第134話 迷宮の壁画の謎
紆余曲折あったが魔神の使途が召喚したアスモデウスという怪物は無事に倒し終えた。
僕が敵の一人を拘束していたせいかあのデカブツは大した強さも無かったな。
今回は朱音達メインで戦わせたけど、本来の僕と蓮のペアならあっという間に倒せただろう。
さて、そんなことよりも問題はこっちだ。
先ほどは朱音によって信頼を得て共闘する形になったけど、その共通の敵はすでにいない。
ましてや、僕達は聖王国で盗みを働いたおたずね者だ。
どうとでもなるけど出来る限り穏便に済ませたい。
「さて、これからの展開だけど......取引をしない?」
「取引......ですか?」
朱音が訝し気な目で見てくる。まぁ、そうだよな。敵の敵がいなくなったんだから敵だよな。
そんなことは想定内。こちらが優位であることを活かして話を進めよう。
「僕達はここから安全に出たい。しかし、僕達の存在は君達からすれば敵でしかない。
そこで僕達のことを黙っているのを条件にして君達の安全な脱出を保証しよう」
「それは取引にかこつけた脅しだよね?」
「そう捉えてもおかしくない条件ではあるな、うん。そう考えてもおかしくないことは認めよう。
だけど、君達は理解したはずだ。先の戦いの中で―――どのくらいの戦力さがあるかを」
「っ!」
その言葉に朱音以外の拳矢、貝塚、新田さんは歯を噛み締めた表情をする。
力の差を知って無力さを知って悔しいのだろう。わかるよ、その気持ち。
だけど、僕達の方がまだ先輩かな。
そんな中、朱音だけは確かなリーダーとしての覚悟を持った目で言った。
「分かった。飲むよ、その条件」
「快く引き受けてくれたことを感謝するよ。
ただ......僕達の間で信頼関係がない以上、その口約束が果たされるとはこちらも思っていない。
というわけで、保険を打たせてもらう」
僕は四人に向けて魔法陣を転写した。
といっても、転写した魔法陣は<自然回復量増加>の魔法陣で害はない。
しかし、僕を敵であると認識している君達ならよく効く嘘だろう。
悪いね、まだ学院にやることがあるんだ。
「さ、途中まで案内するよ」
*****
ダンジョン崩落騒ぎから数日が経った。
試験は当然中止になり、代わりに別の試験が用意されるみたい。
その事件においてダンジョンにおける死者がゼロというのが大きく取り上げた。
当然だ、なんせその崩落は十五階層まで届いていたようだから。
ランドルの放った攻撃は言葉通りどこの階層にいたとしても勇者である朱音を屠るためのものだったのだろう。しかし、なぜ勇者を? その疑問は未だ解決していない。
でもって、その狙われた勇者はというとダンジョンを破壊した敵を倒したことと人類未踏の場所である七十五階層に辿り着いたということで表彰された。今では街はすっかりお祭りモード。
しかし、肝心の勇者はその表彰に対してあまり喜んでいないらしい。
それはきっと僕達のことがあったからだろう。
ま、街ではそれが謙虚な姿勢として捉えられてるみたいだけどね。調子いいよね。
こんな感じで僕達のダンジョンでの騒ぎは幕を閉じた。
あ、もちろん、僕達の当初の目的も果たしてあるよ。
「ヨナ、動いて大丈夫なのか?」
「はい、少し衰弱していただけですから問題ありません」
休日の今日、ソラスさんにたまには遊びに来いという指示で仕方なく娼館に向かっているとそこにヨナもついてきた。
今はそこまでの道を歩いている最中。
僕の言葉にヨナは柔らかい笑みで答えた。しかし、やや硬い。
恐らく人質になってしまった申し訳なさがあるのだろう。
「それよりも今日はどうして僕についてきたの? 別に大した場所に向かうわけじゃないんだけど」
「私もソラスさん達に避妊丸薬を渡す用があったんです。それに久々にお話もしてみたかったですし」
そう言えば、ソラスさん達に関わってからヨナが医者として薬を渡している。
それはヨナを医者と知って以来、彼女に避妊薬の依頼を頼んでるんだったよな。
それにしても、避妊丸薬って作れるんだ。
「ミクモさんとメイファの様子はどうだった?」
「泣きながら謝られました。私が不注意で捕まってしまったのが悪いのでどう考えても私のせいなんですけどね」
「僕からすれば三人に折り合いがついてるならそれで構わないさ。それよりもヨナが無事で良かったと思ってる」
「リツさん......ご迷惑おかけしました」
「だから、いいって。律儀だなぁ」
これはしばらく低姿勢ヨナが続きそうだな。
そんなことを考えながら召喚に辿り着くと裏口から入っていく。
久々に顔出した影響かソラスさんから思いっきり抱きしめられた。
顔面に柔らかい二つのメロンが当たっていく、否、埋まっていく。
僕は咄嗟にソラスさんからヨナの態度に警戒したが、いつもより大人しかった。理由は省略する。
そのせいか僕は他の店員からも久々の若い男だ~ということで色々とおもちゃにされた。
もちろん、一線を越えるようなことはしていない。
