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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

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86 私が全部悪いのです!



「ええと……私はあまり詳しくないですが、魔術には遠くの人とお話しできる、通信用のものがありますよね?」

「ああ。一般の魔術師には広まっていないが、軍による国家防衛のためや、王族間の会話用に使用されることが多い」


 シャーロットが存在を知っているのは、オズヴァルトが使っているのを何度か見掛けたからだ。離れた場所に居る人と会話が出来る、とても便利そうな魔術である。


「オズヴァルトさま。追跡魔術を妨害する結界を使っていた場合、その通信魔術は使用出来なくなりますか?」

「そうなるな。通常の攻撃魔術と同じように、結界を破るほど強力なものであれば別だが……」

「であればやはり、この可能性を考慮したいのですが……」


 長椅子の隣に座っているオズヴァルトに向けて、シャーロットは切り出した。


「クライドさまは恐らく、追跡魔法を拒む結界を張れなかったのだと思います。その理由は、どなたかと通信魔術などを行うため……」

「……だとすれば、クライドが常に連絡を受信するような、そういった境遇に置かれた人物だということになる」

「そうですよね!? こうなると、クライドさまが誰かの命令を受けて動いていらっしゃるという推測がますます疑わしくなります!」

「だが、シャーロット」


 オズヴァルトが、その赤い瞳でシャーロットをじっと見据えた。


「君はどうして、あの男が結界を張れなかったと勘付いた?」

「えっ。ええと、それは……」


 オズヴァルトに、隠し事をするつもりではなかったのだ。


 しかし話す順番を間違えると、必要以上に心配を掛けたり、シャーロットの傍にいなかった自分を責めさせてしまうような気がした。

 そのためついつい後回しにしてしまった報告に、シャーロットは目を泳がせる。


「あのう。その」

「シャーロット。羽毛枕に悪戯をした子犬が、散らばった羽の中で必死に視線を逸らしているような狼狽ぶりだが?」

「ううう、申し訳ございませんオズヴァルトさま……!!」


 シャーロットはぎゅっと目を瞑り、すべてを白状した。


「実は酒場で、怖いお顔の魔術師さまが、クライドさまを狙う事件がありまして……!」

「――――……」


 オズヴァルトの沈黙に、慌てて顔を上げる。


「わ、私は危ない目には遭いませんでした!! クライドさまが守って下さったのです!!」

「……」

「あれは間違いなく、オズヴァルトさまや私とはまったく無関係の、クライドさまだけを狙った襲撃でした! クライドさまがすぐに対処なさって、本当にたまたま……」

「…………」

「ですが恐らく、その襲撃者さまがクライドさまを追跡できたのは、結界を解除していたからかと……!! あちこちから恨みを買っているとのお話しでした。つまり普段から狙われるような立場のお人であり、いまだけ結界を張っておらず、それは通信魔術用にそうしていらっしゃるのではないかと……お、おも、思いまして……」

「………………」


 オズヴァルトの長い沈黙に、シャーロットはどんどん萎れてゆく。


「すぐにお伝えせず、ごめんなさい……」

「……君が話しにくいと感じる空気にしてしまった、俺の態度にも責任がある」

「い、いえ!! オズヴァルトさまがそのように仰る理由など、この世界にひとつもありません!!」


 ぶんぶんと大きく頭を振ったが、オズヴァルトの方を見る勇気は出ないままだ。


「おやさしいオズヴァルトさまに、ご心配をお掛けするのを避けてしまったのです……! 私を信頼してくださっているからこそ、エミール殿下の囮作戦をお許し下さったのに。申し訳ありま……」

「シャーロット」


 言い聞かせるような声音で名前を呼ばれて、シャーロットはぱっと顔を上げた。


「言っただろう? 何よりも最優先すべきは、君が安全であることだ。その対策を講じることが先決であり、話してくれなかったと責めるつもりは毛頭ない」

「……オズヴァルトさま……」

「だから、こちらに来てくれ」


 思わぬ言葉に、シャーロットは瞬きを二度重ねる。


「そちらに、とは……?」

「まずは改めて、君に怪我がなかったかを確認したい。その上で、これ以降の安全対策強化について進めるべきだろう? 俺の傍に来られるか」

「あの! 既にもう、こうして長椅子のお隣同士に座っているのですが……!?」


 なんだか心臓がどきどきする。オズヴァルトに関するシャーロットの勘は、ものすごく当たる自信があるのだ。


「どうして私に手を伸ばしていらっしゃるのですか!? オズヴァルトさ……まああああああっ!!」

「ほら」


 オズヴァルトはシャーロットを抱えると、その横抱きの姿勢のまま、彼の膝にシャーロットを降ろす。

 硬直したシャーロットを見下ろし、彼は至って真剣な声音で尋ねてきた。


「……少しの間、大人しく出来るな?」

「ほあ……っ」


 恐ろしい予感が的中し、半分くらい悲鳴のような心境でこう叫ぶ。


「お、お許しくださいオズヴァルトさまーーーーーーーーっ!!」

「俺はただ君のことが大切で、心配なだけだ。――始めるぞ」


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[一言] 脳内鼻血が止まらない⋯:(ˊ◦ω◦ˋ):
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