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A―10「手に入れたモノの先」★

 グラ―ス歴277年 (セイ)の月40日 テ族の里


 早いもので、結婚してからもう十年が経った。

 なんだか体感ではその半分もないような気がしてならないのだけれど、やんちゃ盛りの子供の後ろ姿を見ていると、やっぱり十年経っているのだと実感する。


 私とグレィの子、レイルは今五歳。愛称はレイ君。

 産まれる前は、色々な意味で私とグレィのどっちに似るのかとそわそわしたのだけれど、今回は半々くらいだった。

 耳の形は私よりは短いけれど長く尖っていて、目の色は私譲りの紫眼。でも目付きがちょっとだけツリ目っぽいのと、綺麗な金髪はグレィ譲り。

 耳の形からしてエルフの血が濃いのかなあと最初は思ったけど、存外そうでもないたみたい。


 山の上につくられた懸造の舞台の上でグレィに抱き上げられるレイルを、私は後ろのベンチから見守る。

 大きくなってきたお腹をさすりながら、ちょっとうらやましいと思ってしまった。

 ……そう、なんだかんだでもう二人目を妊娠してから七カ月経とうとしている。

 エルフも竜族も長命種だし、そのうえ異種間交配になるから子供はできにくいはずなんだけど……おかしいな?


「おやエルナさん。こんなところにいたのかい」

「ああ、グリーゲルさん……レイ君がここの景色を観てみたいっていうもので」

「うむ。ここから見る空は綺麗であろう」


 舞台に面する屋敷からグリーゲルさんが出てきて、私の隣に腰掛ける。


「しかしもう十年……グラドーランを追放してからは二十年か。ようやっと来てくれたな。我は待ちくたびれたぞ!」

「グリーゲルさんしょっちゅうウチ来てるじゃないですか」

「それとこれとは別だろう! よもや忘れていたわけではあるまい?」

「あ、あははは……」

「その反応は本気で忘れていたのか!?」


 ごめんなさい。ぶっちゃけ忘れてました。

 だって結婚してから忙しかったし。

 グレィと一緒にお散歩行ったり、色々なところにデートに行ったり。

 レイルが産まれてからは初めての育児に追われて。

 あとはグレィとデートしたり。レイルも連れてお出かけしたり。デートしたり。

 ……えへへ。


 あ、でもそればっかりじゃないよ?

 一人前の賢者を目指すために週に一回はシーナさんの手ほどきを受けてるし、そのおかげで何か月か前に【飛行】の魔法が使えるようになった。

 まあ、流石に今は妊娠中だからお休みしてるんだけど。


「……まあ、君たちが幸せならそれでよしとしよう。どれ、我も可愛い孫にこの景色を自慢せねばな」

「あ、ずるいです!」

「代わりにグラドーランをよこそう」

「ちょっとだけですよ!」


 うむう。そう来られては仕方ない。

 なんだかいいように乗せられた気がしないでもないけれど、うん、仕方ない。

 等価交換である。


 グリーゲルさんの背中を見送ると、すぐにグレィが私の元に歩いてきて隣に腰かける。

 私は視線を可愛い息子へと向けたまま、グレィの頼もしい肩に身を任せるように寄りかかり、ぎゅっと互いの手を握りあう。


「レイ君、どうだった?」

「ああ、すごく喜んでたよ。いつかお腹の子が大きくなったら、今度は背に乗せて皆で飛行旅行でもしてみようか」

「空の家族旅行かぁ~……あ、今お腹蹴ったよ。これは決定かなあ」

「ははは。じゃあ今から楽しみにしておこう」

「うん」


 二人でお腹をさすり合い、将来の約束をする。

 一応、空の旅もこの十年のうちに何回か経験した。

 最初は怖かったけれど、今では一緒に風になる感覚がとても心地いい。

 だからこの約束は楽しみにせずにいられないのだ。空の家族旅行なんて、とてもロマンチックな響きに心が躍る。


 ……と、そうだ。家族と言えば。


「そういえばこの子の名前どうしよっか」

「む。そうか、もうそろそろ考えておかないとだね」

「レイ君の時は、父さんと母さんすごかったよねぇ」

「あ、あそこまでの大喧嘩は勘弁願いたいな……命がいくつあっても足りん。そしてレイルが死ぬ」

「喧嘩っていうよりもう戦争って感じになってたもんねえ。レイ君に掠り傷一つでも付けたら私が許さないけど」

「それはそれで恐ろしい……」

「うふふ。じょーだんだって」


「ママー!」


 グリーゲルさんの――おじいちゃんの腕の中から飛び出したレイルが、とことこと私のところに走り寄ってきた。

 どーんと、元気いっぱいでお腹に突っ込んでくる我が子の可愛さに打ち震える。


「んーっ、レイ君今日も可愛い! 景色どうだったー?」

「うん! あのね、すっごいんだよ! ドラゴンがいっぱい飛んでた!」

「おぉ、ドラゴ……え? 本当に?」


 ドラゴンがいっぱい!?

 確かにここは竜族の隠れ里だし、そりゃ飛んでてもおかしくはないだろうけど……いっぱいってどういうことですか我が息子よ!?