しれっとズボンを脱がされそうになったが。
そんなこんながありつつ、僕はソラスさんから一つの部屋を借りるとそこにヨナと一緒に入った。
ヨナは盛大に勘違いしたようで顔を真っ赤にしていたが、ここに入った理由は一つ。
僕はヨナをベッドに座らせると横に座って聞いた。
「ヨナ、何か見たものがあるんじゃない?」
「っ!」
ヨナは一瞬驚いたような反応をしたがすぐに「はい」と答えると話してくれた。
「私が見たのは大きな魔法陣と壁に描かれていた壁画です」
「魔法陣と壁画か......それじゃまずは魔法陣の方から。それはどんな形とか文字が書いてあったかわかる?」
「すみません、わかりません。ただその魔法陣の上には急遽たくさんの魔物の死体が積み上げられていって、その魔法陣が光り出した時にはその死体が消費されるように飲み込まれていったんです」
「なるほど、飲み込まれたね」
それは恐らく贄が消費されたのだろう。儀式とも言い換えられる。
自分よりも高位、もしくは自分の魔力では補えないほどの強大な存在を召喚する際、必要な魔力を別の形で清算して召喚を行う。
ヨナが見たのは恐らくアスモデウスに対する召喚対する贄であろう。
本来はリレーネというもう一人の魔神の使途によって行うはずだった召喚を僕が彼女を捕らえてしまったために急遽贄を用意する必要が出てしまった。
しかし、たかがダンジョンにいる魔物の贄を消費した所で魔神の使途が持つ強大な魔力に比べれば雀の涙に等しい。
だからか、二人は命をも消費して召喚を行ったにもかかわらずアスモデウスが半身だけしか召喚されなかったのは。相手が相手ならあの姿でも十分な脅威になるだろうけど。
そう考えると相手の敗因はアスモデウスに対抗できる戦力がいたことと魔神の使途が捕まったことかな。
っていうか、そう考えるとリレーネって人物はマジで戦犯になるな。可哀そうに。
「うん、そっちの魔法陣の方はたぶん問題ない。必要があればもう一度確認しに行くし。
次は壁画だっけ? それには何が描かれていたの?」
「それが―――」
ヨナはその時見たことを出来る限り詳細に教えてくれた。
勇者パーティと戦う人型の何かねぇ。そして、その何かの中心には白く四角いものが。
う~む、歴史には疎いからなぁ。もっぱら読んできたのは魔導書だし。
「推測するにそれが勇者パーティだとすれば、戦った相手は魔神なんかじゃないか? なんでそこに描かれていたかはわからないけど」
「私もそう思います。そして、そこに描かれていた理由ですが、誰かが正しい歴史を伝えようとしたのではないでしょうか?」
「正しい歴史?」
僕が聞き返すとヨナは「本当にただの憶測で何の根拠もない身勝手な妄想なんですが!」と手をワタワタさせながらめっちゃ保険かけて言った。
「私達がガレオスさんから聞いた内容と今この世界で伝わってる歴史はまるで違います。
理由は色々ありますが、何らかの理由でその歴史が歪められてしまったことに気付いた本当の歴史を知る人物が壁画にして残したのではないでしょうか」
「だとしても、なんでわざわざネルドフ大迷宮のそれもヨナが捕らえられていた地下に?」
「その迷宮は勇者以外は五十五階層までしか辿り着けていないんですよね?
だとすれば、仮にその本来あるべき歴史を歪めたい人からすれば、そんな場所に正しい歴史を描いた壁画があったとしても気づきようが無いと思うんです」
「......なるほど」
「私が何階層にいたかわかりませんがそこが仮に百階層だとすれば、まずそこまでたどり着ける人という時点で思いっきりふるい分けられます」
「その言い方だと勇者パーティの誰かがその壁画を残したことになるけど......もしかしてガレオスさんが!?」
可能性はないとは言い切れない。
ガレオスさんは魔神が生きていることを知っているんだから。
そんなことを考えているとヨナが「他にも情報があります」と言ってきた。
「その壁画に描かれていた勇者なんですが、その勇者は角がありました」
「角?」
「はい。他にもエルフのような尖った耳がある人、ガレオスさんにも似た獣人、目を黒い布で覆った女性などです」
「.......」
その言葉に思わず言葉を失った。
エルフの人は分からないが、ヨナが見てガレオスさんにも似た人物と挙げ、さらには目を布で覆った女性と言った。
その人物とは僕だけがハッキリ対面したことある。名前は確かロクトリスだったはずだ。
ということは......まさか!?
まさかその魔神と戦った勇者達ってのはガレオスさん達のことだったのか!?
だとすれば、どうして今は魔神側に!?
そう言えば、前にも世界樹から記憶を見たような......うぐっ!? あ、頭が......!?
「リツさん? リツさん!? 大丈夫ですか!?」
そして、僕はそのままヨナの声を遠く聞きながら気を失った。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




