豪州:謎の鉱山
謎の鉱山の所有者は北豪州のアボリジニの一族ミラー族の土地でした。日本軍は磯大佐を派遣して交渉に当たらせます。
オーストラリア北部の都市ダーウィン。
その250km東にあるRanger鉱山。
この地域はすでにキングスランドの領土である。
そこに京都帝国大学の物理学研究室の視察が入った。
何かの資料を採り、しきりに頷いている。
その目的も用途も不明である。
地層は不整合関連型鉱床で、約18億年前に形成された。
岩塊に出来た堆積盆地に生成され、地層となったものだ。
ここは豪州原住民、ミラー族の土地。
族長のトビーは進駐する日本軍を快く迎えてくれた。
青い目に金髪の英国人に比べて外見はトビーに似ていた。
日本人は黒い瞳に黒髪の同じアジア人同胞というのもある。
日本軍が「大東和共栄圏」を掲げた解放軍という喧伝もある。
かつての支配者の英国人は搾取するだけで、何も与えてはくれなかった。
ダーウィン近郊のアーネムランドはウンブガルラ語を話していた。
だが英国人は英語を話すよう命じ、ウンブガルラ語を禁じた。
英国人はウンブガルラ語の名前を絶滅に追いやろうとしていた。
鉱山の名のレンジャーも族長のトビーも英語の呼称であった。
彼らは居留地を追われ、沿岸の港街で荷役の仕事に就いていた。
住民の牧歌調の長閑な生活は、長時間の重労働の使役に変わった。
誰でもいいから助けてくれといった時に日本軍がやってきたのだ。
英国人を追い出して、今度は日本人が村にやって来た。
族長のトビーは新しい支配者に丁寧に挨拶した。
トビー「族長のトビーです」
磯大佐「F研究の磯恵というものです」
磯「英国人と日本人は違う」
「レンジャー鉱山での採掘は原住民の雇用を生むのです」
「積み出しのために港町が出来てさらに豊かになるでしょう」
「ぜひ日本の企業と契約して下さい」
トビーは興味なさそうに聞いていた。
前の支配者も同じような事を最初は言っていた。
だが鉱山で働いていた当時の仲間は体調を崩していた。
鉱山から採掘される鉱石には毒があるのだろう。
Fe,Zr,Asを含むデービド鉱ばかりで採算が取れずにいた。
英国人はまだこの鉱山の有用性には気付いていないのだ。
トビーが見るところ、英国人は決して鉱山には近づかない。
床に落ちた土も泥も粉塵もすべて毒が含まれているのだ。
従業員にも徹底洗浄を義務づけていた事からも明らかだ。
英国人は敷地外でもゴーグルとマスクを付けていた。
空気さえも毒が含まれているという事なのだろうか?
そのような毒を採掘する意味がトビーには分からない。
そこで新しい征服者の日本人に聞いてみた。
トビー「一体何を掘るつもりなのですか?」
磯「……」
トビー「鉱物はなぜ毒を帯びているのですか」
磯「……」
日本人は何も答えず沈黙を通していた。
これも前の支配者の英国人と同じだ。
我々を騙して、毒の鉱山で使役するつもりなのだ。
だが日本人は腹を決めたようだ。
磯「よかろう、すべて話そう」
「それを聞いて是非を問いたい」
莫大な雇用とそれに伴うリスクを説明する。
鉱物の名前はウラニウム。
豪州の広大な地域を無人リモコン機(ドローン)が飛んでいた。
数百機が碁盤目状に飛行し、鉱物を探し求めていた。
そのガイガーカウンターが異常値のスパイクを示していた。
その地がここレンジャー鉱山だったのだ。
ウラン採掘の選鉱屑は、100万年の間大地を汚染する。
<ウラン半減期45億年、副産物トリウム半減期80万年>
磯大佐「その除去の方法は今のところ無いのが現状だ」
族長「そんな事を我々が承諾すると思うか?」
族長は声を荒げたが、それも当然のことだった。
磯大佐「我々は正直に話しました、決断を下すのは貴方だ」
族長のトビーは考え込んだ。
鉱山のあるところは降雨量も多い。
雨が降ると鉱山からは色々なモノが流れてくるだろう。
かつて洪水は下流に栄養をもたらす天の恵みだった。
だが開山となれば、それどころではない。
ボダ山と鉱滓ダムは放射性物質禍の地獄だ。
ウラン含有量は0.1%、1トンの鉱石から1kgしか採れない。
あとの999kgは選鉱屑で、放射性物質である。
さらに浸出、溶媒抽出、分解、沈殿に使った廃液は猛毒だ。
これを中和する為に塩化バリウムを添加するが効果は薄い。
さらにイオン交換樹脂に吸着させるが効果は限定的だ。
どう考えても、一番いいのは採掘しないことなのだ。
族長のトビーは決断した。
「元の環境に戻してくれたら、無料で土地を提供します」
磯大佐「というと?」
族長「鉱山を掘った後、元のようにもう一度埋め戻すのです」
それはとんでもない条件だった。
そして当たり前の要求でもあった。
溶液は真空蒸発にかけて、水分を蒸発させる。
