プロローグ
「二学期の杖作成課程のペアを発表する。まず──ローレンス・アークフェルド殿下と……ノエリア・カルディナート嬢」
教室の空気が、凍りついた。
黒板の前で教師が淡々と読み上げた名前に、私は思わず息を呑む。
「……え?」
一瞬、耳を疑った。
隣でグレンが顔を上げる気配がする。
まるで世界が静止したかのように、誰もが息を潜めていた。
ローレンス殿下は、最初に名を呼ばれた瞬間、当然のように前を向いていた。
だが「ノエリア」の名が続いた途端、わずかに姿勢が揺れた。
視線が黒板から外れ、こちらへ向けられる。
「学園側の判断だ」
教師の一言で、教室のざわめきが一気に広がる。
殿下は周囲の反応を気にしたように一瞬だけ眉を寄せ、落ち着こうとするように深く息を吸った。
「静粛に。一学期は各自好きにペアを組んでもらった。その結果を考慮して、二学期は学園側で最良となるペアを選んだ。では、次に──」
動揺が漂う中、教師は次々と名前を読み上げていく。
だが、私の耳にはもはや入っていなかった。
なぜ、殿下と──?
どうして、こうなったのか。
横目で見えたローレンス殿下の表情は、読み取りにくかった。
不満なのか、納得しているのか──ただ一つ確かなのは、視線の先が私で止まっていたということだけ。
──話は、夏休みにさかのぼる。
第二章は毎週金曜日19:10更新予定です。
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