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追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~  作者: 松ノ木るな
【 第八章 】 同じ思いを抱いている

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④ 拾われた歌姫

 アリアンロッドはまず、先ほど見つけた例の家の家族に、話を聞きにいこうと思っていた。

 この男といたらいつどうなるか分からない。もし万が一、あんなことどんなこと?になったら、元の世に帰れなくなるかもしれない。そもそも名前も教えてくれない男だ。


「この街に到着する前にも小耳に挟んだが、若い女は見境なく襲われるらしい。惨たらしい撲殺死体で見つかっているとか。悪いこと言わないから俺といろ」

「え、ええ……??」


 しかしアリアンロッドはまずあの家族に会いに行って、話を聞いたら、あとは森の入り口で野宿でもして帰るのを待ちたい。街にいなければ事件に巻き込まれることもないだろう。死の時期が分かっている自分はここで命を落とすこともない。元の世にも帰れる。しかしそれは彼と共に行動をしない、という道を選択したからであろう。


「いえ、私、ひとりでも大丈夫だから」

「……フン」

 目線を合わせようともしない頑固な彼女に男も、それ以上は引き止める理由もなく。


「なら、このメロン、衣服より価値が高いからその差分だ」

 男は持っている硬貨の袋をアリアンロッドに渡した。

「これ……」

 中にはメロンの価値をゆうに超えるほどのコインが。

 この貨幣はアリアンロッドの国の上層階で流通しているものだ。


「硬貨の使い方は分かるか?」

「ええ。でも、これまだ使えるの?」


 彼は彼女をふしぎな女だと感じた。

「そのうち使えなくなるが、今は大丈夫だ」


「そう……」

 国が戦いに敗れてまだそれほど時間がたっていないのだと知る。彼に向かい一度頭を下げ、ふらふらと離れていった。




 ひとりで大丈夫、と言ったものの、アリアンロッドは男について歩いていたので、早速道に迷ってしまった。狭いところに建物が多くあるもの問題だ。

 こちらの方へ行けばいつかは着くだろう、と当てずっぽうで進み、結局人気(ひとけ)のない路地に入ってしまう。嫌な予感がして、足早にそこを通ったら。


「っ!! ……」

 後ろから唐突に急所を攻められ、火花が散った。アリアンロッドは倒れ、脳裏に「お嬢さんも気を付けなよ」との声がうっすら蘇った瞬間、意識を失った。




◇◆◇



「ん……?」

 目を開けたら、視界には天井が。次に、ぬっと出てきた、青年の顔面。アリアンロッドは驚きで息を飲んだ。


「気分はどうだい?」

「あれ…? 私は、いったい……あ、痛っ」

 起き上がろうとしたらみぞおちに痛みが走り、肩をすくめた。


「君は暴漢に襲われたんだよ。ちょうど通りがかった私の従者が撃退したんだ。もう少し早く私がそこに着いていれば……」

 品の良さそうなその青年が手を上げると、メイドがグラスの水を持ってきた。

「いえ、助けてくれて、ありがとう……」

「捕まえられれば良かったんだけど、従者は一人だったから……」

「いえ、ほんとうに」

 彼は指を立てて聞く。

「これ何本?」

「3本」

「自分の名は分かる?」

「ええ」

「じゃあ大丈夫かな」

 アリアンロッドが少しその場を見回すと、広く立派な部屋だと分かる。


「僕はダリス。少し前この地区にやってきた地方貴族なんだ。君は?」

「私はアリー。えっと、旅の途中で……」

「ああ、そうだ! そうではないかと思っていたんだけど、君はもしかして、あの催しで優勝した歌い手ではないかい?」


 そうだと答えたら彼は、これは神の采配ではと喜びの声を上げた。

 アリアンロッドはふしぎに思い、話を聞くと。


 東方から来た貴族の彼は語る。昨年よりユング王が支配することになった、ここ新しい土地の、特に発展の目覚ましいこの地域は、移住先としてアッパークラスの間で注目を浴びている。そして支配者ユング王によって地域の統率者が選ばれるのだが、その決定日が迫っているという。


「ユング王の支配……昨年……」

「ん? 私は4人の統率者候補のひとりだ。だから三月前からこの地域に入り、準備をしている。だけれど……」


 同じく東から来た貴族が、彼を目の敵にしているようだ。


「明日にも、ユング王代理の補佐官がこの街にやってくる。観衆の前で候補者は贈り物を献上し、王の意向を汲んだ代理の方がそれを決めるんだ」

「贈り物の内容で?」

 彼は頷く。


「なのにここにやって来てからというもの、その男は私が準備した贈り物をことごとく粉砕してくる。元々の領地が隣同士でね、以前から隙あらば土地も資源も狙ってくるとんでもない奴だった」

「ひどい。告発しないの?」

「今言っても、証拠がなければこちらが妨害しているように取られてしまう。奴は狡猾でね……。地域を良くしようなんてこれっぽっちも思っていない、私欲にまみれた奴なんだ」


 アリアンロッドは、それでなぜ自分と会えたことが神の采配なのかを聞きたい。


「実は、君にお願いなのだけど……私の贈り物として、そこで歌を披露して欲しいんだ」

「えっ、ええ――!?」


 貴族青年ダリスは続ける。たとえ選ばれても、ユング王の物にならなくていい。自分は辞退するし、ただ告発したいだけだ、と。


「再度献上品を用意する費用も、もう尽きた。しかし手ぶらで不正を言っても、負け惜しみと取られるだけだから。君の歌という貨幣では手に入らない素晴らしいものを見せつけて、告発したいんだ」


 アリアンロッドとしては、役に立てるものなら協力したいのもやまやまだが。

「お願いだ! 君のことは必ず守るから!」

 確かに、民のことを考えていない人間が地域の主導者になるのも困る。

「……分かったわ。本当に歌うだけでいいのよね?」

 そう聞いた彼の表情は、喜びに安堵が入り混じった印象だ。

「もう立って歩けるかい? それなら、見せたいものがあるんだ」




 彼に案内され入室したのは衣類庫のようだった。その一角に、女性用の煌びやかな衣装が数多く掛けられている。


「わぁ、綺麗」

「舞台用に君の好みで選んで。気持ちよく歌って欲しいから。アクセサリーもたくさんある、いくらでも試して」


「あ、これなんか素敵」

 アリアンロッドは一着手に取ってみた。

「それにしても、これは一体、どなたの?」

 この問いを何気なく投げかけたら、彼の表情が曇った。それに気付きアリアンロッドは、聞いてはいけないことだったかと、それ以上追及しないでおいた。ここに家族がいるならもう紹介してきているはずだし、何か事情があって今はここにいない家族の物なのだろう。



 その夜、アリアンロッドは良い寝室と当分の上質な衣服を与えられ、今は窓際で庭を眺めながら休憩している。

(ダリスには出歩かないよう言われたけど、やっぱりあの家族のところに行きたいわ。)


 ここが《《いつ》》であるのか、おおよその見当はついたが、ここに元より住む民はどうなったのか、移住者が多いようだが問題なく暮らせているだろうか、それを確かめたいのだった。


 夜が明け、屋敷の周りも十分に確認し、順路に問題はない。小走りで目当ての家族の元に向かった。




 目的の家屋に辿り着き、庭にいる者に話しかけてみた。その女性は、このあいだ話しかけてきた少年の母親だった。彼女はアリアンロッドの顔を見た途端、大変驚いて、お待ちくださいと家内に入って行った。家の主人も大慌てで出てきて、彼らは膝をつき頭を下げる。


「あ、もうここの為政者ではないので、楽にして?」


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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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