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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第6章 記憶の継承

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第188話 本当の自分#5

――ヨナ視点――


 不思議な城に侵入した私は、長い通路を通り抜けた後もいくつもの試練を突破しました。

 下が奈落で天井から伝う縄だけを伝って移動したり、足元が不安定な泥で魔物と戦ったり。


 しかし、そんな試練もいくつか突破していくと、感覚で伝わってきます。

 なんとなくわかるのです。この先にセナちゃんがいるというのが。

 そう思うのは私から生まれた人格だからでしょうか?


 やがて、私はとあるふすまの前までやってきました。

 そのふすまはこれまでの質素な感じのものではなく、殿様.....お父様がいた装飾のあるふすまでした。


 この先にいるのでしょうか......と思った矢先、勝手にそのふすまが開き、見えてきたのは階段。

 ただし、城の構造としてはあまりにも不釣り合いな角ばった螺旋階段でした。


「この階段を上れ.....ということですよね」


 私はふすまを通り抜け、階段に足をかけました。

 瞬間、踏んだ足が薄氷を踏んだようにひび割れ、数秒後には壊れていきます。

 すばやく二段目に足を伸ばせば、その段も同じような現象が起きて。


「気持ちを作る暇も与えてくれないということですか!」


 私はすぐさま階段を駆け上がっていきます。

 直後、一度でも足を踏んだ場所は時間経過とともに崩れ去り、下には相変わらずの奈落が広がっていきました。


 しかし、私はその光景にわき目も振らずとにかく走り続け、やがて最上階に。

 当然、通って来た足場は跡形もなく消えています。もう後戻りはできませんね。

 なら、今正面に見えているふすまが本当に最後ということ。


「ここにセナちゃんが......」


 私は一つ深呼吸しました。

 これから会う相手は自分であるのに、なんだか不思議な気分です。

 しかし、私も今更向き合わないつもりはありません。

 いえ、むしろ積極的に向き合わなければならない相手でしょう。


 私はふすまの前で正座すると、ふすま越しにいるであろうセナちゃんに声をかけました。


「セナちゃん、入るよ」


 そして、ふすまに手をかけ、丁寧にスライドさせ、部屋の中へ視線を移しました。

 すると、部屋の中心には巫女服を着たツインテールの少女が正座しています。

 間違いありません。あの女の子はセナちゃんです。


「......まさかこんな形で再会するとは思わなかったわ。

 アイツはちゃんと約束を守ってくれていたのね」


 そう言いながら、セナちゃんは両手を用いて体を百八十度反転。

 そして、私の方に真っ直ぐとした強い瞳を向けると、そっと笑みを浮かべました。


「久しぶりヨナ。いつぶりかしら」


 私は「失礼します」と言って、部屋の中に入りセナの前で正座しました。

 この人物がセナ......何と言いますか、顔の造形は私なのに全然違いますね。


 声から意思の強さが伺えてましたが、やはり目もキリッとしていて.....ってアレ?

 前までずっと心の中で見ていたのに、どうしてこんなにも初めてに感じるのでしょう。


「それは私という人物があんたの中から消えかけてるからよ」


「えっ!? 今、口に出ていましたか?」


「違うわよ。ここはあんたの精神空間よ?

 言うなれば、自問自答している感じ。思っただけで伝わるわよ」


「なるほど.....つまり、ここでは嘘がつけないという事ですね」


「そういうこと。だから、あんたの質問には全て答えるわ」


 セナちゃんの目からは強い意志を感じます。

 嘘をついてる感じでは.....って言ったそばから私は!

 ここは嘘がつけないんでしたよね。なら――


「どうして私からいなくなったんですか?」


 その質問に対し、セナは優しい笑みを浮かべ目を閉じながら答えました。


「それは当然私の目的が達成されたからよ。

 もう少し詳しく言うなら、私の存在意義が無くなってしまったから」


「存在意義......?」


「ヨナ、私がどうして生まれたか覚えてる?」


 セナが生まれた理由......それは確か私が鬼人国から逃げてる時の話ですよね。

 宿敵アルドークが鬼人国を滅ぼし、僅かな家臣と逃げている最中、気弱な私は次々と倒れていく仲間と、容赦なく襲い掛かる魔物に恐れをなして生き残るために強気な人格を生み出した。


