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18話 片付け作戦!

「……落ち着いてきたかな、フレイヤ?」


「うん、待っててくれてありがとう、ママ」


 私が静かに涙を流し、それをママがティッシュで拭ってくれてから3分ほどが経とうとしていた。

 この間、ママはなにを言うわけでもなく、静かに私に寄り添ってくれた。


 カーテンの隙間からは、本格的に一日の始まりを告げるまばゆい光が差し込まれ始めている。

 ちょっと前に見た、今日という日の訪れを拒むような弱々しい光は、もうない。


「ねえ、ママ。……それで、これからどうするの……?」


「それはね、フレイヤ……」


 少し心配そうに聞いた私に対して、それを吹っ飛ばすような明るい声でママは言おうとする。その姿は、目を輝かせた無邪気な子どものように、ワクワクしたものも感じさせる。

 これからすることを本当に楽しもうとしているのか、私を元気づけるためにやっているのか──。なんにせよ、私はうれしい。


 さらに、ママと一緒に同じ目的を持って作業ができる──。

 思い返してみれば、こんなことは久しぶりなのだ。そんな意味でも、私はこのキッチンの惨状も受け入れられるような気がした。

 このようなことを刹那に感じたあと、ママから続きの言葉が発せられる。


「一回全部片付けちゃおっか!」


「……全部?」


「そう、一回キッチンの作業台の上にあるやつも、シンクの周りの水滴だったり、コンロの上にあるフライパンを洗ったり、食材も整理したりして……」


「食材も……?」


「うん、黒焦げのお肉とか卵焼きがあるじゃん。……ちょっともったいないけど、これ捨てちゃおう」


「捨てちゃっていいの……?まだ食べれ──」


「いや、食べられないよ。食べられたとしても、マズいと思うよ。炭の味がして……。……この食材たちだって、おいしく食べられたいはずだよ」


「……じゃあ、仕方ないね……」


 ちょっぴり元気を無くし、寂しそうに答える私をママが励ます。……何度もごめん。

 ……しかし驚いた。食材すらも一斉に整理するとは。


「そう気を落とさないのっ!大丈夫。次からはこんなことにならないように、ママと一緒に料理、やってこう!」


「うんっ!」


 元気を再び取り戻した私に、ママも安心した様子だ。声はいつも明るいが、その声の中に安堵に似た優しい気持ちが含まれているように感じた。


「片付け作戦、行くよっ!」


『えいえいおーっ!』


 流石は親子といったところ。息がピッタリ合った。掛け声のあとに、お互いの顔を見合ってニカッと笑うところもお揃いだ。


 ────────


「ふーっ、だいたい片付いたかな?コレで心機一転、スッキリしたねっ!」


「す、すごい……こんな早くに片付け終わるなんて……」


 あっという間だった。

 ……私の予想としては、1時間、2時間くらいかかるものかと思っていた。しかし、予想に反し30分ほどですべてが"整理"された。

 現在、お弁当の具材になるものはまとめて燃えるゴミのところに捨てられている。また、フライパンや小さい鍋も一回洗った上に水気も切られており、シンクまわりも水滴が拭き取られている。

 キッチンの作業台の上も、雑誌やまな板などでゴチャゴチャしていたが、それらもすべて片付けられていた。


 ……ママに手伝ってもらって良かった。

 フライパンなどの調理器具の洗い方や、水滴があまり飛び散らない洗い方についてのアドバイスももらうことが出来た。

 こうして、私の手作りのお弁当づくりはマイナスの状態から振り出しの状態に戻った。大きな進歩だ。


「ママはすごいなあ……。泥棒が入って荒らされたような状態でも、こんなにキレイすることが出来るなんて……」


「……私はアドバイスをしただけ。大部分はフレイヤがやってたよ。……すごいよ、フレイヤ!」


「……そ、そうかなあ」


 …………確かにそうだったかも。

 でも、ママと一緒に作業していたという感覚のほうが強くて、実際の作業の大部分を1人でやっていた自覚はあまりない。

 褒められて照れる私に、ママは優しく見守る眼差しで微笑み返す。


「さーて……これから本題のお弁当作りに入るけど……フレイヤ、眠くない?大丈夫?」


「大丈夫だよ、ママ!」


「そう?……学校で居眠りしないようにね」


 いつもは絶対に起きていない時間に起きていて、その上片付けをした私を気遣ってくれたのだろう。

 でも、全然眠くない。ルークに好きになってもらうためなら、どんなものでも耐えてみせる。


「まあ、"気になるカレ"のためだもの。大丈夫だよねっ」


「うんっ。ルークのためならたとえどんな状態だって──」


 ……………あれ、さっきママが"気になるカレ"って……。


「"その"ルークくんのためにも手作りのお弁当、頑張らないとねっ!ママも熱が入るなあ……」


 ……なんで、バレてるの?

 ママにはあくまで『明日のお弁当は自分で作るからっ』って言っただけで、ルークのお弁当も作るとは言っていない。

 顎が外れそうなほど口をポカーンと開ける私に対して、ママは感無量といったような感じで私を見つめてくる。


「…………ねえ、どうやって"気になるカレ"のことを知ったの……?」


「えっ、だって『コレで気になるカレのお腹もココロもわしづかみ♡』って書いてある雑誌を見開きの状態で置いてたし……」


 ……そういえば、おかずの作り方の手順を見るために置いてたんだっけ。そして、キッチンをメチャクチャな状態にして、手作りのお弁当を作るきっかけを思い出して暗くなって……そのままだった。


「あとは、ご飯の冷凍容器があったことかなあ。いつものフレイヤは『太るからお米食べない!』って言ってるから、絶対に出てこないもののはずなんだけど……。なんか容器も2つ出てたし」


 口をパクパクさせることしかできない私を尻目に、ママは話し続ける。


「まあ、この2つの状況から"気になるカレ"へ、お弁当を作ろうとしたのかなーって」


 開いた口がふさがらない。私の顔もすっかり赤くなってしまったようだ。顔のあたりに熱が集まっていくのをひしひしと感じる。

 ……なんかちょっと恥ずかしいからママとパパにはヒミツにしてたのに……。


 当のママはテンションが非常に高くなっている。私のテンションは現状そんなに高くなく、よく息の合う親子であっても似ない部分があるのだと実感させられる。


「うーん……。ご飯に梅干し、しょうが焼きに卵焼き。さらにピーマンのごま和え、きんぴらごぼう……。……フレイヤ、頑張ていこうっ!」


 赤面しながらママの力がこもったエールを聞くのだった。

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