表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~  作者: 松ノ木るな
【 第七章 】 永遠に君のそばにいる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/134

⑪ 歳の近いきょうだいあるある

「ルシオーレ殿下! 私も行くから馬を貸してください!」

「あなたは馬に乗れるんですか?」

「当たり前よ!」

 仮にも大聖女であるし、当たり前でもないと思うが、ルシオーレは微笑んだ。

「エールが無事でいてくれればいいのですが……」



 ふたり、急いで王都を走り抜け、1時間ほど山道を駆け上り、物々しいオーラの漂ってくる方へと歩を進めると、先には大きな洞穴があった。更に注意深く進んでいくと、そこには項垂れたルミエールの姿が。

「エール、無事か!?」

 ルシオーレがルミエールに近寄ったところで、奥に見えたのは、人の身体より少し大きいメスのワイバーンだった。それは目つきは鋭いが、動く気配はなく、どうやら身体の下で卵を温めているようだ。


「オーレ兄様、どうしてここへ……」


「わわぁ……」

 アリアンロッドは初めて見るワイバーンが恐ろしく、洞穴の中の岩陰に隠れた。ルシオーレは槍を持ち出したが、アリアンロッドは準備など頭になく、何も武器を持ち合わせていない。付いてきたはいいが、何の役にも立ちそうにない自分にシュンとしてしまった。


「お前こそ! どうして軍隊が帰ってくるまで待たなかった!?」

「ちょうどいい、兄様。その槍を貸してください」

 そう言って彼の持つそれを掴み取ろうとする。


「待て。何をするつもりだ」

 手元を見るとルミエールは弓を持ってきたようだ。しかしその矢はすべて、ワイバーンの近くに折れて転がっている。


「持ってきた矢に睡眠薬を塗り付けておいたのですが、ワイバーンの固い羽にはまるで効かず、威圧にもならなかった……」

 そしてルシオーレは気が付いた。転がる矢の周りに、つまりワイバーンの手前にて、茂る花々に。


「まさかあの花が、薬となる……」

「そう。ワイバーンは矢を放った私に反撃を仕掛ける様子はないですが、花を摘もうとすると威嚇してくる。ここより近付けば襲い掛かってくるのでしょう……」

「なら槍を渡すわけにはいかない。我ら個人では歯が立たぬ相手だ」


 この兄の言い分に、ルミエールはこめかみをピクリとさせた。


「私はあなたと違い、日々の鍛錬を欠かしてはいない。昔はよく仕合ったのに、兄様は大人になってからというもの、ろくに槍を持たなくなりましたね」

「王子の趣味の鍛錬でどうにかなる話では」


 ルシオーレは無意識だが、面倒くさそうに零すので、ルミエールはより態度を硬化させる。


「だいたい兄様はいつもそうだ。確かにあなたは鍛錬など積まなくても、何もかもおできになる。そしてそれ以上にちゃっかりしている。ここだって軍人に任せておけばよいなどと」


「だってそうだろう!?」


 岩の裏に隠れたままのアリアンロッドが、「なんだか雲行きが怪しい……」と唇を引き結んだ時。


 彼女の予想を裏切らず、ルミエールは悲痛な面持ちで、不平をこぼし始める。

「そうなんだ、兄様は神に愛された資質の持ち主で、努力などしなくてもすべてをそつなく完璧にこなし、人望を集めるのだ。その陰で割を食うのはいつも私」

「何を言っているんだ……?」


「あなたは何も意図せずその要領の良さで私の努力を蹴散らし、人々の信頼を勝ち取り、得意満面に生きていく」


 元々第一王子のルシオーレが王の後継ではあるのだが、そこは実力主義のしきたりゆえに、国史上では必ずしも第一王子が、というわけではなかった。ルシオーレ本人は、さほど王位に固執しておらず、学業、政務においても真剣さは見られない。王や議員らは時に、第二王子の方が真面目で結果的には良い実を結ぶかもしれない、と考えるふしもあった。そのたびに、ルミエールは期待していた。真面目にこなしていれば、自分は兄を超えられるかもしれないと。

