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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter2 〝ルーイエの里と魔法使いへの道〟
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2:11「イチから学ぶエルフの魔法」

 エルフ独自の魔法には精霊ともう一つ、絶対に欠かせないものがある。


「……これ、全部今日覚えろと?」

「んー、全部とは言わんがそーだなー……半分くらいはいけるんじゃねーか?」

「本気で言ってます!?」


 その欠かせないもの――『術式』を会得するために俺は今、アルトガの案内で里の大書庫に赴いている。

 神樹さまから広場を挟んだ向かい側……神樹さま程ではないが、軽く50メートルはあるであろう巨木の中に造られた巨大な円柱型の空間。

 階層形式に壁面を覆う本棚。階段や梯子もいくつも設けられており、上を見上げれば幾重にも架けられた橋がはるか上空の天蓋から神秘的に陽の光を差し込ませている。


 そして正面にかえって見て見れば……縦2メートル、横は1メートルほどの長机の上、そして周辺の床にこれでもかと積み上げられた本の山。

 それでもこの書庫に収められている本の総数からしてみれば1パーセントにも満たないのだろうが……数えるのも億劫になるほどの分厚い魔導書の数々がアルトガの手によって用意されていた。


「え、えっと……ちなみにこれ、何冊あるんですか?」

「んー。ハッキリと数えたわけじゃないが……持ってきたのは二百冊くらいじゃないか?」

「にひゃくさつ」


 一冊一冊が辞書並みに分厚い魔導書を二百冊ですか。

 その半分を今日覚えられると、そうおっしゃいましたかこのデカブツおじさんは。


「もう一度言いますけど……本気で言ってます!?」

「いいから一冊選んでみろって! なんとかなるさ!!」

「いや何とかって……」


 そんな無責任な。

 口には出さずに呟きながら、俺は言われた通り山の中から一冊を選び取ってみる。

 正直読書……とくに文字だけのものを読むのは苦手な方なのだが、本当にできるのだろうか……?

 まあ、だからこそ一つの言語を五日で覚えられてしまったことに余計驚きはしたのだが……術式はさらにその応用だろう?

 言葉を組み合わせ、最適化されたものをさらに暗号化して用いるのだと、ここに来る前にアルトガが言っていた。

 覚えるのであればもちろんその構造を理解しなければいけないだろうし、ただ覚えるだけにはいかない分それ相応の時間を要するだろう。


(でもまあ……考えるだけ無駄か)


 アルトガができると言っているんだ、とりあえずは開いてみるとしようか。

 運が良かったのかはたまた必然なのかはわからないが、その魔導書のタイトルには【エルフ族初級魔法集 炎】とエルフ文字で書かれていた。

 初級というからには難しいものはないのだろうと、若干の安堵と決意をため息に乗せ、俺は今取った一冊の表紙に手をかける。


 ―――すると。


「………………!?」

「えっと? その魔法は……【灯火ともしび】か。術式とその意味は?」

「揺蕩うの炎よ 恵の御身を以って 闇夜を照らせ。意味は……その名の通り、真っ暗な夜を照らす……救いの、恵の灯火」


 最初に見た……本当に一番初めに紹介されていた魔法。

 書面を見た瞬間に、何もかもが頭の中に流れ込んできた。

 術式をはじめとして、この魔法ができた経緯まで、そのすべてが一瞬にして頭の中に入ってきたのが分かった――神樹さまと契約を結んだあの時のように。


「な、いけそうだろ?」

「はい……でも、そんな簡単に……」

「そうだな。そうやって覚えられるのはせいぜい自分の『基礎レベル』に合ったところまで。そっから先を覚えようとしたら頑張るしかねえ」

「基礎レベル……ですか?」


 そういえばなんちゃらバングルを使ってステータスを見た時にそんな項目もあった気がする。確か当時の基礎レベルは2だ。


「おう! そこでだ、次に手を付ける前にこれをつけてくれ」


 そういってアルトガが俺に差し出してきたのは、例のバングルに似た腕輪。

 ギルドで見たものよりも大分古いという印象をうけるその腕輪は、溝からのぞき見える光も虹色ではなく既に緑色一色だった。


「そいつはアプティチュードバングルのエルフ専用版って感じだな。エルナが以前見たことのあるものとは違うだろう? あれは全種族対応の量産型でな、そのために性能を少し落としてあるからわからないこともあっただろ?」

「あー……はい、確かに」


 ギルドでは分からなかったこと……例えば俺の魔力値や母さんの謎に包まれた数字。

 あの時は表示限界を超えたとかなんとか言っていたが、あれはバングルの性能が低いせいだったのか。


 俺は一体そこにどんな数値が示されるのか、前回……あの時から比べて少しは成長できているのか、その実感を得る機会に少しばかり心を躍らせながら、アルトガに渡された腕輪を右腕にはめた。

