第268話 アウトドアショップオープン
「新しい商品の紹介はここまでとなります」
他にも補給食の餅や塩飴、遊具のトランプ、オーガニックシャンプー、ポータブルピザ窯など、アウトドアショップの能力がレベルアップして購入できる商品がかなり増えたが、あまり新商品を一気に販売すると従業員の俺たちがパンクしてしまう。
新商品は少しずつ増やしていくとしよう。
「さて、続きまして当店の新しい従業員を紹介します。なんとこちらはただの従業員ではなく、すべて魔法にて動作しております」
俺が紹介すると、スヴィーさんの操作する3体のルーンゴーレムが前の方へ出る。
「えええ~! 嘘!?」
「ま、魔法だって!?」
「そんな魔法聞いたことないぞ!」
お客さんたちが先ほどの新商品を紹介した時よりも驚いた声を上げる。
それも当然と言えば当然だ。ランジェさんやフェリーさんにスヴィーさん、俺の身の周りには魔法を使える人が多いから忘れてしまいそうになるが、そもそもこの世界では魔法を使える者自体が少ない。
そして召喚魔法を使える者はさらに限られる上に、召喚魔法は生物を模した召喚獣を召喚するため、スヴィーさんのルーンゴーレムのような人型のゴーレムを召喚する魔法など見たことがないのだろう。
『スヴェンだ。よろしく頼む』
「しゃっ、喋った!?」
「話すこともできるのね!?」
厳密に言うと話すことができるのはルーンゴーレムの頭に設置したトランシーバーのおかげなのだが、そこまで詳しく説明はしない。
そして大丈夫だとは思うが、念のためにスヴィーさんの名前は偽名でスヴェンということにした。さすがに気付かれることはないと思うけれど、スヴィーさんは他国の賢者だからな。
……今更ながら、ここが始まりの街であることを忘れてしまう。
「話し掛けることもできますが、基本的に質問などは他の従業員までお願いします。また、護衛の腕もありますので、犯罪行為や従業員へのセクハラ行為はおやめください」
「た、確かにとんでもなく強そうだ……」
「鎧もすごいわね……」
ルーンゴーレムはグレゴさんが用意してくれたプレートアーマーを身に着けている。全身仕様なので、一見すると中に人が入っているようにも見え、その威圧感はかなりのものだ。
入り口の前に立っているだけで、よからぬことを考える輩に対してはかなりの抑止力にもなるだろう。
Bランク冒険者のランジェさん、元B、Cランク冒険者のリリアとドルファがいる時点で防犯面にかんしては大丈夫だったが、さらに強化された。加えて冒険者ギルドの協力店であることもすでにこの街ではだいぶ広まっているから、この店に手を出すような輩はもういないだろう。
……そのうえ何かあれば王都の冒険者ギルドや王妃様の後ろ盾まであるもんなあ。今更ながら、一商店とは思えないほどの繋がりを得ることができた。これまでの人の縁に感謝するとしよう。
「それでは店を開きます。従業員の指示に従って、焦らず順番にお願いいたします!」
いよいよ新規店舗のオープンだ。
「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
お店を開いてから1時間が過ぎた。
新規店舗は以前のお店と比べるとかなり広くなっている。以前の店内には20人ほどで限界だったが、現在では入場規制をしつつも、店内には50人ほどのお客さんを順番に入れている。
店の入り口にはスヴィーさんのゴーレムと、入店を待っている間にお客さんの質問を受けて対応をしてくれるランジェさん。レジは3つあるので、アンジュ、フィアちゃん、ドルファの3人に任せている。
そして店内を見回りつつ、商品を補充してお客さん対応をするリリアとスヴィーさんの2体のルーンゴーレム。俺は店内を回りつつ、状況に応じて各場所のヘルプに入っている。
「スヴェンさん、新商品のアウトドアソースとレトルト牛丼の補充をお願い」
『心得た』
スヴィーさんのゴーレムも今のところ問題ないみたいだな。さすがに今日は自分の研究はしていないみたいだけれど、それでも3体ものゴーレムを同時に操作しているのだから本当にすごい。
トランシーバーでの通話も今のところ問題なさそうだ。
「やっほ~テツヤ。新規店舗オープンおめでとう」
「テツヤ、オープンおめでとう」
「すごいお客さんだな、おめでとう」
「ニコレ、ロイヤ、ファル。来てくれてありがとうな」
店内を見回っていると、いつもの見知った3人がお店に来てくれていた。
「それにしても本当に大きい店だよなあ。テツヤと出会ったころに露店で店を開いていたのが懐かしいぜ」
「俺の場合はロイヤたちに助けてもらったことを含めて、だいぶ運や人の縁に恵まれたんだよ。ロイヤたちだって、もうDランク冒険者じゃないか」
思えばあれから随分と経ったものだ。あの頃では駆け出し冒険者だったみんなもすでにDランク冒険者に昇格し、今では駆け出しを卒業して立派な冒険者である。




