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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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七十二話 新天地へ

 ベイルたちの出立のことを鑑みて、送別会は日が変わる前に終わることとなった。

 それからベイルたちは纏め終えた荷物の確認をし、明日からの旅路に備えて眠った。


 そして日が変わり、まだ陽も昇っていない時分に、ベイルたちは礼拝堂にて最後の確認をしていた。


「これで、必要なものは全てですね。こうしてみると、以外と少なかったですね」

「そうですね。殆どが備え付けのものでしたから」


 荷物を見渡して呟いたベイルの感想に、ルナが同意を示す。

 殆ど何も持たずにこのノーティス村に流れ着いたベイルたちには、私物と言えるようなものは殆どない。


 ここでの生活も、多くは元々教会にあったものを使っていたし、その後手に入れた家具などは旅に持って行くには大きく、重たい。

 結果的に、持ち運びできる私物は少し大きめの革袋で事足りてしまった。


「私も、特にもっていくものはない」


 ルナの力によって快復したティアが、何も持たずにそう言った。


 彼女の服装は神官服のそれではない。


 彼女の青髪がよく映える紺を主体とした服は、シェリーが子どものころに着ていた服だ。

 昨日の送別会の折りに、偶然ティアの服の話となり、その流れでプレゼントしてもらったのだ。


 年相応の出で立ちにベイルは頬を緩める。


「それじゃあ、行きますか」


 ベイルたちは静かに教会を後にする。

 ギリアン一行は気を利かせてくれたのか、一足先に北部の山脈に向かっている。


 ベイルたちはゆっくりと、ノーティス村を進む。

 別れが惜しくなるからと、見送りはいらないと伝えてあったからか村内はひどく静かだ。


 視界に映る景色一つ一つに、それにまつわる思い出が脳裏をよぎるほどにこの村で過ごした記憶は多くある。

 ベイルもルナも、一言も話さないがそのどちらもが心の中でその思い出を懐かしんでいた。


 やがて村の外へ出る。

 そこでベイルは歩みを止めると、振り返った。

 ルナたちもその行動に倣う。


 それから少しの間、三人は黙ってノーティス村の外観を眺めていた。


「――必ず、またここに帰ってきましょう」


 ベイルの口から、それは殆ど無意識のうちにこぼれ落ちていた。


 この場所に帰ってこれる確証はないし、帰ってこれたとしてどれだけ先の話か。

 それでも、昨日の送別会で村の人たちと話しているうちに、ベイルの中ではいつの間にかそんな想いが強まっていた。

 そしてそれは、ルナも同じことだった。


「そうですね。……必ず」


 ルナは強く頷くと、ノーティス村に向けて頭を下げた。


 彼女が心の中で何を想っているのか、ベイルにもよくわかる。

 ルナのその行動に、ベイルもまた続いていた。


 ◆ ◆


 それからはもう立ち止まることなく、ギリアン一行と合流すべく先を急いだ。

 とはいえ、ルナの体を気遣ってその速度自体は通常よりも遅い。


 そうしているうちに北部の山脈に差し掛かり、木々が生い茂る狭い山道を三人は歩いていた。


 すでに白み始めている山中。

 ルナに暗い山道を歩かせなくてすんでよかったと、ベイルは内心でホッとしている。


「なんだか、懐かしいですね」


 隣を歩いていたルナが、小さく零した。

 何が、とは訊かなくてもわかった。


「そうですね……」


 虚空に溶けるような声で、ベイルは頷く。


 懐かしい。一年と半年前。神殿を抜け出して、安住の地を求めてあちらこちらを駆け巡った逃避行。

 今はティアもいるが、ルナとこうした山道を歩くと否応なしに懐かしく感じる。


「……ぁ」


 不意に、ルナがその足を止めた。

 一歩前に出たベイルはルナの動きに気付き、その場で振り向く。

 そして、ルナの視線を辿った。


「ベイルくん、ティアさん、見てください。葉っぱが黄色くなってます」


 ルナが指差した先。

 他の木々よりも頭一つ分飛び出ている木々の葉が、日光によく当たるからか黄色くなり始めている。


「もう、秋ですね」

「そうですね」


 季節の巡りを感じながら、ベイルはそう呟いていた。


 暑さに弱いルナにとって秋や冬は過ごしやすい季節だ。

 そういう意味でも、旅に出るのがこの時期でよかったと、ベイルは今更ながらに思った。


 目を輝かせて、僅かな紅葉を眺めるルナ。

 その横で、ベイルは紅葉ではなくそんなルナの横顔を見つめていた。


「聖女様、俺、強くなります」


 横顔に見惚れているうちに、ベイルはそんな決意を口にしていた。

 それを聞いて目を丸くするルナだったが、すぐに表情を引き締めると、彼女もまた凜とした声音で応じる。


「私も……!」


 手をグッと胸に抱き寄せて、ベイルの顔を真っ直ぐに見つめる。


「私も、強くなりますっ。この身に宿るかもしれない力と向き合って、ベイルくんの力になれるようにっ」


 それが、ルナの決意だった。

 今までのようにただ守られるだけでなく、共に戦えるようになりたいと。


 ……出来ることならば、ルナには戦わないで欲しい。自分に守られて欲しいというのが、ベイルの正直な想いだ。

 しかし、彼女の決意を前に自分が口を挟んではいけないような気がして、ベイルは口を閉ざした。


「――私も」


 そうしていると、今度はティアもまた口を開いた。

 ティアはベイルをジッと見つめて語る。


「私は石版を破壊されて力を喪った。このままだと、私はただの足手まとい。でも、ベイルが力を使えている以上、私にも使えるはず。……ベイル、私に力の使い方を教えて。私も、一緒に戦う。戦いたい」


 二人の少女の視線がベイルに集中する。

 そのどちらも、強い覚悟と決意を瞳に宿していた。


 ベイルは逡巡し、しかしすぐに力強く頷いた。


「――わかった」


 住む場所が、環境が変わるにつれて人も変化していく。

 それぞれの想いも、願いも。


 三人は新たな決意と覚悟を胸に、進み出した。


 新天地へ向けて――。

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