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第75話 阻止せよ!



 英雄達三人はあってない尊厳を犠牲にし、見事に窮地から脱出する事が出来た。

 だがその代償は、たんこぶと痺れる足と大きすぎるもの。

 かくして、無事に次の日の昼休みを迎えた彼らであったが。


「おいっ!? みんな大変だっ!」


「どったのさ伊良部、そんな慌てて。昼ご飯代でもなくした?」


「俺は先輩の手作り弁当――って話が逸れるっ、そんな話じゃない!」


「落ち着け伊良部、何が起こったでゴザル?」


「ローズ先生だよっ! 今職員室で臨時会議が行われててさ、校則が変わるらしいんだ!!」


「義姉さんが!? どうしようフィリアっ!」


「落ち着け英雄、問題は校則を改めるその内容だ」


「這寄さん、冷静になってる場合じゃないんだっ! どうやら男女交際と同性不純交際を禁止して、校内でゲームもマンガも全裸になる事を禁止するみたいだっ!!」


「それが通ったら一大事でゴザルっ! 人生エンジョイの前に学校生活が灰色になるでおじゃよ英雄殿っ!」


「どうするんだ脇部」「脇部っち!」「英雄!」「助けて英雄」「英雄!」「ひーでーお!」


「いや待って、そもそも発端となった理由は? 勝つためには情報が欲しい」


 皆から期待の眼差しを受ける英雄は、冷静に伊良部に問いかけて。

 すると彼は神妙な顔で告げた。


「皆は知ってるか? 昨日、新たに追加された七不思議の事を……」


「体育倉庫に出る、全裸ブラブラブラ・ブラザーズの事でゴザルな?」


「どうやら、その被害者がローズ先生らしくてな……そりゃもうカンカンに怒ってるらしいんだ」


 そして英雄、栄一郎、天魔の三人は顔を見合わせると。


「よし! 行くよみんな! 義姉さんの横暴を止めに行くんだ! 僕らに自由を!」


「そうでゴザル! 敵は職員室にアリ!!」


「へへっ、俺たちに任せろ!」


「おおっ、三馬鹿がやる気だぞ!」「この勝負俺たちの勝ちだ!」「この三人に勝てるヤツはいねぇ」「ねえ、そう言えば体育倉庫のやつって」「言わぬが仏ってヤツよ」「ガンバってね脇部くん! わたし達のBL同人誌の為に!」「ローズ先生と脇部っち、どっちが勝つかトトカルチョやるよー」「馬鹿に一口!」「先生に三口!」


「いざ行かん! 職員室の彼方へ!」


「拙者、カウボーイの人形のコスプレした方が良いでゴザル?」


「……もしかしてローズ先生の味方をした方が、愛衣ちゃんを。いや、俺の勝手な想像で皆を混乱させたくない」


「やれやれ、結局こうなるか。――行くぞ皆!」


「「「「「おおーーっ!!」」」」


 三人のバカを先頭に、微妙な顔をしたフィリアがクラスメイト達を率いて。

 一方その頃、職員室ではズモモモと場の空気を重くするローズと、跡野茉莉が対立。

 校長を始めとした他の教師達は、おっかなびっくりそれを遠巻きに囲んで。


「アタシは断固として反対だね、何でも禁止すりゃあ良いってモンじゃねぇ」


「この学校は異常に緩すぎるのだ! そういう考えだから生徒達がつけあがる! だいたい何ですかっ!? 年内平均で男子の露出事件が五十件とはっ! それに妙なイベントが多くて予算の大半が取られているじゃないかっ!!」