粉末残渣を残土で希釈して圧力を掛けて圧縮する。
それを鉱山跡に埋め戻すのだ。
気の遠くなるような作業だ。
おそらく600億円近い赤字になるだろう。
だがウランは絶対必要で採掘するしかない。
Ranger鉱山は世界最大級のウラン鉱山なのだ。
日本が原子爆弾を造るには、ほかに選択肢は無かった。
かくしてウラン採掘は地元の承諾を得て始まった。
トビーたちには2億A$以上の見舞金が出された。
かつて西豪州で見舞金が出された鉱山がある。
この時は原住民アボリジニはアルコールに依存してしまった。
これは米国のインディアンを手懐ける方法でもあった。
安いウイスキーでベロンベロンにインディアンを酩酊させる。
そこで白人は土地譲渡書にサインさせて土地を奪ってきた。
文字や捺印のない部族には拇印を推させて捺印とした。
目が覚めた後で地団駄を踏んでも手遅れだった。
日本人にとって、こんな方法は天地神明に掛けて許されない。
元あった場所に元の濃度にして戻せば自然に還るのだ。
見舞金は彼らの生活/環境/インフラ/教育に当てた。
残った資金は運用に当てて毎月配当金が出るようにした。
磯大佐「アルコールはほどほどにな」
鉱山の最も効率的な採掘方法は露天掘りだった。
露天掘りは自然環境を破壊するので坑道を鉱床に沿って掘った。
鉱石は工場で砕かれ、イエローケーキになるまで加工される。
これが酸化ウランの粗粉末で、出荷はこの状態でおこなわれる。
これを90%濃縮して核兵器の造れる濃縮ウランを造るのだ。
ウランの濃縮には「電磁濃縮法」が用いられた。
電磁気学のローレンツ力を用いてウランをイオン的に分離する。
重いU-238は外側に、軽いU-235は内側に分離する。
電磁気力を発生させる為には、大きな電力と強力な電磁石が必要だ。
その為に大量の銅線が必要で、銅ではなく銀線が使われた。
この方法は遠心分離機のように物理的可動部が無い。
電力を大量に消費すれば、いくらでも濃縮が可能だった。
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そして6ヶ月後。
1943年06月15日。
ここは米国首都、ワシントンD.C.。
新ホワイトハウス執務室では2人の男が言い争っていた。
フランクリン・ルーズベルト「な、なんだとう!」
レズリー・グローヴス「日本は豪州で謎の鉱山を採掘しています」
ルーズベルトは米大統領、グローブスはマンハッタン計画責任者だ。
1942年9月に米国では計画は始まったばかりだった。
極秘研究所が全米の各地に分散して作られている。
グローブスは科学者にも全体像をぼやかしていた。
グローブス「日本は原子爆弾を製造しています」
「研究は京都帝国大学で行われていました」
原子爆弾に核分裂を起こさせる技術は爆縮レンズという。
これはインプロージョン方式とも呼ばれている。
この方式を構成する理論はZNDモデルと呼ばれ超難解な数式だ。
優秀な数学者グループでも10ヶ月は計算に掛かると見られていた。
だが日本には半導体計算機(コンピューター)が導入されていた。
ルーズベルトもグローブスもその事実を知らない。
グローブス「計算には10ヶ月以上掛かります」
「今は研究室は解散しており、研究はストップ」
「既に研究段階を脱し、量産段階に入ったモノと思われます」
ルーズベルト「根拠は?研究をやめたのでは?」
「独ハイゼンベルクも核分裂が起こせずやめたと聞くが」
「豪州の謎の鉱山からの出荷目録を極秘入手しました」
「イエローケーキの出荷が止まりません」
「not progress(進捗無し)ではないというのだな」
「原料の日本への出荷が続くかぎりは」
ルーズベルト「大量の資金、電力、人員が必要なはずだ」
「我々でさえ、莫大な費用を掛けて、やっているのだからな!」
ルーズベルト「その流れを掴めば、研究機関とプラントが分かる筈だ」
グローブス「我々のように秘密都市を造っていたら追跡は困難です」
日本は米国のようにいかにも(サイトXなど)の名はあえて付けていない。
神仙閣だとか桃源郷だとかそういう名前で呼んでいた。
米国のスパイは苦労して桃源郷を探し当てていた。
しかしそこは露天風呂付き温泉旅館だったのだ。
神仙閣は神戸の中華料理の老舗料理店だった。
外人にはたどり着けない謎の秘密都市。
2人はしばらく沈黙していた。
恐ろしい想像が2人の頭の中を駆け巡った。
そう、欧州には独国がある。
ルーズベルト「独国が絡むと事は重大だ」
グローブス「そういう事になりますな」
日本は三国同盟で独国と技術的に連携している。
独国が原爆を作っていないのは既に分かっていた。
だが日本から独国に技術が渡ったらどうなるのか?