 その人物こそがセナであり、物怖じせず魔物と戦闘できる彼女は、言わば私の理想を具現化した存在。

 そんなセナに頼って生きてきた――リツさん達に出会うまでは。


「そう、リツ達に会ってからヨナは少しずつ変わり始めた。

 弱いけど弱いなりに自分の出来ることを探し、やがてそれが自信に繋がり、性格が変化し始めた。

 だから、あの出会いがヨナのターニングポイントだったわけ」


「確かに、私はリツさん達に出会い、助けられ変わり始めたと思います。

 リツさんがいなければ、私は村の襲撃で死んでいたと思いますし」


「それだけじゃないでしょ? あんたはあの時、リツが闇に染められる瞬間を見た。

 それを見て見ぬフリが出来なくて、何よりその時にはもう好きだったから助けたかった......違う?」


 目を閉じながら私の質問に答えていたセナちゃんは、私へと問いかけた時片目をそっと開きました。

 なるほど、これはきっと試しているのですね。なら――


「はい。その通りだと思います。

 とはいえ、まだリツさんに想いを告げられていませんが」


「っ!」


 私が真っ直ぐ答えると、セナちゃんは案の定目を丸くしました。

 恐らくセナちゃんの予想では私は顔を真っ赤にして慌てると思っていたのでしょう。


 しかし結果は、その好意すらも受け止めた大人の対応。

 私だって自分の気持ちぐらい自覚しています......自覚だけですが。


「ほんと成長したわね......」


 セナちゃんはまるで母親のように涙を拭っています。

 そんな姿を見ながら、私は正直に気持ちを伝えました。


「だからこそ、セナちゃんが消えなきゃいけない理由がよくわかりません!」


「いや、もはや言ったようなもんだけど.....まぁそういう所は相変わらずね。

 つまり、今のヨナが出来た以上私はいらなくなったの!」


「それがよくわかりません!」


「だーかーら! 私の存在意義は弱かったヨナを守ること。

 でも、今のあんたは私が出張って動くよりもよっぽど戦える。

 もはや魔物に怯えていた昔のあんたはいない。

 これまでの試練がその全てを物語ってる」


 結局、セナちゃんは自分という存在が必要ないたる所以を全てを答えました。

 大声でまくし立てるようにしゃべったせいか息を切らしています。

 しかし、それでも私はわかりません。


「全く言ってる意味がわかりません!」


「あーもう! 何がわからないのよ! どこがどうわからないか細かく言ってみなさい!」


「どうして私が成長したからといって、セナちゃんが消える必要があるのがわかりません!」


「だから、それは存在意義が――」


「存在意義なんてなくていいじゃないですか!」


「っ!?」


 私はセナちゃんのことをずっと一人に人間として扱っていました。

 もっと言えば、カッコよくて頼りになる双子の姉のような存在。

 だから、そもそもそんな存在意義なんてしょい込む必要はないんです。

 セナちゃんはセナちゃんで、それ以上でも以下でもないんです。


「確かに、セナちゃんは私の心を守るために生まれた人格かもしれません。

 しかし、それはセナちゃんの言い分であって、私はその言い分を認めません。

 セナちゃんが主人格を私と言うなら、私の権限でセナちゃんは居残り決定です!」


「......ぷっ、あはははは! それはさすがにめちゃくちゃすぎよ!」


 私が人差し指を向けて宣言すると、なぜか大笑いされました。解せません。

 すると、しばらく笑ったセナちゃんは涙を拭いながら言いました。


「あーもう、とんでもない子ね。

 いつからこんなワガママになったのかしら。

 前はもっと大人しくて何事にも控えめだったのに」


「別にワガママになったつもりはありませんよ。

 ただ、私が救える人は少ない。両手ですくってもこぼれてしまうほどに。

 だからこそ、救える人は必ず救いたいんです。自分自身ならことさら」


「......ハァ、本当に強くなったわね。

 前は守られるばっかりだったのに、今ではその言葉が頼もしく感じる」


「なら――」


「でも、無理よ。もう私の消滅はすでに始まっている」


 そう言うとセナちゃんはそっと右手を伸ばしました。

 すると、その手は微かに透けており、セナちゃん越しに部屋の内装が見えました。


「そ、それは.....」


「人格の崩壊.....いえ、正確に言えば、私はとっくに()()()()()()

 しかし、この神殿の特殊性から崩壊した私の人格は再び集められ、形作られたわけだけど......それも一時的なもので、もうすでに崩壊したものは直らない」


「そんな!? まだ、まだ何か方法が――」


「あるわよ」


 そのセナちゃんの返答に、私は思わず笑みを浮かべました。

 ですが、その笑みはすぐに崩れ去ることになります。


「この場所に居続けること。ただし、その選択をした時、あなたは一人この場所に残され、好きな人と大切な仲間達の永遠の別れが待っている」


「っ!!」


「そう、つまり私を助ける方法はないということ」


「そ、そんな......」


 私は両手を畳につけ、頭をガックシと下げました。

 そ、それじゃ、私はセナちゃんを助ける方法はないということですか!?

 私が少しでも、それに早く気付いていれば!......いえ、それを隠してたんですよね。


「いつから......いつから消えようとしてたんですか?」


「そうね。私の存在意義が明確に失われた瞬間は、あんたがアルドークと戦っていた時に過去の辛い記憶を乗り越えた時。

 もはやあれ以上のわかりやすい成長の証は無かったわ。胸を張りなさい」


「でも、それで......それでセナちゃんが消えちゃうなんて......」


 目から涙が、涙が溢れて止まりません。

 私はまだセナちゃんに何もお返しが出来てなくて。

 なのに、セナちゃんは役目を終えて消えてしまいそうで。

 一体私はどうしたら――


「戦いなさい――私と」


「......え?」


 セナの言葉に頭を上げると、セナは立ち上がり、手元に薙刀を出現させました。

 そして、その刃先を私の顔の前に近づけます。


「私の生まれた理由は、あんたの弱い自分を変えたいという理想が具現化したものなら、あんたが私と戦って勝つことが私にとっての何よりの恩返しになる。だから、戦いなさい」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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