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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

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79 全部が大好きです!(第2部2章・完)

「……たかだか王位などのために」


 オズヴァルトの小さな声音には、この推測に関する憤りが滲んでいる。


「シャーロットの人生を利用した、と?」

(オズヴァルトさま……)


 彼の横顔を見上げたシャーロットは、胸がずきりと痛むのを感じた。

 オズヴァルトの赤い瞳には、紛れもない怒りが揺らいでいる。


(あるいは嫌悪と言えるのでしょうか。……けれど、何よりも……)


 シャーロットは左胸に添えた手を、きゅっと握り込む。


「――オズヴァルトさまは、世界で一番素敵なお方です!」

「……シャーロット?」


 突然何を言い出したのかと、驚いたようなまなざしが向けられた。エミールも不思議がっているようだが、シャーロットにはオズヴァルト以外を見る余裕もない。


「魔術騎士団の団長でいらっしゃるオズヴァルトさまも、公爵のオズヴァルトさまも素敵です! お忍びの際、普通の町人という顔をして街を歩いていらっしゃるオズヴァルトさまも!! 小さな子供たちに慕われて鬼ごっこをしてあげている、やさしいお兄さんとしてのオズヴァルトさまも、とってもとっても大好きです!!」

「ま、待て。エミール殿下の前で、一体どうし……」

「そしてもちろん。……国王陛下のご子息であり、王位継承権をお持ちの立場であるオズヴァルトさまも……!!」

「!」


 オズヴァルトの隣に立っていたシャーロットは、急いで彼の正面に回る。

 エミールに背を向ける不敬ではあるが、何も言わずに見守ってくれた。


「オズヴァルトさまを構成するそのすべてが、私の大好きなオズヴァルトさまなのです! 必要でしたら私、この場に正座してひとつひとつ入念に申し上げますね!?」

「気持ちは有り難いが大丈夫だ!! どうしたんだ君は、いつもとは種類の違った様子のおかしさだぞ!?」

「だって……!」


 シャーロットが突然しゅんとしたことに、オズヴァルトがぎくりと身構える。彼のやさしさをはっきりと感じながらも、悲しくなるのを堪えれない。


「……ご自身が、王位継承者としてのお立場に生まれたことを。私のために、自責していらっしゃるように見えました……」

「……!」


 オズヴァルトが目を見張った。

 シャーロットが見抜いたことへの驚きなのか、彼にも自覚がなかったことによるものなのかは分からない。


 あるいは、その両方だろうか。


「確かに私の人生は、王族の皆さまによって左右されてきたかもしれません。ですが、だからこそ今はこうして、オズヴァルトさまのお隣にいることが出来ています!」

「……だが」

「忘れないでください、オズヴァルトさま」


 どうしても伝えたい気持ちに押され、シャーロットは思わずオズヴァルトの上着を握る。

 いつもならとても出来ない振る舞いだが、こうして触れていた方が、拙い言葉を補えるような気がした。


「あなたが生きていて下さるだけで、私は本当に幸福なのです。その上にお嫁さんにまでなれたのですから、何が起きたって幸せであり続けられます!!」

「…………君は」

「それにですよ!? いつか私とオズヴァルトさまが結婚すると、何年も前から想定していらっしゃって、準備なさっていたお方がいるかもしれないなんて!! それがオズヴァルトさまのお兄さまかもしれないなんて、考えるだけで……っ!! ごっ、ご家族公認……!!」

「待て、倒れそうになるな!!」

「はっ!!」


 がっし、と肩を掴まれて正気を取り戻す。シャーロットは慌ててオズヴァルトを見詰め、もう一度重ねた。


「とにかく、考えましょうオズヴァルトさま! 謀略による結婚妨害なのでしたら、同じく謀略によって一件落着を目指せるはずですから!!」

「……」

「ね?」


 シャーロットは両手をぐっと握り込んで、気合と力いっぱいを表現するポーズを取る。


「私、頑張りますので!」

「…………っ、ふ」


 眉間に寄せられていた皺が消え、オズヴァルトが耐えかねたように吹き出した。

 その上で少し困ったように、大切なものを見るまなざしで微笑むのだ。


「君と居ると、俺は自分を嫌う暇もないな」

「〜〜〜〜……っ!!」


 その微笑みに見惚れ、頬が熱くなる。シャーロットが声にならない悲鳴を上げて身悶えていると、後ろからエミールの声がした。


「そこの新婚さんたち。お兄ちゃんが見ているのを忘れてないかな」

「……失礼いたしました、エミール殿下」


 こほんと咳払いをするオズヴァルトに、エミールはにっこりと笑い掛ける。


「ともあれ継承権争いに絡む可能性があるなら、僕も少しだけ首を突っ込んでおこうかな。騒ぎが大きくなってしまうと、揉め事や面倒が生まれそうでうっとうしいから――君たちふたりのことは、おじいさまからも頼まれていることだし」

(おじいさま……。はっきりと正体を教わった訳ではありませんが、恐らくは……)

「僕としてはこのまま順当に、兄上が王になって欲しいところなんだよね」


 恐らくは、それが一番『面倒がない』ということなのだろう。エミールはいつも一貫して、継承権争いから一歩引いた場所に立っている。


「お力添えいただけること、大変心強く存じます。エミール殿下」

「これは貸しだよ、オズヴァルト。まずはシャーロット、君は囮ね?」

「ふえ」

「エミール殿下……」


 オズヴァルトの強い視線を受けても、エミールはにっこりと笑うのだ。


「王族経験の浅い異母弟に、教えてあげる。……一件落着を目指すためには、犠牲を生む覚悟も必要だということをね」

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