「予算は関係ねぇ、それに卒業生の寄付と地元からの援助もある。だいたい高校生男子が脱ぎたがるのは当たり前だっつーの!」


「そうだな」「そうですよねぇ」「若さ故……ですな」


「どこが当たり前だっ!! そんなのだから風紀が乱れるんだっ!! よく警察が呼ばれなかったなっ!!」


「いや、しょっちゅう来てるぞ?」


「はい? そうなのか?」


「ああ、今年は三馬鹿がいるから少ない方だ。毎年、男子生徒が女子生徒に刺される事件や、ラブホに無理矢理連れ込まれる男子が続出してるからなぁ」


「女子がかっ!?」


「まあ男子が何もしてないって言ったら嘘になるけどな、どうして毎年毎年、長期休みの間だに全裸で徘徊して補導されるヤツが出てくるのか……」


「どうなってるんですかこの学校はっ!? まともなのは私だけですかっ!! このままでは駄目だっ! 断固として風紀と規律を改革するっ!」


 その瞬間であった。


「校則は僕らが守る! そこまでだローズ義姉さん!」


「ッ!? 小僧! 今は先生と呼べ! そして職員室に入る時はノック! やり直しだ!」


「はいローズ先生、みんなやり直しだって。――――コンコン、脇部英雄と愉快な仲間達入りまーす!」


「うむ、よろしい」


「いや、それで良いのか? というか脇部……お前等も何しにきた。拗れるからとっとと帰れ」


「いや、帰れないよ茉莉センセ。聞けば全裸になるのも、男女交際も禁止になるんだって? そんなの止めるしか無いじゃない」


「だから全裸は禁止してもおかしく無いだろうっ!?」


「ローズ義姉さんは分かってないなぁ……、知ってる? この高校で全裸になった人は例外なくビッグになって、大金稼いで学校に寄付してくれてるんだよ?」


「嘘だそんな訳がないっ!」


「姉さん……困惑する気持ちは分かるが、非常に残念だが本当の事なんだ……。しかも、男子だけが全裸になっている訳じゃない、表に出てこないだけで女子も全裸になっている。強いて言うなら教師ぐらいか? 全裸になっていないのは」


「待て、待て待て待てっ! 女子が全裸になっているだとっ!? ならばアヤマチを犯す奴らが大勢出てくるだろうがっ! なおさら禁止せねばならないっ!!」


「と思うよね、でも女子は残念な事に全裸姿を見せてくれないんだ。きっと陰でコソコソしてるに違いないよっ! 畜生! 男子高校生の純情を弄びやがって!!」


「当たり前だっ! そんな悔しそうに言うな小僧! 貴様にはフィリアが居るだろうがっ!!」


「えー、見るだけならセーフじゃない? 実際に見たことないけどさ」


「見るのもアウトだぞ英雄、実行に移したらその目を抉る」


「不公平じゃないそれ? じゃあ僕の全裸を君以外が見たらどうするのさ」


「英雄殿、話が脱線してるでゴザル」


「サンキュー栄一郎、――じゃあローズ先生! 僕らと勝負だ! 僕らが負けたら校則を変えるのを受け入れる、僕らが勝ったらそっちが諦める。オッケー?」


「…………分かった、その勝負に乗ろう。ではどうするのだ? テレビゲームの勝負だ駄目だ、学校だからな」


「学校では学校の遊び方ってのがあるんだ、ローズ先生はアメリカの高校だっけ? そっちでやんなかった? まあいいや、みんな校庭に集合だ! ゴミ箱も持ってこーい!!」


 いやっほうと、英雄達は駆けだして。


「…………なあ跡野先生? アイツらはいつもこうなのか?」


「この学校の卒業生として、教師として忠告しておく。男はお祭り騒ぎ好きな馬鹿ばっかりで、女子は恋愛脳ばっかだ。下手に規制すると――痛い目を見るぞ、マジで。…………去年のバレンタインはヤバかったなぁ……」