 すると漏れ出ている緑色の光が、腕輪の中を回転するように流れ始め、一層強い光を放ち始める。


 ……そして表示された数字を理解するのに、俺はしばらくの時間を要してしまった。



 名前:エルナ・レディレーク

 種族:ハーフエルフ(人間:エルフ=1:9)

 性別:♀

 職業:魔法使い見習い

 ―――――――――――――

 基礎レベル:14    / 50

 生命力  :567   / 2500

 精神値  :3778  / 5000

 魔力値  :21194 / 9999

 ちから  :12    / 2500

 素早さ  :160   / 250

 知力   :757   / 5000

 運勢値  :7     / 255


 物理適正値:746

 魔法適正値:25382

 属性特性 :炎 風


 備考   :【賢者の素質Ⅰ】精神値、魔力値、知力に+30%

       【精霊の加護】魔力値+1000

       【混血】魔法取得レベル補正+10

       【呪いの極意Ⅱ】呪い耐性値100%・すべての物理、魔法攻撃に呪い属性付与7%



「……?????」

「すげえなおい……まさかここまでとは!! すげえよ!!!」


 なんだか嬉しそうに俺の肩を掴みぶんぶんと振るアルトガだが、飛び込んできた情報を俺はまだ飲み込めていない。

 つか変わりすぎだろ!!

 なぜかレベル12も上がってるし! 右の数字って多分上限値だよな!? なんかもうツッコミどころ増えててすごいとかそれどころじゃない!!


 ―――でもとりあえずちからと運勢は伸びててほしかった!!! つらい!!!


「参考までにこれ、俺の写しな。最後に測ったのは50年前くらいだが、君の自信への足しにしてくれ」



 名前:アルトガ・イスネイル

 種族:エルフ

 性別:♂

 職業:魔法使い

 ―――――――――――――

 基礎レベル:50   /50

 生命力  :2300 / 2500

 精神値  :4497 / 5000

 魔力値  :8175 / 9999

 ちから  :1352 / 2500

 素早さ  :177  / 250

 知力   :5000 / 5000

 運勢値  :235  / 255


 物理適正値:4064

 魔法適正値:17849

 属性特性 :炎


 備考:【精霊の加護】魔力値+1000

    【魔法の極意・炎】全ての炎属性魔法に干渉可・熱耐性値100%

    【基礎上限値】



 うわぁすごい。

 アルトガさん本当にすごい魔法使いなんですね!

 で、これをどう自信に繋げろと!?

 自信への足しにしてくれって言われても、全く参考にならなくて困る!

 俺と同じくらいのレベル帯の人だったらそりゃ大いに参考になるだろうけども、カンストしてる人の数字見せられても大分困るよ!? アルトガさん!?


「えっとー……」

「なんだ? どうかしたのか?」

「いやーそのー……あまりにも実感がないというか……」

「んー! そうか、そりゃそうだよな、スマン! じゃあ俺の方は忘れてくれ!! 気を取り直してお勉強の時間だ!」

「……えぇ……」


 そう言われましても……。

 俺は半ば呆れにもにたような視線をアルトガに送りつつ、【灯火】のページを開いたままの魔導書を、次のページへとめくろうとする。


「あーちょっと待ってくれエルナ」

「はい?」


 しかしその直前でアルトガが俺を止め、山の中からまた別の魔導書を取り出して俺に手渡して見せた。

 その魔導書の表紙に書かれていたタイトルは【中上級魔法実戦編 炎の巻 其の一】。


(……いきなり中級と上級やれってことですか)


 時間がないとはいえもっと基礎を学ばせていただきたいんですけど!?

 基礎大事!!

 しかしそんな俺の心情を読み取ったのか、俺の肩に手を置いたアルトガが補足を入れるようにして口を開いた。


「初級も大事だがな、【灯火】よろしく大部分は日常的にあれば役に立つ程度のものが多いんだ。戦闘で必要なものは大体が中級以上。君はこれから戦場に行くかもしれないんだ、優先順位はもちろんそっちの方が高くなる」

「な、なるほど……」


 そう言われればまあ、その通りか。

 俺はページをめくりかけていた【エルフ族初級魔法集 炎】を閉じ、渡された【中上級魔法実戦編 炎の巻 其の一】の表紙をめくる。

 ―――と、その時。


「エーーールちゃーーーーーん!!!!」


 驚く間もなく、俺の視界が暗闇と優しい包容感に覆われ、息をするのがものすごく苦しくなった。

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