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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

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75 少々緊急事態です!


 けれどもあまり寝付けなかったのは、何もかもが心臓に悪過ぎたからだ。


 すぐ傍にオズヴァルトの体温が感じられる所も、寝息の音が聞こえるのも、時々響く衣擦れも。すべてに緊張が募ってしまい、夜中に何度もこれが現実かを確かめた。


 そしていま、ようやく緊張感に満ち溢れた夜を乗り越えたシャーロットに、新たな試練が訪れている。


「……おはよう」

「ひゃあああああああああ!!」

「シャーロット!?」


 目を開けたオズヴァルトの柔らかな声に、シャーロットは寝台から転がり落ちた。


「おい、どうした!」

「あ、朝のオズヴァルトさまが眩しい……っ!!」

「…………」


 一晩中見ないようにしていたオズヴァルトの存在は、シャーロットには刺激が強すぎる。

 ましてやいまのオズヴァルトは、正真正銘の寝起きなのだ。彼とは別室で寝起きしているシャーロットにとって、この姿は本当に貴重なものだった。


「まだカーテンは開けていないのに、暗がりの部屋にあってもオズヴァルトさまが眩し過ぎます……!! オズヴァルトさまの輝きはさながら太陽そのもの、体内時計が調整されて……!!」

「俺がシャーロットに近付こうとすると、シャーロットも同じだけ遠ざかっていく……磁石の同じ極同士か……?」


 床をごろごろと転がってオズヴァルトから距離を置く。すると盛大に裾がはだけてしまい、オズヴァルトが咳払いをした。


「あー……シャーロット。朝食の前に、まずはお互い着替えよう」

「はい!! お見苦しいところを申し訳ありません!!」


 シャーロットが慌てて起き上がる前に、オズヴァルトは寝室を出て隣の部屋に移動している。シャーロットはほっと息をつき、ナイトドレスのリボンを解いていった。


(オズヴァルトさまとずっと一緒のお部屋……! この上なく幸せですが、順調に命が削れていく音がします!!)

「シャーロット」

「ひゃい!!」


 扉向こうから声がして、着替えながらも慌てて返事をする。オズヴァルトが着替える音をなるべく聞いてしまわないようにしつつ、夏用の白いドレスに袖を通した。


「午後は少し、観光もしよう。……何をしたいか、考えておくといい」

「……!!」


 何よりもオズヴァルトの気遣いに、シャーロットは嬉しくてたまらなくなる。元気よくお礼を言おうとした、そのときだった。


 カーテンを閉ざした窓の下方から、遠く響く声が聞こえたのだ。


「――た、助けてくれ!!」

(お外で、悲鳴が!?)


 叫び声が響いた直後、隣室で窓の開く音がする。慌てて隣に向かったシャーロットは、その瞬間に焼き付いた光景に絶叫した。


「びゃあああああああっ、オズヴァルトさまのボタンが全部留まっていないシャツ姿!!」

落ち着け(ステイ)!! 下からの悲鳴よりも元気良く叫ぶんじゃない!!」


 オズヴァルトは片手で首元のボタンを留めつつ、その足を窓枠に掛ける。


「すぐ戻る。君はここに」

「オズヴァルトさま、お気を付けて……!」


 本当なら何処までも傍についていきたいが、神力を封じられたシャーロットに役立てることは少ない。オズヴァルトが飛び降りた背を追って、客室の窓から顔を覗かせる。


 十階の窓から見下ろす大通りは、人の顔が認識できないほどの距離だ。飛び降りたオズヴァルトの姿が遠ざかる中で、シャーロットは悲鳴の理由を知る。


 石畳の大通りには、早朝とはいえ多くの人通りがあった。そして騒ぎの中心には、凄まじい雷鳴のような光を纏い、悶え苦しんでいる男性がいる。


(あれは、魔力暴走……!?)


 強い魔力を持つ人間が、その力を抑えきれずに起こす症状だ。本人にも制御できない力が暴れ出し、周囲にも被害を及ぼして、時には死人が出てしまうこともある。

 オズヴァルトの母が亡くなったのも、オズヴァルトの魔力暴走が原因だった。


(あのお方は一体……どうしてこんな往来で!?)


 オズヴァルトが着地して、瞬時に結界を張ったのが見える。十階に位置するこの部屋からは、詳細な情報を得るのが難しそうだ。


(オズヴァルトさまの魔力は、私の神力を封じた際に枯渇寸前となっています。あれから数ヶ月が経って、最大値の二割程度は回復したと仰っていましたが……)


 常人から比べれば、二割でも凄まじい魔力量だ。とはいえオズヴァルトの基準からすれば、依然として万全な状態ではない。


(やはり、私も何か少しでもお手伝いを……っ)


 そう思って窓から離れようとしたとき、シャーロットは息を呑む。


「お待ちください。シャーロット」

「ほえ……っ!?」


 ぱしっと手首を掴まれた。

 顔を上げて振り返れば、背後にはひとりの男性が立っているのだ。その人物の顔を見て、シャーロットの喉がひゅっと鳴る。


「おはようございます。……いい朝ですね?」

(どどど、どうしてクライドさまが私たちのお部屋に!?)


 シャーロットを捕らえて微笑んだのは、『夫』を名乗る男性クライドだった。



【お知らせ】新作を始めました!


タイトル『初めまして、裏切り者の旦那さま。』


血まみれドレスで自らの結婚式に現れ、復讐を始めるつもりの強い花嫁と、キスしておいて協力者にはなってくれない、冷たくて美しい夫のお話です!


※ハッピーエンドの恋愛ファンタジーで、強い女の子が欲しいものを手にして幸せになります。


https://book1.adouzi.eu.org/n7032ij/

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