21話 好きな人と一緒にテスト勉強。
この章は、久しぶりに主人公のルーク視点の話です。
『ルーカスは王都の軍を率いて、国力増強を目的とした隣国のセントポーリアの侵略軍を大魔法を用いて撃退した。3ヶ月にわたって王都のみならず、我がフリージア王国全土において侵攻が行われた。このことによる国内の行方不明者が死傷者の数を超えていることは、この侵略戦争において特筆すべき点であろう──』
「んーっと……。あいも変わらず暗いことばかり。……なんでこんなことを習う必要があるんだ……?」
「……実際に起きたことだからね。それに、過去の出来事から学ぶことは大切だと思うけどなあ……。……あと、今復習しないと明日の国史のテスト、ボロボロだよ?」
「そうなんだけど……」
「……もうっ。『一緒に勉強したいっ!』って言ったのはルークなんだから……。私も付いてるし頑張ろう……?」
「……そうだな。ごめん、俺から誘ったのに……」
「まっ、私も暗い話題は苦手だからパパっと復習しちゃおう!」
そう言って、隣に座る魔女のフレイヤは『エイエイオーっ!』と拳を突き上げる。俺も小さく拳を突き上げるが……別にやる気がないわけではない。現在いる場所が学校内の図書室なのだ。
そのため、フレイヤもいつもの威勢の良い声とは違って控えめな声になっている。しかし、突き上げている拳からは確かな強いやる気が感じられる。
「……いやー、フレイヤありがとうな。テスト勉強に付き合ってくれて……」
「ううん。私こそ好きな人と……ルークと勉強出来てうれしいな。ありがとう、私を誘ってくれて……!」
そう言い、フレイヤはくりっとした大きな目を覗かせる。ちょっと上目遣いで、ほっぺたと耳がほんのりと赤くなっているのはいつも通り。この姿を見て、俺の体の中の芯が温かくなるのもいつも通り。
いつも通り……と言っても毎回ドキドキさせられて、そして、何よりとてもうれしい。
『ルークが私のことを好きになってもらえるように……』
フレイヤの姿を見て、ふと脳裏にこの言葉がよぎる。
さっき、『エイエイオーっ!』とテスト勉強を頑張っていく決意をしたばかりであるが、どうしても思い出せずにはいられない。
……手作りのお弁当を作ってもらったときに言われたのが一番記憶に新しい。
初めこそ、俺はフレイヤを拒否した。
俺が、魔女は『同族でしか接することを知らず、なんの能力のない俺たちのことを見下している偉そうでいけ好かないもの』だと思っていたからだ。例に漏れず、フレイヤもそんな連中と同じものだと……。
……でも、それは違った。
フレイヤは真っ直ぐに、俺と対等な立場で『好き』だと言ってくれて……俺のことを見ていてくれて……だからフレイヤに惹かれて、好きになった。
……その気持ちを伝えられる前の、ほっぺたや耳を赤くした魔女の、女の子の姿を見て一目惚れ……なのかもしれないが、でも、そんなところを含めてフレイヤのことを好きになったんだ。
俺から見ればフレイヤとは両思い、フレイヤから見れば片思いの状態。フレイヤの気持ちから見てみれば、俺は『好き』と言ったほうがいいのだろう。
……しかし、フレイヤには申し訳ないが俺はまだ気持ちを伝えられそうにない。ちょっと恥ずかしくって。
でも、いつか……いつか伝えられればいいな、とは思──。
「……ーク、ルークっ!…………ぼーっとしてるけど大丈夫?もしかして、体調悪かったりする……?」
「えっ。あ、ああ……。ちょっと考えごとしてた……」
「……じゃあ、体調が悪いわけじゃないんだね……?」
「心配かけてごめん……。……ちょっと前のことを思い出してな。……フレイヤの……」
「わ、わ、私の……!?」
「う、うん、フレイヤが俺に告白したときのことを思い出してた。……あれからもう一ヶ月くらいか」
冷静さを保とうとして、ゆっくりとしたしんみり口調で話そうとしても、体というのはどこまでも正直だ。
まあ、フレイヤを見ていれば分かることなのだが……。体が火照っていく感覚がする。……きっとフレイヤも俺と同じような感覚に陥っているはずだ。
…………俺たち、似たもの同士なのかもしれないな。
「……もう一ヶ月……。時の流れって早いね……」
「この一ヶ月は結構濃密だったような……。フレイヤの告白だろ、あとはドリーム・マジックでムフフな夢を見て、テレポート・マジックでみんなで思い出を作って、そして"思い"の詰まった手作りのお弁当を堪能する……」
「……なんか、こう言葉にすると照れるね……」
「一ヶ月でこれなら、これから先は……」
……本当にどうなってしまうのだろうか。
考えただけでも、心臓の確かな鼓動が体全体に響き渡る。これからも、お互いがデレ合う……。不安なことはない。むしろ、とてもワクワクする。
これまでは、手を繋いだり、顔をメチャクチャ近づけたり、食事の時に『あーん』としたくらいだが……もっと体も心も密着していくのだろうか?あの、いつぞやの夢みたいに……。
そのことについてを想像しても──。
「──って、テスト勉強、テスト勉強っ!つい思い出話に花咲かせちゃって……」
「…………勉強は後でも……」
「もー、ダメだよルーク?こういうのは後回しにしちゃ……。それに、案外範囲も広いんだから……」
「…………そうだな。ごめん、何度も……」
……俺とフレイヤの思い出話と妄想タイムは、フレイヤの思い出しによって儚く終わってしまった。
……そもそも、本来は国史のテスト勉強のためにこの図書室にいるのであって、思い出話に花を咲かせるために居るわけじゃないことは分かっているのだが……。
どうせなら、このまま花を咲かせたかったな。フレイヤは微笑みかけている。
「さーて、テスト勉強再開だよっ!……パパっと終わらせちゃ──」
「あっれ〜、もうイチャイチャ終わり〜?もっと見たかったんだけど〜!」
フレイヤが言いかけたその時、遮る声がひとつ。どこの誰よりもテンションが高く、甲高い声。
声も姿もどこからともなく突然現れた。……これは……。
いきなり現れて堂々と向かいのイスに座る姿を見て、俺はもちろん、フレイヤも唖然とした様子で目の前の少女……いや、魔女を見つめる。
「テレポート・マジックか……。お前、誰だ?俺たち会ったことあるか?」
「え〜、"私たち"同じクラスなのに覚えられてないかんじ〜?ちょっと傷つく〜」
「……悪い」
「まっ、これを機に覚えていってよ〜!私の名前はメイデー!これからよろしく〜!」
……ごめん、フレイヤ。俺が話を脱線させなければ……。
唖然としたままのフレイヤに、いきなり現れたクラスメイトの魔女・メイデー。……波乱のテスト勉強会になりそうだ。