「去年は余所から赴任してきた、ええと誰でしたっけ?」「ああ、お偉いさんの馬鹿息子の」「ウチの女生徒に手を出して人生の墓場に入った……」


「何があったんだっ!?」


「聞かねぇほうが身のためだ、愛する者の嫉妬で毎年のように子供を産む羽目になりたくなきゃな……」


「あれは酷い事件でしたね」「しかし幸せなカップルでしたな」「彼、教師辞めた後は運が向いて商売で一意財産築いたそうですよ?」


「本当に何があったんだっ! 何なんだこの高校はっ!!」


「はいはい、じゃあ校庭行きましょうか。他の方はどーします? あ、行く。ですよねー」


 そして教師達もぞろぞろと職員室も出て、集合するは校庭のど真ん中。

 周囲には見物の生徒、窓からも見物の生徒。

 部活動所属の者達は、何故か屋台でジュースとお菓子を売り始めて。


「どうですローズ先生、我が校の生徒達は逞しいでしょう!」


「逞しいってレベルを越えてるぞ校長!? 場慣れしすぎてるっ!?」


「もし次の文化祭までいらっしゃるなら、是非参加していってください、もっと凄い光景をお見せしますよ」


「…………頭痛くなって来そうだ」


「あれ? ロース先生体調不良? じゃあ僕の不戦勝って事で良い?」


「馬鹿か小僧、こんな事で倒れるかっ!! 勝負方法を言え! とっととケリを着けてやる!」


「それじゃあ、題して上履きシュートゲーム! あのゴミ箱に交互に三回上履きを入れて、入った回数の多い方が勝ち!」


「おい、校庭でする意味あったのか?」


「勿論、だって妨害アリだからね。そうそう、あそこまで近づくのは禁止、手で投げるのも禁止」


「…………ふむ、靴のチョイスと妨害をどう対処するかが肝か」


「話が早い、じゃあどっちから行きます?」


「先手を取らせて貰おう! ロダンとつき合う前は、靴を飛ばして逃げるアイツを止めたものだ……」


「何それっ!? 僕聞いてないよっ!?」


「動揺するな英雄、残念な事に本当の事だが。今日は義兄さんが休みな以上、妨害役は調達出来ない筈だ」


「そうか、僕らが有利ってコトだね!」


 喜ぶ英雄にローズは不敵な笑みを浮かべると。


「そこのっ! ――そうお前、越前こっちに来い!」


「俺? 良いですけど味方にはなりませんよ?」


「だよね、天魔を懐柔しようだなんて。ローズ先生もまだまだだなぁ」


 彼女は何事かを天魔に耳打ちすると。


「――――へへっ、すまねぇな親友。故あって裏切るぜっ!」


「天魔が裏切ったっ! どうしてさっ!」


「いやいや、俺はせめて学校では普通にするべきだって、男女の仲は清くって常々思ってただけだ」


「絶対嘘だっ! 愛衣ちゃんから逃げる為だろっ!」


「べべべべべ別にぃ!? そんな訳ねーし! 手作り弁当に髪の毛入ってるのは重いとか思ってないし!」


「そんな事してたの愛衣ちゃんっ!?」「すまない、マジですまない天魔……後で叱っておくから……」


 両手を会わせて謝罪する栄一郎に、ローズはそっと近づいてまたも耳打ち。

 すると。


「…………い、いやっ! 我輩は英雄殿を裏切る訳にはっ!」


「こちらには跡野先生がいるぞ? 熟女好きなら此方に着くべきだ」


「ガンバ英雄殿っ! 拙者は熟女を取る!!」


「ローズ先生? アタシはそっちに着くつもりは無いんだが?」


「後で高級なワインを送ろう、それとも煙草の方がいいか?」


「アタシも、学校の風紀は守られるべきだって思ってたんだ!」


「センセまでっ!? どうしようフィリアっ! …………フィリア?」


 助けを求めフィリアを探せば、そこには愛衣と他の女子達を纏め上げた彼女の姿が。


「ふっ、こうなったら最早手段は選んでいられないっ!! 男女交際禁止、断固反対っ!」


「くっ、軍団で攻めるか我が妹よっ! 者共っ!! コッチの味方になれば、勝利した暁には! 豪華焼き肉食べ放題に連れて行く! ゲームソフトも各自好きなだけ奢ろう!!」


「げぇっ!? 正々堂々と買収しはじめたっ! ああっ、男子が半分以上そっちに行ったっ!?」


「おいっ、こっちも人を増やせっ! 彼氏持ちを集めろっ!!」


「フィリアまで対抗しないでっ!? 収集つかなくなるっ!!」


「行くぞ小僧! 清く正しく学校生活を送る幸せを教えてやるっ! 男女は手を繋ぐ事も許さんっ!!」


「行くぞ英雄っ! 校内のカップル全員と片思いの奴らは此方の味方だ! イチャイチャラブラブ! 校内ではお姫様だっことキスまでだっ!! 各自騎馬戦用意!! 鉢巻きを配れっ!!」


「独り身の陰キャよ! 二次元とアイドルに生きるオタクよっ! 体育会系を中心に騎馬を準備しろっ!! 正義は我らにアリ! リア充どもに鉄槌を下せっ!!」


「どうして騎馬戦になるのっ!? というかローズ先生ってば結婚してるリア充だよねっ!?」


 英雄のツッコミ虚しく、騎馬戦は始まり校庭は大乱闘状態。


「あ、うん、もう好きにして? ……もしもしロダンさん? あ、未来さんも居る、丁度良かった実は――――」


 その後、ロダンと未来が私設部隊を連れて学校に来るまで。

 英雄は校長らと審判として活躍した。

 なお、夕方になって騒ぎは収束し。

 ローズとフィリアを始め、対立していた彼らは仲良く握手、友情を結んで。

 結局、全ては有耶無耶に。


「……んで英雄殿? どこまで計算してたでゴザル? 職員室に突入する前に、スマホで指示を飛ばしていたでゴザろう?」


「さーて何の事だか。僕はただちょっと、お祭り騒ぎは大勢の方が良いって思っただけさ。実行犯はフィリアだ」


「それ、指示出したのは英雄だよな?」


「アイコンタクトだけで、見事に裏切った天魔と栄一郎も共犯だと思わない?」


「……」「……」「……」


 撤収作業を一丸となって進める中、三人はおもむろに右手を上げて。


「いえーい、ハイタッチ!」


「イエーイ!」「俺らの勝利!」


 馬鹿三人は笑いあったが、またも何故か全裸になっていたので。

 仲良く相方から拳骨を貰ったのであった。


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