあったもんじゃないな。これからこのクラスはギスギスしながら進むわけだ」


 桐山が納得したように頷くと、神倉は「くっ」と悔しそうに唸るだけだった。

 それから暫くの間、この部屋の中には静寂が流れた。誰もがクラスメイトの顔色を窺っている。誰が犯人か疑心暗鬼になっているのだ。

 ただ。女子に比べると、盗むことが不可能な男子たちの表情は少しだけ緩んでいた。犯人と疑われていないからだろう。


 神倉もどんな判断をしていいか分からず、困惑しながら辺りを伺っている。

 誰もが言葉を発したくないようだった。

 もしも何かを言えば責任を取らされそうな中だからだ。きっと異世界の人たちに悪印象を与えたくないのだろう。それから少しだけ時が経って、ぽつぽつとクラスの中心人物である神倉の顔を見つめるクラスメイトが増えた

 この状況を何とかしてほしい、と神倉に願っていたのだ。


 そんな中――手を挙げて口を開いた者がいた。


「――ねえ、提案があるんだけどいいかしら?」


 それはもみじだった。

 クラス内では地味であまり目立たないもみじが、流暢に喋り出したのだ。


「何かな、赤雪さん?」


 何もいい考えが思付かなかった神倉は、縋るような思いで赤雪の提案を聞く。


「結局のところ、王女様の失った物を探すのが目的でしょ? それに犯人捜し。城の人たちに任せるっていう手もあるけど、やっぱり私たちの不祥事は私たちで解決したいわよね? この国からの信用を得るためにも」


「……その通りだね。この国の人たちにはあまり任せたくない。オレ達の沽券に関わる事だから。それに犯人を炙り出そうと思ったら、“酷い”方法も考えられる。どうやら思ったよりも、ゾラさんが持っていたものは重要な物らしいからね」


 神倉は頷いた。

 他のクラスメイトももみじへと注目している。


「なら、簡単よ。失せ物探しは専門家に任せばいいわ」


「専門家?」


 神倉は首を傾げた。


「ええ。この世界に来た初日に私たちは職業を調べたわよね?」


「そうだね。沢山の職業があった。オレは勇者で、他にも聖女、賢者、剣聖、なんかもあった」


 沢山の職業があり選ばれた者は特殊な職業についている。

 その中には自らの職業を誇り、選民思想のようなものが芽吹いているとさえ桜は聞いた事があった。

 桜は自分の職業に誇りなど持っていなかった。名探偵と言う謎な職業にそんな生まれない。


「その中に“名探偵”があるって事も知っているかしら?」


 桜はもみじの視線を感じて彼女を向くと、いつものように笑っているのを目にした。


「名探偵?」


「ええ。犯人探しも、盗まれたものを探し当てるのも――名探偵におまかせしたほうがいいんじゃない?」


 もみじは好機を見逃さない。

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