 しかし結局、多くの者が認めるのはルシオーレのカリスマ性であった。取り組みが真剣でなくとも、なんであれ出した結果はすべてルシオーレの方が上回り、その懸命さを見せない(さが)が、より余裕を感じさせ、大器を予感させる。

 その輝きをルミエールは一番近くのすぐ隣で、否が応でも認めなくてはならなかった。


「それでも、私は地道に自分のできることを模索していくしかない。だからこの度は、私がここであの花を摘み、己の手で父様を救ってみせる。そうしたら彼はあなたでなく、私を後継に選ぶかもしれない」


 岩陰からアリアンロッドは、集中して彼らの話を聞き取ろうとしている。


「お前は王位に就きたいのか? 私は、どちらがそこに就こうとも、手を取りふたりの力を合わせ、国をまとめていければいい。お前がそこに就くというなら、私はいくらでも助力……」

「違う! そうではない! 王位に就きたいのではないのだ。王といえども、実は(まつりごと)への意向の反映は少なく、その割に責任ばかりが重く、報酬だって労力に見合うほどでなく、地方領主の方がよほど左団扇で暮らしているではないか! みな分かっていて押し付けているのだ、結局そんな地位(もの)、我がままな大聖女と聖女の子守役だって!!」


(え~~!? 実は歴代王って“我がまま娘のお守りとか勘弁してくれよ~~”なんて思いながら大聖女と組んでいたんだ!?)


 アリアンロッドは白目を剝いた。あまりにショックで声も出ない。


「そうまで分かっていてもその王になりたいのか」

「あなたを差し置いてその地位に就いた、という実績が欲しいのだ」


 そこでルシオーレは怒りをあらわにする。

「そんな実績が何になるというのだ!!」

「あなたには分からない! 分かるわけないんだ! 人に褒められ認められ、求められるのが極々当たり前のあなたに」


 そう聞いたら今度は溜め息をついた。

「分かっていないのはお前だ。正直に言おう。私はお前になりたい」

「何を!? 私なんかになったらあなたの人生はつるべ落としだ。何を好き好んでこんな、真面目さだけが取り柄の地味な男に……」


「なら派手な男とは何だ? すべてを手に入れた男か? 男の求めて止まないものは何だと思う? 地位、財産? それらに関して今我々は同程度だ。それなら次に求めるものは?」

 アリアンロッドは「なんだろう?」と首を傾げた。


「女だ!!」

 出題者からすぐに答えが聞けたアリアンロッド、ああそうですか、としか感想がない。


「それであれば、お前の方が格上の男だ。お前は私の愛して止まないふたりの女性の愛を、一身に浴びたのだから」

「ふたり?」

 ルミエールは不審げな顔をする。


「すなわち、グローアとお母様だ!!」

「えぇ~~??」

 響いたのはアリアンロッドの叫びだが、男ふたりは真剣なので気にしなかった。


「お母様はいつも、私よりお前を気にかけていた。やはり不器用な子の方が可愛いらしい。まぁそれは分からぬでもない。しかし私は何より、グローアだけは手に入れたかった……」

「えっ? 兄様はグローアを好ましく思っていたのですか? そのようなそぶりはまったく……」

「その心に気付いた頃には、お前たちはもう出来上がっていたのだ! そう、お前たちは5つの時点で既に思い合っていた。その仲は揺らぐことなく、ゴールイン……」


 アリアンロッドは苦虫を噛み潰したような顔になった。

(あ──……5歳でファーストキスを経験していた派の人たちだ……)


「兄様も3人の美しい妻をお持ちではないですか……」

「もちろんそれぞれに美しくできた妻らだ、大事に思う。しかし私は齢6つで既に諦めなくてはならなかったのだぞ。初めて愛した女性を目の前で持っていかれ、それを生涯忘れ得ぬ運命に甘んずると……」


 彼は項垂れた。その姿すらも美しい。


(兄弟共に思い込み激しくて、熱いなぁ……。兄弟喧嘩は犬も食わないわね)

 アリアンロッドもこの思わぬ展開に、なりゆきを温かく見守る心構えができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


labelsite_bloom_shish.png

しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