「うん! でね、でね、ママとお腹の子にもみせてあげなきゃって!」

「じゃあ、レイ君にママたちを案内してもらおうかなー」

「いいよ! こっちこっち!」


 私の手を引き、レイルが舞台の先頭部分まで案内してくれようとする。無理に引っ張らないのは、きっと気を遣ってくれているんだろう。齢五歳にしてそんな気配りができるとは、流石自慢の息子。お母さん鼻が高くなっちゃう。


 グレィに体を支えてもらいながらゆっくり立ち上がって、嬉しそうに先導してくれるレイルのあとを追う。

 そうしてその先に見えた光景は、確かにレイルが言った通りだった。


 目下には岩山に囲まれた、大自然を思わせる絶景。その中で何頭ものドラゴンが空を飛び回り、私の目を楽しませてくれた。


「おぉー……!」

「ね! すごいでしょ!」

「うん、これはものすごい! ありがとーレイ君」

「へへへ」


 本当にすごい。こんなの滅多に見られるものじゃない。

 これはきっと、テ族の里の人たちがレイルを楽しませようとしてくれたことだ。

 みんながレイルを、私たちのことを歓迎してくれているんだ。


「どれ、孫に良いところを見せねばな。我も混ざってこよう」

「「え!?」」


 謎が解けて、素直にこの神秘的光景を心から楽しんでいた矢先。

 私とグレィが声を合わせて、グリーゲルさんの発言に驚愕の声を上げた。

 グリーゲルさんは勢いよく舞台から飛び降りると、そのまま巨大な漆黒のドラゴンとなって群れの中へと混じっていく。

 そして流石は竜族を統べる王というべきか。グリーゲルさんは他のドラゴンたちと比べてもひと際大きく、彼が混ざった途端にドラゴンたちの様子が一目でわかるほど変わった。


 自由奔放に飛び回っていた彼らの動きが、王の介入によって統率の取れた一つの型へと変貌していく。

 時に自由に、時に荒々しく、しかしどれもこれもが美しく勇猛なそれは、空を舞う踊り子のようだった。

 一頭のドラゴンを先頭に繰り広げられる……空の饗宴(きょうえん)


 私もレイルも、その美しすぎる舞に見惚れ、感動した。

 そんな中、ふと隣に目を向けてみると、なんだかうずうずしている様子の最愛の竜族が一人。


「グレィ、混ざりたい?」

「いいや、少し昔を思い出していただけさ。我はどこにもいかないよ」

「大丈夫、混ざりたいって言っても私が行かせない」

「ぬっ!?」


 ちょっと悪戯顔になって言ってみると、グレィは本気で驚いたような顔を見せてくれた。

 うん、可愛格好いい。

 でもそれも一瞬の事。もうどこにも行かないと、私たちは確かめ合うように体を寄せ合い、互いの体温のぬくもりを実感する。


「あ! ねえママ、今お腹蹴った!」

「蹴ったねぇ、こっちの子もすごーいって喜んでる」

「おとうとかな! いもうとかな! パパとママはどっちだと思う?」

「うーむ……元気だから男の子かな」

「私的には女の子も一人欲しいかな~」

「どっちだろー、ボクもおにいちゃんかあ!」

「しっかりしなきゃねー」


 わくわくと目を輝かせるレイルの頭をなで、引き続きドラゴンたちの舞を三人……いや、四人で最後まで楽しんだ。

 解散したドラゴンたちは、グリーゲルさんも含めて皆舞台を迂回する形で里の方へと戻っていく。

 すると最後の一頭が視界から消えると同時に、屋敷の方から一人の女性がやってきて、一礼の後に口を開いた。


「皆様。宴の準備が整いました」

「あ! わざわざありがとうございます」


 ドラゴンたちのおもてなしは、まだまだこれから。

 この後は、私たちを歓迎するパーティを開いてくれるとのことだった。

 この里の人と十年前にひと悶着あった私たちだけれど、里の人達はそこまで気にしてはいない様子で、むしろ手厚く歓迎してくれている。

 正直申し訳なさすらも感じてしまうけど、同時にこの里の温かさが身に染みてうれしかった。


「パパ、うたげってなに?」

「宴というのはな、何かをお祝いしたり、縁起を担ぐ祭りごとなんかで――」

「えん???」

「おいしいご飯がいーっぱい出てきて、みんなで一緒に食べるんだよー」

「ごはん!」


 まったく、それ五歳児にする説明じゃないよ? 

 そんな風にちょっとだけ呆れ気味にフォローをいれてみる。

 まあ、そういうところも可愛いし大好きなんだけど。


「ごはん、たべる!」

「そうだね、それじゃあいこっか」


 大はしゃぎのレイルを真ん中に立たせて、私たち三人は一緒に手を繋ぐ。

 私自身、竜族流の宴は初めてだから今から楽しみだ。

 グレィも満を持しての里帰りで、二十年ぶりに顔を合わせる人もいるだろう。

 私も、グレィも、そしてレイルも。各々がこれから起こる出来事に胸躍らせて、にこりと笑顔を浮かべてみせる。


 私たち親子は、そんな次の楽しみなひと時へと向けて歩み始めたのだった。


挿絵(By みてみん)

丁度1年と2カ月。

全215話に渡るご愛読ありがとうございました!

エルナたち親子の物語はまだまだ続きますが、本作はここで一旦区切りとなります。


活動報告の方へあとがきを掲載しましたので、余韻に浸りたい方、裏話など好きな方はぜひ。(2記事分あります)


1/2→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1044685/blogkey/2174841/

2/2→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1044685/blogkey/2174844/


最後になりますが、ここまで本当にありがとうございました。

よろしければまた、次の作品でお会いしましょう。


'19/1/11 新作始めました!こちらもよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

https://book1.adouzi.eu.org/n0314fg/

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― 新着の感想 ―
[一言] 他サイトからですがとても面白かったです! 自分が好きなTS要素が込められていて一気読みしてしまいました
[一言] ここまで読みましたが、正直最終的に男と結ばれるルートならTS設定じゃなくても良かったのでは…?とは思っちゃいますねw 多分自分がTSしても絶対に元同性とは寝たくないし友人以上には見れないと思…
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