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【書籍化・コミカライズ決定】ワンオペ母が悪役令嬢になったら、攻略対象が地雷にしか見えない件  作者: 葵 すみれ
第二章 杖作成

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11.王太子殿下を、パートナーから外しました

 今日から、本当のフィールドワークが始まる。


 先日の実習は、準備段階に過ぎなかった。

 杖の材料となる枝を選び、加工するための下地を整える──いわば、入口だ。


 だが、ここからは違う。

 実際に魔力を扱い、杖に流れを通し、循環を学ぶ。

 失敗すれば、結果がそのまま形になって残る。


 その最初の舞台が、「風の丘」だった。


 小高い丘一面を、絶え間なく風が渡っている。

 草は同じ方向へなびき、空気そのものが流れているのが、肌でわかる。


 足を踏み入れた瞬間、手にした杖がわずかに震えた。

 先日選び、加工されたばかりの枝。

 まだ魔力を定着させていないためか、外界の影響を受けやすい。


 ──ここからは、慎重に動く必要がある。


「静かに。まずは説明をする」


 教師の声が、風を割って届く。

 生徒たちは足を止め、それぞれ杖を持ち直した。


「本日のフィールドワークは、風の地脈観測だ。ここからが、杖作成課程の本番になる」


 教師は丘の先を示す。

 地面の色がわずかに違い、空気の流れが集中している地点。


「地脈を流れる風を読み取り、それを杖に取り込む。魔力循環の基本を学ぶための実習だ」


 枝を選ぶだけだった前回とは、意味が違う。

 今度は、外から流れ込む魔力を、自分で制御する。


「制御が甘ければ、杖が暴れる。自分だけでなく、周囲を巻き込む可能性もある。よく注意するように」


 数名の表情が、わずかに引き締まった。


「それと、今回から形式を変える。これまでは一組ずつ行動してもらっていたが、本日からは二つのペア、四人一組で行動してもらう」


 小さなどよめきが起きる。


「地脈の扱いは、相互確認が不可欠だ。互いの判断を見て、修正できるようにしてほしい」


 教師は名簿に目を落とし、淡々と告げた。

 そして、次々と名前が呼ばれていく。


 私と殿下のペアは、オズワルドのペアと合同で行動することとなった。

 名前が呼ばれると、オズワルドはこちらを見て、にっと笑った。

 その隣には、やや緊張した面持ちの一年生女子が立っている。


「──以上だ。準備が整い次第、実習を開始する」


 教師の声が途切れると、周囲が一斉に動き出した。

 ペア同士が合流して、それぞれ散っていく。


 私と殿下のところに、オズワルドがやって来る。


「よろしくな!」


 相変わらず屈託のない笑顔だ。

 その隣で、一年生の女子が小さく頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします……」


 肩に力が入っているのが、ひと目でわかった。


 四人が揃った、その瞬間だった。

 ローレンス殿下が、迷いなく口を開く。


「とりあえず、僕の言う通りに動いてもらえるかな。余計な混乱は避けたいんだ」


 視線は全体を見渡しているが、意見を求める気配はない。

 それは確認ではなく、宣言だった。


「まずは丘の上だ。風の流れが一番安定している」


「おっ、了解!」


 殿下が言い終えるより先に、オズワルドが駆け出した。

 杖を肩に担ぎ、勢いよく丘を登っていく。


「あ……!」


 一年生の女子が思わず声を漏らす。

 追いかけるべきか、ここにいるべきか判断がつかず、足が止まったようだ。


 私は一歩前に出た。


「待ちなさい、オズワルド・グランシェ」


 声は大きくないが、はっきりと響いた。

 オズワルドはぴたりと足を止め、振り返る。


「え?」


「四人一組で行動する実習よ。勝手に先行しないで」


 一瞬きょとんとした顔をしてから、彼は頭をかいた。


「あ、そっか。悪い」


 オズワルドは素直に戻ってくる。

 一年生の女子が、ほっとしたように息を吐いた。


 私は、改めて全員を見渡す。


「まず、方針を決めましょう」


 一年生の女子が、はっとこちらを見る。

 オズワルドも、今度は黙って頷いた。


「四人一組で動く理由は、互いの判断や魔力の癖を確認するためです。役割を決めて、進めたほうが安全ですわ」


 丘の上に向かうか、風の流れを測る位置をどうするか。

 杖に風を通す順番。

 些細だが、共有すべきことは多い。


「合同で動く以上、一人の判断で突き進むべきではありません」


 そこまで言ったところで、ローレンス殿下が静かに口を挟んだ。


「そこまで考える必要はないよ」


 穏やかな声だった。

 苛立ちも、嘲りもない。


「僕が全体を見て判断する。君は、従っていればいい」


 悪気はない。

 本気で、それが最善だと思っている。

 だからこそ、質が悪い。


「殿下」


 私は、今度は一つずつ言葉を選んだ。


「ペアとは、補い合う関係です。役割を分担し、互いの判断を確認するもの」


 視線を逸らさず、続ける。


「まして今回は、合同作業です。誰か一人が進める場ではありません」


 オズワルドが、気まずそうに視線を泳がせる。

 一年生の女子は、ぎゅっと杖を握りしめていた。


 けれど、ローレンス殿下は表情を変えない。


「時間の無駄だよ」


 あっさりと、切って捨てる。


「議論しても結論は同じだ。責任は僕が取る」


 そこに、聞く姿勢はなかった。

 すり合わせる気も、譲る余地もない。


 ──その瞬間、私は理解した。


 この人は、対等な話し合いをする気がない。

 パートナーを必要としていない。

 求めているのは、従う相手だけだ。


 胸の奥で、何かが静かに切り替わる。


 でしたら──こちらも、「対等なパートナー」として扱うのは、やめさせていただきますわね。殿下。

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― 新着の感想 ―
こんなやつが王族なんて。学べない呪いにでも掛かってるんか? 他の三人で頑張って見せつけてやって!
そうだね殿下、貴方に従うのは「人生」という時間の無駄だ。
 学ばないなぁ、殿下。学園は学ぶところですよ?
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