第256話 大量生産
「それでは本当にお世話になりました」
「いえ、こちらこそ本当にお世話になりましたわ。新しくシャンプーやリンスもありがとうございます」
冒険者ギルドから出て、ベルナさんとフェリーさんと別れる。
本当は昨日には王都の方へ戻る予定だったのだが、スヴィーさんの来訪もあったため1日延長してくれていた。スヴィーさんに悪意のないことは分かったので、ここでお別れである。
王都にいる王妃様がシャンプーやリンスを無事に使えることが分かったので、いつもの商品の他にそちらも王都まで運んでもらう。ベルナさんとフェリーさんも問題なく使えることがわかったので、もちろん2人にも渡してある。
「しばらくテツヤの料理が食べられなくなるのは辛い……」
「これだけ長期間一緒にいたのは初めてだったからな。とはいえ、また1~2月後には来てくれるし、また王都からダンジョンの依頼などもあるかもしれない。その時はまた2人に依頼をするのだろう、テツヤ?」
「ああ、もちろん。その時はまたよろしくお願いしますね」
今回は帰りにクエトのダンジョンにも寄ったし、以前に王都へ行った時よりも長期間ベルナさんとフェリーさんに同行してもらった。俺が作った料理やゼリーなんかのお菓子を気に入ってくれたみたいだし、しばらくそれを食べられなくなるのが残念なのだろう。
ダンジョン内で魔物図鑑が使用できることもわかったし、もしかすると王都のルハイルさんからまた依頼があるかもしれない。その際はもちろん俺のアウトドアショップの能力のことを知っている2人にお願いするつもりだ。
「はい、お任せくださいですわ!」
「いつでも任せて! むしろそんなダンジョンがないか探してみる!」
「「………………」」
さすがに無理に理由を探さなくてもいいのに……
いや、今回はかなり長期間一緒にいたから忘れそうになってしまうが、2人は数少ないAランク冒険者だ。2人でないと達成できない依頼もあるし、そちらが優先させられてしまうのかもしれない。
まあ、このアレフレアの街を訪れてくれるのもいい息抜きになるのかもしれないな。
「こんにちは~」
「テツヤさん、いらっしゃいませ。今親方を呼んできますね」
冒険者ギルドをあとにして、リリアと一緒にグレゴ工房へと向かった。すでに名前を覚えられている受付の女性にグレゴさんを呼んできてもらった。
「おお、テツヤにリリア。新しい店舗と住居はどんな感じじゃ?」
「ええ、以前の店よりも広くてとても快適でした。特にあのお風呂が最高でしたね! あんな立派な店舗を建ててくれて、本当にありがとうございました」
「ああ。かなり贅沢だが、毎日でもあの風呂に入れるのはとても幸せなことだ」
「気に入ってくれたようでなによりじゃな。こちらこそ王都の土産の酒やツマミをありがとうな。弟子たちと一緒にいただいたわい」
すでに新規店舗の外装も終わって建物のほうは完成している。以前の店よりも広く、中庭もあってよりアウトドアショップらしくなった。そして住居スペースもバッチリだった。
「楽しんでいただけて、こちらも嬉しいですよ。今日はそのお礼を伝えに来たのと商品はどんな感じかなと思いまして」
「うむ、皆が王都へ行っている間にいろいろと仕上がっておるぞ。いろいろと見てもらおう」
「テント、寝袋、チェアなんかはすでに見てもらってあるな。これは他の工房にも手伝ってもらい、すでにかなりの数があるぞ」
「ありがとうございます」
アウトドアショップの能力によって購入したテントなどの様々な商品は材質がこちらの世界と異なることもあって、そのまま大量に販売するといろいろと問題が起こる。
そのため、これらの商品はこちらの世界の素材を使用して量産することになったわけだ。もちろん材料費がかかり、手間もかかる分利益率は落ちるが、こちらのほうがより安全かつ問題なく商品を販売できるからな。お金には十分な余裕ができたし、これからはこちらの世界の素材で再現できる商品はできるだけそうしようと思う。
すでにこの辺りの商品は事前にサンプルを確認して、俺たちが王都へ行っている間にたくさん作ってもらっていた。これで新規店舗のオープンで販売する十分な量を確保できただろう。
まあ、駆け出し冒険者の集まるこの街ではそこまで売れることはないと思うが、他の街では多少なりとも需要はありそうだ。テントやチェアなんかはポールとかの工夫もあって、だいぶ小さくなって持ち運びもしやすいからな。
「あとはタープやコット、テーブルなども問題はないのう。あのエアーマットっちゅう商品だけは再現がなかなか難しいわい」
「十分ですよ! お店を建てながら、こんなにもいろいろと試していただけたんですね」
工房内にずらりと並べられたキャンプギアの数々。最初の生産だけはグレゴ工房にお願いして、量産は他の工房に協力してもらっているとはいえ、新規店舗を建ててもらいながら、よくここまで商品を作ってくれたものだよ。
「なあに、テツヤの出してくれる商品は面白い物ばかりじゃったから、店舗を建てている休憩がてらに試していたにすぎんわい。さあ、いろいろと見てくれ」
……それって休憩と言えるのだろうか?
まあ、好きな物を作るのは楽しいもんな。早速いろいろと見せてもらうとしよう。




