19話 お弁当と魔法。
「それじゃあ頑張っていこうっ!」
「う、うん……」
「あれ……ちょっと元気なくない……?…………やっぱり眠くなっちゃった?」
眠くない。……手作りのお弁当を作るというメインイベントに入る前に眠くなるはずがない。
ただ……"気になるカレ"のことがバレてちょっと恥ずかしいのだ。ママとパパにはヒミツにしてたのに……。
……まあ、遠くない未来にママたちに明かす運命だった──そう考えておこう。
「いや、眠くはないんだけど…………このことはパパにはヒミツにしててくれる……?」
「それはいいけど……。…………もしかして、ヒミツにしておきたかった……?」
ヒミツにはしておきたかったが……思い返してみれば、雑誌を見開きのまま放置してたり、私が出さないであろうご飯の冷凍容器が2つも出していたりしていた。
こうして傍から見れば隠す気があるとは言いづらいのかもしれない。
「うん。……本当はね」
「ごめんっ!フレイヤの気も知らないで私ひとりテンションが上がっちゃって……」
……謝られてしまった。途端に若干暗い空気が流れる。
私がこの雰囲気を変えなくちゃ……。
「……大丈夫だよっ!……ちょっぴり恥ずかしいけど……」
うぅ……雰囲気を変えるのって難しい……。ママが私を元気づけて明るい雰囲気に変えてたのってすごいことだったんだな……。
「……ねえ、もし良かったらその"気になるカレ"のルークくんのことについて教えて。お弁当のおかずを作る前にさっ!」
「ルークのこと……?」
「うんっ!フレイヤの気になる子、私もちょっと気になっちゃって。……あっ、いや別に好きとかそういうのじゃないの。どんな子なのかなって……」
「ルークはね……私をちゃんと私として見てくれるの!」
「『私を私として』……。それってどういう……」
「ルークはね、私のことを"魔女"としてじゃなくてちゃんと私……フレイヤとして見てくれるの。……"私たち"は嫌われることが多くて、イヤな態度を取られることもあるけど……ルークは魔女とか関係なく接してくれるんだ」
「……そうなの……」
「あとね、私の友達……サリエラとアリアのことも大切にしてくれて、それにルークは優しいんだよ?魔女とか関係なく、困っているなら助けてくれるんだ。その姿を見て、私は気になり始めて……そして、好きになったの」
「"好き"、ねえ……」
「だから、私のことを好きになってほしくて手作りお弁当を……。……私に出来るかなあ。おかずを作ることも、ルークに好きになってもらうことも……」
「……フレイヤなら大丈夫。その気持ちはきっとルークくんに伝わるよ。おかずを作ることも、好きにさせることも出来るよ!……なんたって、フレイヤはママとパパの子で、私も応援してるからね!」
「応援してくれるの……?」
「当たり前じゃん!応援しないわけがないよ!」
「ありがとう……。…………お弁当づくり、アドバイスお願いします!」
「うん!手作りのお弁当で、ルークくんのお腹もココロも鷲掴み……。頑張っていこー!」
一帯に私とママの声が響く。ちょっと話が長引いてしまったが、とうとう本題のお弁当作りに入る。『一緒に頑張っていこう!』ということで、お互いにハイタッチを交わす。
そして、おかずを作るために卵やお肉といった食材をキッチンの作業台の上に集め、フライパンなどの調理器具も用意し始めた。
準備をするための足取りは、とても軽い。
────────
「す、すごい……。私がお弁当を……」
「……フレイヤ、お疲れ様」
作り始めてから1時間ほどが経っただろうか。カーテンの隙間から差し込まれる光は強さを増していき、朝日はとっくのとうに昇っている。
キッチンの作業台の上にはご飯とおかずがぎゅうぎゅうに敷き詰められたお弁当が2つ。……私とルークの分だ。
楕円の形をしたお弁当箱の中身を見てみると、左半分には上に梅干しがちょこんと乗っているご飯があり、右半分にはおかずが盛りだくさん。
もうちょっと右半分に注目して見てみると、初めに目に付くのは豚のしょうが焼きだ。ルークの方が、私に比べて気持ち多く入っている。
そして、お肉だけではなくちゃんと野菜もある。トマトにブロッコリー、ピーマンのごま和えにきんぴらごぼう……。また、右下には一番のチャームポイントであるハートの形をした卵焼きがある。
全体的に、1つの色だけでなく赤や緑、黄色の食材がある色とりどりのお弁当になったのではないか。
雑誌の特集にあった部分を基本として、さらにママのアドバイスも取り入れて作ったお弁当……。満足するものが出来た。
また、2つのお弁当箱は今、陽の光に照らされて輝いている。
カーテンの隙間から差し込まれただけのものだと言われればそうなのだが、私にはこれがママと一緒に作った努力や絆、ルークへの思いが結晶となって輝いているのだと思う。
「ママ、アドバイスありがとう!」
輝きを放つ2つのお弁当の前で、私はママにお礼を言う。ママはしんみりとした様子で頷き、そして微笑んだ。
「……ちょっとは私のアドバイスも参考になったかな?」
「ちょっとどころじゃないよ、結構参考になったよ!」
……本当に参考になる部分が多かった。
例えば、お肉を柔らかくするための方法や、きんぴらごぼうを作るときの調味料の加える順番、卵焼きをきめ細かい仕上がりにするための方法……。
ハート型の卵焼きの作り方など、すでに雑誌に載っているものもあったが、これらのママのアドバイスのおかげでよりよいお弁当を作ることが出来たのは間違いない。
「……ねえ、もっもおいしくなる魔法とかって知らない、ママ?」
「もっとおいしくなる……?」
「うん、このお弁当がおいしいのは分かるよ?だって、私とママが一緒に作ったものだもん。でも、ルークにはもっとこのお弁当を『おいしい!』って感じて欲しくて……」
「……私は魔法をかけなくてもいいと思うけどなあ 。だって、おいしくなる魔法よりもずっとずーっと強いものが詰まってるし……」
「……おいしくなる魔法よりも強いものってなに?」
「……それはね、"思い"だよ。私はその"思い"がこのお弁当にいっぱい詰まっていると思うの」
「"思い"……?」
「うん、フレイヤはルークくんにおいしく食べてもらいたいって"思い"でこのお弁当を作ったでしょ?その"思い"が一番大切なものだと思う。"思い"っていうものは、ときに魔法の力を超えるの」
「"思い"が魔法を……」
"思い"は時として魔法の力を超える──。
この話が本当かどうか分からない。……でも、この話は本当であってほしいと思った。
私のルークに対する"思い"は、魔法をも凌駕する……。そうあってほしいのだ。
……"思い"と魔法について考えさせられた後、私とママは一緒にフライパンなどの調理器具の片付けをした。片付けた後、私は自分の部屋に戻り、もう少し陽が昇るまで眠りにつくことにした。
次回で、恋する魔女と手作りお弁当編は終わりになります。




