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追放聖女アリアンロッドは過去も未来もあきらめない! ~救国の乙女は願いを胸に時の河を超える~  作者: 松ノ木るな
【 第四章 】 私が再会させてあげる!

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⑦ 稼ぐことの難しさ

 朝からふたりで仕事の割り当て分を懸命にこなし、夕方には先代王が笛づくりに専念した。それをアリアンロッドは隣でじぃっと、興味深く見ている。


「とりあえず簡単なものはできた」

 改良の余地はいくらでもあるが、と付け加え、横笛を目上に掲げる。

「わぁ、演奏してください」


 彼は故郷を思う調べをアリアンロッドの前で吹いた。

 切ない音色が綴られると、アリアンロッドは思わず涙を流す。


 吹き終えた先代王は、柔らかな表情で彼女の顔を覗き込み、頭を撫でた。


「もう言葉にならないです。いつか帰りたいなって思うところを思い浮かべました。私は王都に生まれ、そこを離れたことがないのに……」

「あなたが生まれてくる前にいたところを、想っているのかもしれないね」

「これは他の人にも聴かせたい! それに、この演奏ならお金を出してでも聴きたいって思う人も絶対いるわ。だって私がそう思うんだもの」

「いや……でもねぇ……」

「王の座に就いたお人が、吟遊詩人のようなふるまいは嫌ですか?」

「いいや、そんなことは」

 彼の懸念はそこではないのだが、アリアンロッドには通じなかった。


「今日はもう暗いから、朝からまた考えましょ! 仕事もちゃんとやらなきゃいけませんしね」

 ふたりは借家に帰り、やはり仕事疲れですぐ寝入った。




 また早朝からアリアンロッドは農作業、王は縄づくりに勤しんでいた。その昼の休憩中にアリアンロッドが自分の考えを話す。

「私は歌が得意だけど、ここで慣れ親しまれている歌とはジャンルが違うし、外では歌わないように言われているの」

「聖女であるあなたの、特別な能力なのだね」

「そう。だから、私も楽器をやってみようと思うんです! 王様が主旋律で、私が伴奏!」

「ああ、いいと思うよ」

 計画の第一関門を突破して、アリアンロッドの除草がザクザク速度を上げる。


「でも私、修業は歌ばかりで楽器を弾いたことなくて。初心者でもできそうな楽器、ないかしら?」

「そうだなぁ、吹くよりは叩くほうが気楽だろうな」

「太鼓、とか?」

 そこで王は近くに置いてある土瓶をいくつか叩いて鳴らした。

「他にも何か、叩いて音が鳴るものを集めてくれ」

「? はい」


 アリアンロッドは近くを駆け回り、陶器や銅の小物を複数個持ってきた。先代王はそのすべてを鳴らした後、並び順を変えるのだった。


「こちらから順に叩いてごらん」

「はい?」

 タンタンタンタン……と、アリアンロッドが棒で叩いてみたところ。

「だんだん音が高くなってる!」

 アリアンロッドは喜んだ。そして先代王は簡単な曲をそれで弾いてみせるのだった。


「! すごい! 陶器が楽器になった!」

「ではこれで私の伴奏をしてくれるかい?」

「弾き方を教えてもらえたら。頑張って練習するわ!」


 こうしてふたりは夕方まで仕事に励み、それ以降は月明りの下で楽曲演奏の練習を行う、そんな日々を過ごした。

 寝る間も惜しんで練習し、10日も過ぎただろうか。


「ものすごい上達ぶりだよ。さすがに歌唱であれだけの表現ができる声楽家は、拍子の取り方も一級だ」

 思いがけず久しぶりに大人に褒められ、アリアンロッドはまんざらでもない。こうして褒め合い合戦が始まる。

「それほどでも。私の伴奏より、やっぱり王様の笛は叙情的で人を強く惹きつけますよ。王様、実はプロの楽師だったり?」

「ははは、昔はよく家族で音楽を奏でていたのだよ」

「へぇ、楽しそう! 素敵な王族ね。貴国が羨ましいわ。さぁて、そろそろ広場で披露できるかしら」

「そうだね。試しに明日、初披露してみようか」

「はい!」



 少し気持ちに余裕のできたその夜、アリアンロッドは質素な食事を摂りながら、先代王に尋ねた。


