表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/116

82 ひとつ分かってしまったのです!


「シャーロット」


 クライドは悲しげな顔をして、シャーロットのことを一心に見つめる。


「あなたが俺を忘れようとも、あなたを想う気持ちは変わりません」

(うう……っ! オズヴァルトさまがよく、私のことをわんちゃんのようだと表現なさる心情が分かります……!)

「ですが、あなたからまるで知らない人間であるかのように見詰められる度、身を引き裂かれる思いがするのも事実」


 クライドは胸に手を当てて、切実なまなざしをシャーロットに向けた。


「あなたの記憶が失われている限り、俺の元には帰って来てくださらない。……必ずあのオズヴァルトの腕の中に、帰ってしまわれるのでしょう?」

(あわわわわ!! 腕の中だなんてそんな、そんな……!!)


 大声を出したいのを堪えつつ、シャーロットはぐっと俯いた。


「あなたが記憶を取り戻すための、そのお手伝いをしたいのです。……どうか、お許しいただけませんか?」

(クライドさまは、私の記憶を戻したいとお考えなのでしょうか……)


 手にした扇子を広げ、口元を隠しつつ思考する。


(私と結婚していたことも、私を愛して下さっているというのも本当で、だからこそ思い出させたいと思っていらっしゃる? 継承権争いに関与しているという想定は考えすぎで、私が祝福魔法を授かれないのも、すでにクライドさまと結婚しているからだと仮定すると……)


 クライドの発言や、シャーロットが結界に弾かれる理由については、すべて辻褄が合ってしまうのだ。


(それなのに、やはり違和感があるのです)

「どうかお願いです、シャーロット。あなたの記憶を取り戻す、その努力の一環として……」


 クライドがその目を眇め、真っ直ぐにシャーロットへと懇願した。


「私と共に、来ていただけませんか?」

(――――あ)


 その瞬間、シャーロットはあることに気付いてしまった。


「……違和感の理由が、よく分かったわ」

「違和感、ですか?」


 クライドが不思議そうに首を傾げるが、シャーロットはグラスを置きながら続ける。


「近頃のオズヴァルトさまったら、私をとても可愛がって下さるの。同じ寝台で寝ると仰ったり、私との婚姻を楽しみにして下さったり……私の名を呼んで、微笑みを向けて」


 オズヴァルトの姿を思い出すだけで、シャーロットの胸がきゅうっと疼く。

 与えられる想いを受け取る度に、シャーロットはいつも叫び出しそうになった。すべてを抱き締めていたいのに、耐えられないような気持ちにもなって、身に余る喜びに震えてしまう。


(オズヴァルトさま……)


 思わず微笑みを浮かべたシャーロットに対し、クライドはやさしい微笑みを向けた。


「……あなたから他の男の話を聞くのは、どうしても心が乱されますね」


 彼の言葉はさびしげで、これまでは罪悪感が刺激されていた。

 けれどもいまのシャーロットは、悪女らしくきちんと振る舞える。


「嘘よ」


 脳裏に思い描くのは、シャーロットを慈しむように見詰めてくれる、大好きなオズヴァルトの双眸だ。

 大事なものに向けるまなざしの中に、確かな熱を帯びている。オズヴァルトのあの瞳と、クライドの目付きは違っていた。


「あなたは私のことなんて、ちっとも愛していないでしょう?」

「――――……」


 どれだけ表情を取り繕っても、その目が如実に物語る。


「シャーロット」

「あら。こちらに来ないで?」


 シャーロットはくすっと微笑み、悪女らしくクライドを挑発しながら拒んだ。


「私を愛するなどと言った嘘吐きには、近付きたくないの」

「…………」


 それでも立ち上がったクライドが、椅子に深く腰掛けたシャーロットの顔を覗き込む。


「近付かないでと、言ったでしょう」

「……聞けませんね」

(ここで私は、本気でクライドさまを拒むふりをして――作戦を決行するチャンスです!!)


 実のところ、シャーロットのこの場での目的は、会話でクライドから情報を引き出すことではないのだ。エミールはシャーロットに、小さな宝石の粒のようなものを渡してくれた。


『いいかいシャーロット。そのクライドという男に接近して、気付かれないようにこの魔術具を仕込んでおいで。小さなビーズくらいの大きさだから、さり気なくポケットにでも忍ばせるんだよ』


 けれどもポケットに物を入れるのは、よほど近付かなければ難しい。どれほど小さなものであろうと、仕掛ける動きそのものが不自然なため、クライドが接近してくれる好機を探っていた。


(あと少し近付けば、なんとかクライドさまのポケットに隠せるかもしれません!)


 シャーロットが行動に移そうとした、そのときである。


「失礼。シャーロット」

「?」


 身を屈めたクライドが、シャーロットの耳元で囁いた。


「少しだけ、お身体を伏せていていただけますか?」

「え……」


 その瞬間、クライドがぐっとシャーロットを抱き締める。

 直後、シャーロットとクライドのすぐ傍に、風の魔法が迸った。


(この魔術……)


 瞬きをして見上げたシャーロットは、血の匂いがすることに気が付いて息を呑む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