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20話 恋する魔女と手作りお弁当。

 4時間目の国史の授業が終わり、ついに待ちに待ったお昼休みの時間。

 朝、ママと一緒に家を出た時に『フレーフレーっ!』とエールをもらってから、ここまでの時間が長く感じられた。

 昨日、ルークに手作りお弁当を作ってくる約束をした私は授業が終わってすぐ、ルークの机で一緒にご飯を食べるために2つのお弁当箱が入った手提げバックと、自分のイスを持って向かい、そして今、ルークの分のお弁当を渡そうとしているのだが……。


「……おーい?おーい、ルークー?」


「…………あっ、俺としたことがついぼーっとしちゃって……」


「……国史の授業のせい?」


「ああ、そうなんだよ!あの先生、妙にクセのある説明をしてくるだろ?その説明が頭の中にずっと残るっつーか、それでぼーっとするというか。……なあ、フレイヤも分かるか?この感覚…………」


 「うーん。私はあんまりぼーっとはしないなあ……。まあ、クセがあるっていうのは私も思うけど」


 ……確かに、あの先生は一癖も二癖もある説明をしてくる。ルークのようにぼーっとはしないが、どこか余韻が残るということは分からなくない。

 ……でも、このままぼーっとされていてもちょっと困る。…………私の"思い"がこもった手作りのお弁当があるのに。


「はい、ぼーっとするのもここまでっ!」


 『心、ここに在らず』といったような感じでぼーっとしたままのルークをもとの状態に戻すために、パンっと手を叩く。

 そして、手提げバックからルークの分のお弁当が入った青色の巾着袋を取り出して、ドンッとわざと音を立てて机の上に置く。

 ルークは一瞬体をビクッと震わせたあと、キョロキョロと周りを見渡した後に、目をパチパチとさせて私と目が合う。


「……せっかく、ルークのためにお弁当を作ってきたんだから……ぼーっとしたままだともったいないよ……?」


「お、お弁当……?……あっ、お弁当……!」


「もうぼーっとしてない?」


「あ、ああ……。ごめん、なんかちょっと上の空だったよ。……フレイヤが"俺のため"に作ってきてくれた弁当……ありがとう!」


「ふふっ、もとのルークに戻ったね!……それじゃあ、そろそろ食べちゃおっかっ!」


 そう言って私はイスに腰を掛けて、手提げバックから自分の分のお弁当が入ったピンク色の巾着袋を机の上に取り出す。

 蝶々結びになってるひもを解くと、中からはお箸とお弁当箱が。この様子を見たルークも同じ動作をする。


「……『おいしい!』って言ってもらえるように頑張ったんだ。ルークの口に合うといいなあ……」


「…………フレイヤが俺のために作ってくれたんだろ?そんなの、うまいに決まってるじゃん!」


 ……なんの変哲もない、だ円形でプラスチック製のお弁当箱を見てちょっぴりドキドキしながら言う。

 ……でも、その中にはきっと魔法よりもずっと強い"思い"が……。……伝わるだろうか。


「なあなあっ、もうフタ開けていいか?俺、もう待ち切れない……!」


「あっ、う、うん。……じゃあ一緒に開けようか」


 『せーの』で一緒にフタを開ける。

 途端、ルークの好奇心に溢れたキラキラとした目はお弁当の中身に向けられる。

 梅干しの乗ったご飯に、やや多く入った豚のしょうが焼き。そして色とりどりの野菜たち。あと、一番のチャームポイントであるハートの形をした卵焼き。

 ……良かった、崩れてなかった……。


「わぁ……これがフレイヤの作った……。うまそう……」


「……おいしそうに見える……?」


「もちろんっ!ハートの卵焼きがあって、肉もいっぱい入ってるし……野菜もいろんな色のがあってうまそうだけど……」


「良かった……」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 私とママで作ったお弁当。おかずと同じ……いや、それ以上の"思い"が詰まったお弁当。おいしくないわけがないのだが……。

 不安げな様子を見せるのは良くないのは分かっている。……でも、どうしても、ルークのことだからこそ、この後に及んで心配になってしまうのだ。


「ほら、このしょうが焼きだってこんなにプリプリで柔らかそうで……。…………フレイヤ、あーん……」


「あーん……?」


 ルークがお箸でお肉を一切れ掴んで、私の口の前に『えい、えいっ』といったのような感じで突き出してくる。

 一瞬なにをしているのか分からず、つい私らしくない声が出てしまったが、これはもしかして──。


「あ、あーん……」


 そして、私はお肉をパクっと口の中へ。

 ……私のほっぺや耳は、きっと赤に染まっているだろう。男の子に……好きな人であるルークに『あーん……』なんてされたら……。

 ルークも顔や手を見てみると私と同じく赤くなっている。


 肝心のお肉は味が染み込まれていて、そして見た通りにプリプリで柔らかくて……。


「やっぱり、おいしい……!」


 感極って目の奥から込み上げるものを感じる。……たったお肉の一切れを食べてみても、ちゃんとおいしい……!

