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6-7 四人で一緒に

 十二月。冬だ。

 といっても外は真冬とはいえず、まだまだ秋らしく暖かい。雪もしばらくは降らないだろう。

 私は初めて、クリエイション・オブ・クリエイション本社にお邪魔している。

 ハルとヒロと芙雪くんと一緒に。


「綺麗でしょ?」


 受付を通ってエレベーターを待ちながらきょろきょろしている私に、ハルがちょっぴり上から目線でそう言う。


「うん。建物、新しいしぴっかぴかに掃除されてるって感じ。将来こういうところで働きたいなあ」


 会社は明るい照明につつまれて、クリーム色の壁と床が輝いている。

 その中をここに勤めていると思われる大人たちが颯爽と歩いている。

 この場にいる私たちが少し浮いているような。


「けっこう最近、会社がお引っ越ししたからまだ新しい建物で綺麗なんだって東さんが言ってました」


 一度は来ているはずの芙雪くんまで私といっしょにきょろきょろと目を動かしていると、目の前のエレベーターが開いた。


「あっ、皆さん、こんにちは! 今お迎えにあがろうと思ってたんです。来ていただいてありがとうございます」


 白いブラウスにグレーのフレアスカート姿の東さんが、私たちを見つけてエレベーターの中から足早に近づいてきた。


「こんにちは」

「ちわっす」

「今日はよろしくお願いします」

「……お邪魔します」


 おずおずとみんなに合わせて挨拶すると、東さんは私に向かってにこりと微笑んだ。


「さっちゃんさん、お久しぶりです。ここに来ていただくのは初めてですよね。ようこそCOCへ。お時間ありましたら社内も案内しますね」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、では、まずは上のミーティングスペースに行きましょうか。ハルちゃんねるの紹介ページ、ばっちり完成したのでお見せしますね」


 そう、今日はCOCのサイトのハルちゃんねる紹介ページのお披露目をしてもらえるということでここに来たのだ。

 私が写真に写りたくないとわがままを言ったことを思い出すと、ほんの少し胸の奥が痛む。どんなふうに完成したんだろう。

 東さんに促され、私たちは広い。エレベーターに乗り込んだ。




 丸いテーブルに円になって五人で座る。

 東さんは自信のノートパソコンを広げて素早く操作し始めた。


「まだ一般向けには公開されていないんですが、明日の午後には問題がなければ公開される予定です。そのときにジュニア部発足のお知らせもされます」


 話しながら、画面をこっちに向けてくれる。


「どうぞ。ご覧下さい」

「……」


 四人で画面をのぞき込むと、上部に「ハルちゃんねる」とポップなロゴが見えた。


「……可愛い」


 ふふっと芙雪くんが笑うから、みんなでうなずく。


「下にスクロールしてみてください」


 言われたとおりにハルが代表して画面を下に移動してくれた。


「あっ……」


 目に飛び込んできたものに、私は小さく声をあげた。


「わあ、すごい」


 ハルが嬉しそうに東さんを見る。

 そこには、私たち四人のイラストがあった。

 写真ではなく、やわらかいクレヨンみたいなタッチの絵本風のイラスト。

 画面の中で私たち四人は肩を寄せ合って満面の笑みをこぼしていた。

 明るい笑顔のハルも、切れ長な目が特徴のヒロも、優しい顔立ちの芙雪くんも、ポニーテールがチャームポイントになっている私も、みんなどこか本人に似ている。


「すげー」

「いいですね」


 ヒロと芙雪くんも顔を見合わせて笑っている。


「恐れながら、私が描かせていただきました! プロに比べたら下手くそですけど……けっこう、皆さん、似てません?」


 得意げに胸を張る東さんに、私は目を丸くした。


「これ、東さんが描いたんですか?」

「はい。ハルさんたちに描いてくれないかって頼まれて……」

「あ、ちょ、東さん、それさっちゃんには内緒って……」

「あ、すみません」


 慌てて口元を抑える東さんと、焦った表情のハルを見比べる。


「ハルたちが頼んだの?」

「あー、うー、うん、まあ……」


 決まり悪そうにうなずくハルのとなりで、ヒロが小さくため息をついた。


「もういいじゃん、言っちゃお。さっちゃんが写真はちょっと難しいって話になったじゃん。だから、ハルと芙雪と一緒に違う方法を考えたんだよ。写真じゃないけど、四人で写れる紹介画像。それで絵ならいいんじゃないかって」

「ほら、少し前の砂アートの撮影のとき、東さんめちゃくちゃ上手かったじゃないですか。だから絵も描けたりしないかなって頼んでみたんです。せっかくだから全員で一緒に、紹介ページに載りたいですもん」


 芙雪くんと目が合うと、笑ってうなずいてくれる。安心させるように。

 まだ困った顔のハルが、眉を八文字型にして東さんを見た。


「さっちゃんには俺らからの提案っていうのは黙っとくつもりだったのに。この人、面倒くさいから俺らに気を遣わせた申し訳ないってまた悩むから……」

「いや、ほんとついうっかり言っちゃいました。すみません」

「その面倒くさいのネタ、引きずりすぎじゃない!?」


 私のつっこみに、ヒロがしれっと言い返してくる。


「事実を言っただけだし」

「ええ~……」


 確かに、最初から聞かされていれば、ハルの言う通り申し訳ないと思って素直に喜べなかったかもしれないけれど。

 少し考えてみて、私は小さく首を振る。

 そんなことないな。だって今、ハルたちが考えてくれて東さんが描いてくれたイラストを見て、申し訳ないとかよりももっと……嬉しいとかそういうのが、勝っている。

 だから多分、そんなことで悩まなかったと思う。


「あの、ありがとう」


 お礼を言ってみんなを見ると、ハルもヒロも芙雪くんも、私を見て首を傾げるような仕草をした。


「私も仲間外れにならないように考えてくれて、ありがと」

「……ああ、うん!」

「どういたしまして」

「さっちゃんさん喜んでくれて良かったです」


 視線を動かすと、にこにこと私たちを見守っていた東さんと目が合う。


「東さんも、素敵な絵、ありがとうございます」

「はい。さっちゃんさん、笑顔が素敵だから絵だけでもたくさんの人にそれが伝わるといいなって思って描きました。もちろん、ハルさん、ヒロさん、フユキさんの笑顔も」


 絵の中の私たちは楽しそうに笑っている。

 現実でも私たちって一緒にいるとき、これくらい笑えているかな。

 自分ではわからないけれど、これだけ笑えるくらい楽しくみんなでこれからもやっていけたらいいな。




 東京から帰ってきて夜、自分の部屋にいると、スマホにハルから連絡が来た。

 明日、昼の十二時ちょうどに動画一本アップするから絶対に見て。

 それだけ。

 何の動画か一応聞いてみても、見てからのお楽しみだと返信が来て、それっきりだ。

 なんだろう。明日、COCに所属が発表されるわけだし、それに関係した特別な動画かな。

 私は関わっていないからハルが編集したってことなんだろうけど。

 よくわからないけど明日まで待てば見られるんだし、まあいいか。

 私はスマホを充電器に差し込み、ベッドにダイブして目を閉じた。

 今日は疲れた、もう寝よう。

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