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6-3 夕暮れの公園で

「プロゲーマーになるのは、やめます」


 芙雪くんのきっぱりとした一言で、私たちはまた、今まで通りに四人で活動していくことが決まった。

いつものごとく、場所は撮影によく使う公園。平日夕方のこの場所は、滑り台に二、三人の子どもがいる以外だけで比較的静かだ。みんなもう帰らないと家の人に怒られる時間なのかも。

 私たちは四人でブランコの四つの椅子を占領して座っていた。端っこから、ハル、芙雪くん、私、ヒロの順番。

 今日は久々に全員揃っているのが、ちょっと嬉しい。


「俺は嬉しいけどいいのかなあ。もしかしたら芙雪、将来は賞金王になれたかもしんないのに」


 ハルがブランコに座ったまま、ゆらゆらと体を動かす。


「賞金王なんかならなくていいですよ。練習もチームでの試合も……わいわいやれて、みんな優しくて、楽しかったんですけど。でもなんか……違うなっていうか」


 芙雪くんが、悩むように夕焼け空を見上げながら言葉を紡ぐ。

 初めて会ったときはちょっと頼りないけど可愛い年下、というイメージだったけれど、こうして改めて彼の横顔を見ると、もっと大人っぽい感じがする。

 夕陽が作り出す影のせいかもしれないし、ここ半年くらいの間で彼が大人に近づいたのかもしれない。実際、ちょっと背が伸びた気もする。


「ゲームは、たまに試合に出るのも楽しいけど実況しながら配信するほうが好きかもしれないです。それから、四人でいるのも好きだから。今の僕の一番は、ヒロさん、ハルさん、さっちゃんさんと一緒にいることな気がするから、その時間が減っちゃうならプロにはならなくていいです。もったいないって言われるかもしれないけど」


 へへ、と照れくさそうに笑う芙雪くんを見て、私たちの空気も緩む。


「プロになったTonoも見てみたかったけど、そんなに俺らのことが好きならしゃあねーな」

「はい、ヒロさん大好きです」

「大はいらん。でもお前そういうとこ嫌いじゃない。やっぱあのとき助けて良かったわ」


 ヒロがデレている。かなりレアだ。

 私も、芙雪くんが好きだ。言わないけど。

 ていうかハルもヒロも、みんな好き。

 大好きな友だちだ。気がついたら、こうして一緒にいるととても落ち着くようになっている。

 ヒロとは元々こうした関係だったけど、ハルや芙雪くんとは初めて会ったときから、こんなに大事な存在になるとは思っていなかった。

 この四人で、COCにお世話になるかもしれないんだよなあ……。


「あ……俺のことなんだけど、さ」


 しばしの沈黙の後、ヒロが私たちの様子をうかがうように口を開いた。特に、私の反応をうかがうように。


「なに?」

「兄貴、だいぶ母さん説得してくれて、もう少ししたら折れてくれそう。だから、問題なく書類渡せそうだし……」


 ヒロと目が合う。ああ、そういうことか。

 私は努めて明るい笑顔を見せた。


「良かった。じゃあみんなで新しい一歩だね」

「あ、うん」

「それじゃ、東さんにも連絡しなきゃな」

「楽しみですね。これから」


 私の後を引き継いでハルと芙雪くんが笑ってくれる。

 ヒロには一度、彼が私の部屋にベランダから乱入した夜に話した。ハルにもこのあいだ、少しだけ話した。私は踊りたいんだ。


「志紋くんと約束したし、今度踊ってみる。それで大丈夫だったら……カメラの前でも平気だったら、私も動画に出てみてもいいかな? 踊ってみたの動画も、ハルちゃんねるから出しても、いいかな? その、私は撮影と編集担当っていう最初の約束やぶっちゃうけど」

「そりゃ、もちろん」


 ハルが優しく微笑む。


「さっちゃんのチャンネルでもあるんだから、さっちゃんが好きなことしてもいいんだよ。何なら次の動画から出てくれてもいいくらい」

「それは……やめとく。また今度」

「あ、そう? まあ急に言われてもって感じだもんね」


 私は曖昧に笑った。

 いつの間にか滑り台の子どもたちは家に帰ってしまい、いなくなっていた。

 空も赤から暗い青に変わりつつある。

 本当は、不安なんだ。

 やってみて、無理だったら。やっぱりカメラを向けられるのが怖かったら。

 想像したくない、その瞬間を先延ばしにしようとしている。

 いかにもやる気があるように見せかけて、やっぱり私は逃げている。

 私は弱いし、ずるいから。

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