「前、よくこの国にお忍びでいらしてたって話してましたよね。確か、人を探しているって。まだ見つかってないんですか?」

 この問いかけを王は黙って聞いていたのだが、重い口を開いた。


「ああ、見つかっていない。もう生きていないのかもしれない」

「私、王宮に戻ったら、できるだけ協力します。それはどういった方なんですか?」

「妻と娘だ。前に話したとおり、私にはふたりの妻がいたのだがね」


 彼のふたりの妻は、それぞれ息子、娘をもうけていた。

 彼としてはどちらの母子も同じように大事にしていたつもりだ。しかし出身の位が高く、息子を生んだ第一妃はもうひとりの妻を疎み、その憎しみは次第に増長していった。

 ある時その妻は、第二妃の幼い娘に、焼き印を押すという暴挙に出たのだった。


「そ、そんな拷問みたいなことを……?」

「ああ。妻と娘の身をこれ以上の危険にさらすわけにいかず、私は信頼できる従者に即刻ふたりを国外へ逃がすよう命じた。後ほど東に行ったと聞き……」

 アリアンロッドは言葉に詰まった。


「もう十数年前のことだ。数年前に視力を失うまでは己の足でも探していたのだが、とうとう見つからなかった。きっと、もう……」

「それでも、見つかるかもしれないです。諦めなければ、いつか」

「そうだな。ただ、見つからなくてもせめて、幸せに生きていてくれればと願うよ」

 会話もひと段落つき、ふたりは翌日の披露目のために、寝床でゆっくり休んだ。




 翌日、仕事を終えたら広場で演奏を始めた。

 最初はまばらだった聴き手もひとりふたりと寄ってきて、更には「すごく素敵な音色が聴ける!」とその場で評判が流れ、あっという間に人だかりができた。

 そして演奏が一曲終わると、聴衆はいったんそこを離れ、それぞれ農作物を供えに持ってくるのだった。


 それを2、3日繰り返し、日没手前、結果的に食べきれないほどの食材をふたりは手に入れた。

「これ、いろいろ提供してくれてる近所の人に配りましょ」


 といったわけで、その代わりに仕事量も減らしてもらい、更に場を転転とし演奏すること数日間。



「食材、素材は大量に手に入ったけど、肝心のお金はこれっぽっち──!!」


 硬貨は数枚。しかも金貨ではなく、ほぼ銅貨、まれに銀貨。それらを両手の指先で摘まみ、目前でカチカチ鳴らすアリアンロッドだった。

 先代王は苦笑いをしている。


「たまーに役人が通ってコインを投げてくれたってことね」

「こればかりは、やはり演奏の技術だけではどうしようもないことだ。歌劇団だって商売として成り立たせるまでに、長い年月と努力、そして戦略が必要だったろう」

 実のところアリアンロッドは、一般の民が貨幣にここまで無縁だとは知らなかったのだ。

「ただ芸の腕を磨くだけじゃダメ?」

「貨幣を稼ぐというならば、初めからその商売相手を高位の人々に定めなくてはいけない。しかし初めはそこと繋がるのすら容易でない。技術が評判となり、いつかはその高みの人々に届くこともあるかもしれないが、やはりそれには時間をかけることが必要だ」


「貨幣を稼ぐって、こんなに難しいことだったのね……」


 彼女にとって、金はただ与えられるものだった。


「それでも金は結局、食物を得るためのものだ。今、我らにはこんなに美味しい食材が山ほどある。とても有難いことだよ」

「王様、ごめんなさい。私、本当に世間知らずで空回りばっかり……」

「とんでもない。私はこの数日、実に幸せだった。久しぶりに音楽に興じることができ、そのうえ自らの演奏を民に聴いてもらい、喜ばれて。こんな幸せはめったに味わえないさ」


 アリアンロッドはそれを聞いて心が救われる。


「また久しぶりに、彼女たちの舞台が見たくなってきたな」

「彼女たちって、目当てはあの歌姫でしょ! どうぞ、いってらしてください!」

 ふたりは品よく笑い合った。


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『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

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