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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第2部〜

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68 明確に拒まれているのです!


 門の前に張り巡らされた光は、侵入者を拒む結界だ。

 何重にも浮かび上がる魔法陣には、こんな言葉を意味する魔術の構成式が綴られている。


『拒絶』

『排除』

『遮断』

「……こ、これは……」


 オズヴァルトに体を支えられながら、シャーロットは痺れた手をぎゅっと握り込んだ。


(仮にも聖女が、大神殿の結界に弾かれるなんて。なんというか、非常に外聞が悪くてまずいのでは……?)


 オズヴァルトに迷惑を掛けるかもしれないと思うと、さーっと血の気が引いていくのを感じる。巡礼者がほとんど居ないのが幸いだが、神殿の司教たちには察知されてしまうだろう。


 案の定、髭を生やした老齢の男性が、血相を変えて駆け付けてくる。


「ラングハイム閣下!」

「……司教殿」


 オズヴァルトの名字を呼んだ司教は、何処か気まずそうな顔で目配せをした。


「その、閣下にお話ししたいことが。奥方さまには少々外でお待ちいただき、閣下のお耳にだけ入れたく存じます」

「それは承服しかねる。妻の同席を――」

「お、オズヴァルトさま」


 シャーロットは司教に背を向け、他の人には聞こえない小声でオズヴァルトに告げる。


「どうぞ、司教さまとのお話に行ってきて下さい。私、お外でちゃんと待て(ステイ)をしていますので……」

「…………」


 悪女の振る舞いをしなくてはならないのに、あからさまにしょぼしょぼと項垂れてしまう。

 司教の前でも演技を出来そうにないシャーロットは、そのこともあってオズヴァルトを促した。


「……すぐに戻る」

(ううっ、心配そうにして下さっているオズヴァルトさま……! 普段ならこのお顔だけで元気になれるところなのですが、さすがに今は……!!)


 シャーロットは頑張ってにこっと微笑む。オズヴァルトは息を吐き、シャーロットの胸元に揺れる守護石の首飾りに触れた。


「この石を、誰からもよく見えるようにして待っているように」

「は、はい!」

「良い子だ」


 オズヴァルトはぽんっとシャーロットの頭を撫でると、司教の方に向かって歩き出す。


「手短に願います。妻をあまり待たせたくないもので」

「では、恐れ入りますがこちらへ」


 シャーロットのくぐれない門が閉ざされ、オズヴァルトの声が聞こえなくなる。

 これも普段であれば、門に張り付いて極限まで音の収集を試みるのだが、いまのシャーロットには難しかった。


(ひ、ひとまず人目に触れない場所で、どなたにもご迷惑をお掛けしないように……)


 よろよろと石の階段を降り、なるべく目立たない隅の方に向かう。そして柱と壁の隙間に収まったシャーロットは、水を切らした茸のように萎れ始めた。


(婚姻の祝福を受けるための門に、拒まれました……!!)


 あの門を通過出来ないということは、婚姻の祝福を受けられないということだ。その理由にも解決方法にも、まったく思い当たることがない。


(オズヴァルトさまが、楽しみにしているとあんなに仰って下さったのに)


 しょんぼりと身を丸め、べそべそと自分の不甲斐なさを嘆く。


(私が門を通れなかった所為で、オズヴァルトさまのお気持ちを踏み躙ってしまったのでは? オズヴァルトさまが様々なお考えから、私を守るためにと動いて下さったのに。オズヴァルトさまが嬉しそうでいらしたのに、オズヴァルトさまがせっかく、オズヴァルトさまが……)


 頭の中にたくさんのオズヴァルトが浮かんできて、シャーロットは嘆くのをぴたりと止めた。


「………………」


 顔を上げ、ぐすっと鼻を鳴らしつつ頭を振る。


(……いえ! 考え方を間違ってはいけません、冷静にならなくては。私がこのように自分を責めることを、オズヴァルトさまが良しとされるはずは無いのですから……)


 シャーロットが門に拒まれたことではなく、シャーロットが悲しんでいる事実の方を嫌ってくれる。

 シャーロットの大好きなオズヴァルトは、そういう人だ。


「……私の精神力が、足りなかったのかもしれませんね」


 シャーロットは自分に言い聞かせ、そうに違いないと想像で胸を張った。


「いまの未熟な私がオズヴァルトさまの妻として扱われては、あらゆることに耐えられず気絶してしまう! それを門は見抜いたのでしょう、そうに違いありませ――」

「失礼。レディ」

「!」


 不意に後ろから声を掛けられ、反射的に振り返る。


 そこに立っていたのは、見知らぬ赤髪の青年だった。


 その赤い髪は、オズヴァルトの黒髪と比べると少し癖がある。

 オズヴァルトも夜会などのときに整髪剤を使い、普段と違う雰囲気の髪型に固めていることがあるが、その青年も毛先が跳ね過ぎないようにしているようだ。


 身長はオズヴァルトよりほんの少し低いだけで、この青年も長身なのは変わらない。年齢も恐らくはオズヴァルトに近いだろう。


 青年が身を包んでいる軍服は、オズヴァルトの瞳と同じ赤色である。それから見事な金の刺繍が施された、黒い手袋も嵌めていた。


(あちらの黒い手袋。きっとオズヴァルトさまにも、とってもお似合いになるでしょうね……)


 頭の中のオズヴァルトに手袋を嵌めてもらうと、想像でありながらも惚れ惚れする。


 けれどもシャーロットは、オズヴァルトの何も着けていない手も大好きだ。

 たとえばオズヴァルトの服装を自由に選べる権利を得た暁には、手袋を着用してもらうかどうかだけで一晩悩んでしまうだろう。


 そんなことを考えていると、青年が少し寂しそうに笑う。


「……あなたは、遥か遠くの景色を眺めるかのような美しいまなざしで、俺のことをご覧になるのですね」

(は……っ! ついつい目の前の男性を通して、オズヴァルトさまのことばかり考えていました!)


 だが、そのことはどうやら気付かれていない。


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― 新着の感想 ―
最後の一文w 気づく人はオズヴァルトしかいないと思う。
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