 ……心の中の、モヤッとしていたものがスーッと消えていく感覚がする。


「なっ!……なにも心配することは無かったんだよ。このお弁当はちゃんとおいしい。フレイヤが作ってくれたからなっ!」


「…………もしかして、私に『心配しなくていい』ってことを伝えたくて『あーん……』って……?」


「まあ、そうだな。ちょっと表情が曇ってたし……もしかしたら、この弁当のことを心配してるのかなって……。…………まあ、俺が個人的に『あーん』ってしてみたかった気持ちがあったりなかったり……」


「そうなんだ……」


「わ、悪い!……気持ち悪かったか……?」


「えっ、い、いや全然気持ち悪くなんか……!むしろ、ドキドキしてうれしくて……。……ありがとねっ、私のことを気にしてくれて……」


「……さ、さあ、心配事も無くなったみたいだし、早く食べようぜ!俺、もう腹がペコペコで……」


「あっ、待たせてごめんね。……私だけちょっとお肉食べちゃったりもしたけど……。……うん、食べよう!」


「手を合わせて……」


『いただきだきますっ!』


 ルークの掛け声を合図に、一緒に『パチンっ』と手を合わせて、息ぴったりでいただきますを言う。

 ルークのほっぺや耳、手は今になってもほのかに赤い。……きっと、私もそうだろう。

 そして、私たちはお弁当を食べ始めるのだった。



 ……てか、これって間接キスじゃ──。





 ──────────


『ごちそうさまでしたっ!』


「ふー、食べた食べた!」


 ルークのお弁当の中は空っぽだ。米の一粒もない。

 いただきますの挨拶からごちそうさまの挨拶をするまで、食べることに夢中であまり会話はしなかったが、おいしそうに食べてくれていてとてもうれしい。

 ……頑張って作ってよかったな。


「おいしかった?」


「うんっ、うまかったぞ!しょうが焼きに、ピーマンのごま和え……きんぴらごぼうも全部!……ハート型の卵焼きはうれしかったし、素直に照れたな。……とっても」


「私の"好き"って気持ちが伝わったかな?」


 イタズラに微笑んで言ってみる。

 ルークのほっぺや耳にまた赤さがみるみるうちに戻ってくる。……正直、かわいい。


「……何回言われても慣れないもんだな」


「…………慣れなくていいんじゃないかな。……初々しさって大切だと思うよ」


「ありがとう、フレイヤ。俺のことを好きでいてくれて。……だからこんなにうまかったのかな。この弁当」


「……それ、"思い"じゃないかな」


「"思い"……?」


 朝の私と同じような反応をして、ルークは腕を組んで首をかしげる。


「うんっ。……このお弁当にはね、魔法よりもずっと強い"思い"が詰まってるの。『おいしく食べてもらいたい』っていう気持ちや、『好き』って気持ち、失敗したけど頑張った『達成感』とか……。そんな"思い"が全部詰まってるの。……"思い"はときに魔法を超えるって言うし……そのおかげで、よりおいしいって感じたのかもね」


「それだけフレイヤの"思い"が強かったってことか。……俺に対しての。だからこんなにうまく感じて……。ありがとなっ、俺のことを思ってくれて!最高の弁当だったよ!」


「私こそありがとう!……私一人だけじゃここまでやれてなかった。ルークも、ママも……みんなが居たからここまでやってこれたと思う」


「ママって……フレイヤのお母さん?」


「そう。ママにもアドバイスをもらったり、ちょっと手伝ってもらったり……。失敗もしたなあ。本当は使わないのに鍋を出したり、野菜の食べられる部分まで捨てちゃったり……」


「大変だったんだな……」


「まあ、大変だったといえば大変だったよ?……でも、それ以上に楽しかったな」


 自分には出来ないんじゃないか、無理なんじゃないか、ムダなのではないか──。そう思うこともあった。

 でも、ママやルーク……みんなが変わらず居てくれる、一人じゃないって思えたからこそ、ここまでやってこれたんだ。

 このことを、忘れずにこれからを過ごしていきたい。そして、私は隣に座っているルークに微笑みかける。


「ありがとう!」


 私のとびっきりの"思い"のこもった言葉が教室に響くのだった。


 これで、一歩進んだかな。これからも頑張ろう。

 

 ルークに好きになってもらうために──。






 ──────────

 ──────────


「フレイヤー、忘れ物してないー?」


「うんっ、してないよ!」


「……お弁当、ちゃんと持った?」


「もうっ……。今日に限って忘れるはずないじゃん!」


「あはは、ごめんごめん。……ねえ、フレイヤ」


「なあに、ママ──」


「フレーフレーっ、フ、レ、イ、ヤ!フレっフレっフレイヤ、ゴーゴーゴ……」


「…………ママ、それって……」


「んっ、あ、コレ?フレイヤへの応援だけど……」


「ありがとう……。…………いってきますっ!」


「あっ、フ、フレイヤ!気をつけてね〜!」




「……ちょっとはしゃぎすぎちゃたかな。…………いやー、フレイヤが好きな人のためにお弁当をねえ。うれしいけれど、でもちょっとどこか寂しかったり……。コレも『大人への一歩』ってことなのかなあ。……私、ちゃんと送り出せたかな。頑張って、フレイヤ。……応援してるからね」




 恋する魔女と手作りお弁当編、終わり。


最後まで読んでいただきありがとうございました!もしよろしければ、ブックマーク等していただけると励みになります。また次回の章も読んでいただけるとうれしいです!

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