表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/25

1話 とても柔らかく、温かいもの。

 ──この世界において、魔女の存在を知らない奴はいない。みんな魔女のことをウンザリ聞かされるからだ。

 ……残念ながら、俺だって例外じゃない。


 だって、父さんや母さん、おじいやおばあ、1歳くらいしか年が変わらない姉ちゃんや、ずーっと俺よりも背丈の低いおしゃべりな妹とかみーんなに、『魔女はこの世界を救ってくれた偉い人たちだ。お前も見習え』的なことを言われ続けたら嫌でも印象に残る。


 家だけでならまだ良かったかもしれない。

 ……しかし、学校でも、魔女のすごさや歴史、ルーカスとか言うなんか偉い魔女なんかの話が多くされるんだ。どんだけ魔女が好きなんだよ。


 ここで、魔女たちがフレンドリー……までとはいかなくても、魔女が俺みたいな何の力も持ってない奴らにもきちんと接してくれたらここまで言っていない。

 でも、基本的にあいつらは俺たちとは話さない。

 いつも見かける時に話しているのは同族の……つまりは魔女だ。


 魔女は、上も下も靴も靴下も黒色の服装をしている。例外はない。……たぶん。

 手首が隠れるくらいの袖の長さであるが、そのくせなぜかスカートはパンツが見えそうなくらい短いことが多い。

 あと、大抵へんてこりんな帽子をかぶっている。こんな格好を学校や街中で見ていて、痛々しく思う。


 また、魔女というのは物を持っていないと落ち着かないらしい。なんだか難しい本や、杖、はたまたほうきを持ってる奴もいる。

 ……どんだけ自分が魔女だって誇示したいんだか。


 いまさら魔女であることを誇示したところで何になるのか。だいたい、お前らは何もしていない。

 魔女が活躍したのは遠い昔。父さんや母さんが若い頃……いや、おじいやおばあが若い頃の話だ。

 俺には、どうしても親の七光りで『偉い、偉い!』って今でも言われているようにしか見えなかった。


 ──俺は魔女が嫌いだ。


 いつもそうだ。俺が何かをしてもいつも『魔女が……』なんて馬鹿の一つ覚えみたく言ってくる。

 まるで、みんなの目には俺だけじゃなくて魔女も一緒に見えているみたいだ。そして、当の魔女もどこかいけ好かない。


 こんなことを家や街中で言うわけにもいかない。街中ならまだ冷ややかな視線を浴びるだけでいい。

 ……しかし、家じゃ絶対ダメだ。

 まず、父さんのキツイゲンコツが飛んでくる。そして、その後に食事を抜かれ家を放り出されるだろう。


 俺はこんな感情をどこにも吐き出せずにずっと胸の中に抱いて生きていくと思っていた。

 ……昨日までは。


「……ねえ、ちゃんと聞いてるの〜?」


 …………何も聞こえていないし、何も見えていない。きっとこれは何かの幻覚なんだ。幻覚じゃなきゃありえない。

 ……学校の校舎裏で俺が、クラスメイトの頭半分くらい背の低い魔女に上目遣いで詰め寄られているなんて、そんなことありえない。


 いつもどおりの全身黒色の格好。

 いかにも"魔女"ってカンジの格好。袖は長くてスカートは短い。へんてこりんな形をした帽子をかぶっているのもいつもどおり。

 目はくりっと丸くて大きく、白いはずのほっぺたは今では……なぜか赤く染まっている。


 俺は魔女が嫌いだ。……嫌いなはずなんだ。

 でも、こんな魔女の姿は……。


 はじめての感覚だった。

 それがとても柔らかく、温かいもののように感じるのはなんでだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