3話 2人の魔女。
──これで良かったんだ。これで……。
……そうだよ。魔女にやっとこ『大嫌い』だって言えたんだ。ずっと抱え込んでいた思いを吐き出せたんだ。
あんなことをいえばもう俺に関わろうとしないだろうし……それに、あのままあの場にいれば俺がどうなっていたか分からない。……これで良かったんだ。
あいつは……よしっ、追いかけてきていない。…………良かった、これだけが心残りだったからな。
もし追いかけられて、捕まって捕らえられたら、本当にシャレにならない。良くて目潰しといったところだろうか。
結構振り返るのにも勇気がいる……いや、逆に臆病な奴がすることかもしれん。
いると分かって振り返るんじゃない。いないと分かっているから、自分が──俺が安心出来るから振り返るのではないか。…………なーんて、考えすぎか。
「良かった、誰もいな……」
「…………おっと〜、後ろだけ見ていないって判断するのはちょっと早計だよ〜。前も後ろも上も下も……"私たち"が操れる領域って結構広いんだ〜。だから、全部警戒しなくちゃね〜」
「……っ!」
どこからかともなく聞こえる飄々とした余裕たっぷりの声。
前には誰の影も無かったのに……俺が後ろを振り返った一瞬のうちにやってきたのか!?音もしなかった……。
フレイヤ──の声では ないが……"私たち"と言っている。考えたくないが、この声の正体は……。
「…………もう、サリエラったら。ルークが怯えちゃってるじゃない。怖がらせるような雰囲気出さないの」
どうやら、他にもう一人いるらしい。どちらもどこかで聞いたことのあるような……?
……しかし、俺の予想が当たっていればこれからの運命は2倍悲惨なものになる。
「いや〜私は別に怖がらせているつもりは無いんだな〜これが。つまりは、ルークが勝手に怖がっているだけってね〜」
「……お前らは、誰だ……?どこかで聞いたことのあるような声だが……俺と会ったことはあるのか……?」
「…………驚いた。毎日会っているのに『どこかで……』くらいにしか思われてないだなんて。…………まあ、私たちと1回も話したことはないし、仕方のないことなのかもしれないけど」
分かっていた。本当は全部。
しかし、せめてもう少しの間だけは分からないでいたかった。
──もう、逃げられない。
俺はおそるおそる前の方へ体の向きを直す。鉛をこの一瞬で体の中に埋め込まれたのか、体が非常に重い。
──いや、あながち間違えではないのかもしれない。この2人の前では、体内に鉛を埋め込むという普通では考えられないことでも"普通"になってしまうのだから。
「やっほ〜、ルーク。私だよ私、やっと気付いたかい?」
「…………ルークったら、大丈夫?振り返るまでに7.53秒くらいかかったけど……。ちょっと遅くない?」
……俺の予想どおり魔女だった。こんな予想なら盛大に外れてほしかった。
これからどんな仕打ちを受けるのだろうか。とりあえず目潰しは確定だ。……あとは火あぶりとか四肢の切断、腸が引きずり出されるかもしれない。
……そう思うのも仕方がなかった。なぜなら、この2人はさっき突き飛ばした魔女──いや、フレイヤといつも一緒にいてとても仲が良いからだ。親友と言ってもいいのかもしれない。
そんな2人の親友であるフレイヤに対して、俺は体を突き飛ばし、心を傷つけた。
……どんな仕打ちを受けてもおかしくはない。
2人を前にして震えが止まらない。人間は本当の恐怖を感じた時には寒気がする。
……さっきまで、恐怖を感じた時には体が熱くなるものだと思っていた。フレイヤと体が近くなったときに、ほっぺたや耳が熱を持っているのを感じたからだ。
……恐怖というのは不思議なものだ。体を熱くさせたり、寒くさせたりと正反対のことが起こるからだ。
まあ、どちらかの感情が間違っている可能性は……否定はできない。
どのみち、俺はここで終わりだ。今から考えてもムダなのは間違いない。




