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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

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94 少し分かってきたのです!



「シャーロット。あまりはしゃぐと、眠りから覚めてしまうかもしれない」

「はっ、はいい……! 申し訳ありません、お……オズヴァルト閣下……!」

「敬称ひとつで、何故そこまで顔を赤らめるんだ……?」


 心底不思議そうなオズヴァルトは、そのあとでなんだか眉根を寄せる。


「だが、この違和感。これは……」

「オズヴァルトさま?」


 映像の中では引き続き、シャーロットがニクラスに『進言』をしていた。


『どうか私を、どなたか手頃な男性と結婚させていただけませんか?』

『…………』

『私がオズヴァルト閣下との婚姻を結ぶことは、殿下にとって望まぬ事態のはず。それを妨害するためにも、悪いお話しではないと……』

『シャーロット』


 ニクラスは静かな声で、耳にする人間の鼓膜へ刻み込むように、ゆっくりと紡いだ。


『「過ぎた口を利くな」』

『――――っ』


 ニクラスがそう命じると、かつてのシャーロットがこくりと言葉を飲む。

 その喉元には、淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がっていた。


「あれが、契約魔術の陣……」

「…………」


 王族の命令にはすべて従わなくてはならないという、シャーロットに課せられた奴隷化の魔術だ。

 オズヴァルトがニクラスを静かに睨み付ける。しかし映像の中のシャーロットは、苦しげに眉根を寄せながらも、くちびるには慣れた様子で笑みを浮かべていた。


『生意気を、申し上げたこと、お詫びいたしますわ。しかしながら殿下……』

『シャーロットよ』


 重圧感のあるニクラスの声に、かつてのシャーロットは口を閉ざす。


『父がお前にオズヴァルトとの婚姻を命じた、その理由が知りたいか?』

『――――……」

(オズヴァルトさまとの結婚を……!)


 思わぬ情報を得られたと気付き、急いでオズヴァルトを見上げた。


「オズヴァルトさま! ニクラス殿下が仰いましたが、王さまからこの結婚についてのお話しが出たのは……!?」

「……陛下が俺にお命じになったのは、君の神力を封じる数日前だ。いまから遡ること、たったの数ヶ月だな」

「では少なくとも、クライドさまが私に仄めかした『二年前に結婚した』というお話しは偽りです!」


 シャーロットは少し安堵して、息を吐く。


「記憶を失う前の私が、オズヴァルトさま以外の男性と婚姻の祝福を授かっているのであれば、ニクラス殿下に『手頃な男性との結婚を』などとお願いする必要はありません」

「……そうだな」


 苦々しい顔のオズヴァルトが、複雑そうに肯定した。そして映像の中のニクラスが、かつてのシャーロットに告げる。


『父がお前をオズヴァルトの妻に選んだ、その理由。――お前を狙う国々が、あまりにも増えすぎたのだ』


 かつてのシャーロットは、ほんの僅かに眉根を寄せた。


『分かるか? 戦場で、お前の姿を多くの人間が目にした。お前が俺たちの命ずる前に動き、戦場にいる敵味方すべての重傷者を、一度の祈りで治癒したときも』

『…………』

『いずれ他国は大々的に、お前を奪うための戦を仕掛けてくる。お前の存在そのものが、戦争をする理由となる』


 ニクラスが、淡々とした静かな声音でこう続けた。


『お前の所為で戦争が起きる。お前の所為で民が死ぬ。お前の所為で敵が死に、お前の所為で……』

(……私の、所為で……)


 映像越しに声を聞いているだけのシャーロットも、左胸が痛いほど締め付けられた。


『オズヴァルトも、再び戦場に出るかもしれないな?』

『――――……』


 表情を変えなかったかつての自分を、シャーロットは心から称賛する。

 オズヴァルトが手を伸ばし、シャーロットの肩を抱き寄せてくれた。普段なら叫んでいたであろう触れ合いも、いまは無性に安堵してしまう。


(ありがとうございます。オズヴァルトさま……)


 映像の声を遮らないよう、まなざしだけでお礼を言った。十分にそれを汲んでくれたオズヴァルトが、頷いてシャーロットの頭を撫でてくれる。


『殿下……』

『お前は俺を見誤ったな。シャーロット』


 ニクラスは肘掛けに頬杖をつき、皮肉めいた笑みを浮かべた。


『王位継承権を持つ俺たち全員が、オズヴァルトを排除したい馬鹿だとでも思っていたか? 王位から遠い下の弟どもは、愚かしくもそのような野望を抱いているかもしれないが』

『…………』

『俺からしてみれば。お前の夫は、オズヴァルトでなくては意味がない』


 映像の中のシャーロットに、ほんの僅かな動揺が見える。自分が必死に平気なふりをしていることを、見ている側のシャーロットは理解していた。


『あの男から妻を奪うことは出来ないと、そう他国を牽制できる男である必要がある。そして同時に、オズヴァルトの妻がお前以外であっては都合が悪いのだ』

『……都合が悪い、とは?』

『オズヴァルトが貴族家の令嬢と結婚をして力を付ければ、貴族どもの制御が面倒になる。反面、神力を封じられたお前という存在は、オズヴァルトをなにひとつ助けない』


 ニクラスは、その赤い色の瞳を眇める。


『父上は、いまは秘密裏に結婚をさせるが、いずれはオズヴァルトとお前が夫婦だと大々的に知らしめるおつもりだろう。それが国益のために、最善の流れだ』

(……オズヴァルトさまが先日、私と結婚している事実を公表なさった際に、王室からそれを止められなかったのは……)


 最初から、時期を見て公にさせるつもりだったのだ。


『父上の命令通りだ。オズヴァルトの妻になれ、シャーロット』

『……っ』


 契約魔術の陣が、再び輝く。


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