独国では大陸間弾道弾が研究中である。
その二つの超技術が合体したらどうなるのか?
おそらく米国北端メイン州は射程内に入っているだろう。
かたや日本は恐ろしい敵国に成長していた。
疲弊するどころではない、着々と戦時成長していた。
ガダルカナル-ポートモレスビー間の日本防衛ラインは今だ健在だ。
豪州はもはや戦力としては何の役にも立たない。
米軍はニューヘブリデスを奪われ、フィジー、サモアで遅滞したままだ。
日本占領地は豪州北部に及んでいる。
インドではディマプールを奪われ、ハンプ航路は消滅した。
蒋介石は困窮して、日本との講和の道を探っているという。
南方資源から枯渇するはずの物資をドクドク吸い上げる日本国。
ニッケル、コバルト、ボーキサイト、ゴム、石油……。
真珠湾攻撃で日本が負けたのがいけなかったのか?
あれで日本軍は用心深く、慎重になってしまった。
日本お得意の「見敵必戦」「速戦速決」は鳴りを潜めてしまった。
今や戦術/戦略を使いこなす戦争の天才だった。
防御兵器のレーダーもいち早く開発し、ソナーも手に入れたと聞く。
あんなに格闘戦を重んじ、防禦を蔑んできた日本軍が、である。
米軍も押されっぱなしでは勿論ない
起死回生の大進攻が準備されている。
その名はカートホイール作戦(Operation CartWheel)。
車の両輪作戦の由来は、2つの作戦の合体だからだ。
マッカーサーはニューヘブリデス陥落を予言し、復権していた。
また知名度が高く、国民に人気のある将軍である。
①ニミッツの主張するフィリピン素通り台湾上陸作戦。
②マッカーサーの主張するフィリピン上陸作戦。
この2つの作戦を勘案して、策定された「両輪作戦」だ。
マッカーサーはフィリピン上陸に拘っていた。
ルーズベルト米大統領は1944年大統領選挙を控えていた。
国民に人気のあるマッカーサーは大統領選挙に出るつもりだ。
このままではルーズベルトの前に立ちはだかる政敵となろう。
そこでルーズベルトとマッカーサーは密談を持った。
選挙で争わない代わりにフィリピン上陸を承認したという。
密談なので書式や録音など記録が残っているわけではない。
密約によってマッカーサーは選挙に立候補しなかった。
これでルーズベルトが再選をするハズだったのだ。
しかし1944年の選挙戦では結局別の人間が大統領の席を奪った。
2人の密約は結局徒労に終わったのだった。
その名はカルビン・クーリッジ・JR。
かつて北里に命を救われた16歳の大統領の息子。
1924年から20年が経過し彼は35歳になっていた。
彼が若き大統領となり、戦後の日米関係は大きく変わる。
だが今はルーズベルト米大統領に話を戻そう。
1943年06月20日がD-day(作戦開始日)とされた。
遅れる事3日後の23日、米軍総反攻作戦が始まる。
正史ではルーズベルトとマッカーサーの裏取引が「あったらしい」という事しかなかったのでIF戦記では「あった」事にしています。ついに日本はウラニウム鉱山を手に入れました。しかも世界最大級のウラン生産量を誇るレンジャー鉱山です。次回は原子爆弾です




