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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

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59 旦那さまは世界一格好良いです!

「……っ」


 心臓が、どくりと熱く脈を打つ。

 それはひどく嫌な感覚で、シャーロットは口付けながら眉根を寄せた。失敗かもしれない、助けられないのかもしれないという恐怖で、瞑った目を開くことが出来ない。


(オズヴァルトさまを、ここでお助け出来なければ、私は……!)


 けれど、その直後。


「――……」


 オズヴァルトの手が、シャーロットの髪へと触れるようにして、やさしく頭を撫でてくれた。


(オズヴァルトさま……?)


 そうしてくちびるが離される。

 そのとき、辺りに立ち込める黒煙の向こう側で、ランドルフの叫ぶ声がした。


「もういい、纏めて殺す……!!」


 荒く息をするランドルフが、再び炎をその手に纏う。

 燃え盛る剣が生成された。黒煙が吸収され、視界が晴れてゆく。


「オズヴァルト、貴様の魔力は枯渇した!! あとは死を待つだけの身、とどめを、さして……」


 だが、張り上げられていたランドルフの声は、すぐさま揺らぎを見せるのだ。


「――――……え?」


 ぱきん、と透き通った音が鳴る。


 ランドルフが握っていたはずの炎の剣が、氷へと姿を変えていた。

 大きな水晶のようなそれは、重さを伴うものらしく、ランドルフが剣先を床に沈める。


「……なにが……」


 何が起きたのか、分からないとでも言いたげな声だった。

 けれども侵食は止まらない。ランドルフの元から広がった氷が、荒れた室内へと広がってゆく。恐怖に見開かれた彼の目は、一点を捉えていた。


「馬鹿な……!!」


 視線の先にいるオズヴァルトは、真っ直ぐにランドルフを見据えている。

 冷たい風が吹き込む中、オズヴァルトが一歩を踏み出した。その瞳に魔力が満ちているのは、誰の目からも明らかだ。


「ま……待て」


 狼狽したランドルフが、静止の手を翳しながら後ずさった。


「やめろ、近づくな……!! 王族である僕に歯向かって、お前が許されるとでも思うのか!?」

「…………」

「こちらに来るんじゃない、化け物め!!」


 罵声になど構う様子もなく、オズヴァルトが右手を動かした。

 巨大な魔法陣の展開を恐れ、ランドルフが「ひっ」と息を呑んで縮こまる。次の瞬間、オズヴァルトが取った行動は、ランドルフの予想に反したものだったようだ。


「があ……っ!?」


 オズヴァルトは、攻撃魔術を使ったのではない。


 握り締めたその拳で、ランドルフの頬を殴ったのだ。

 シャーロットもびっくりしたのだが、それによって吹っ飛んだランドルフは、もっと驚いたことだろう。


 衝撃で動けなくなったランドルフを、赤い瞳が見下ろした。


「化け物で、上等だ」


 オズヴァルトは、ゆっくりとした、それでいて力強い声で言い放つ。


「――力があるお陰で、守るべきものを守れる」

「……っ、オズヴァルトさま……!!」


 オズヴァルトの元に駆け出して、めいっぱいの力で彼に抱き着いた。


「お体の具合は!? 痛いところは、苦しい場所は、お辛い部分はありませんか……!?」

「痛くも苦しくも辛くもない。……そうだな、あいつを殴った手が痛むくらいか?」


 冗談めかしてそう言ったオズヴァルトは、シャーロットを受け止めるように背中へと手を回し、もう片手でシャーロットの横髪を耳に掛けてくれる。


「君こそ随分と無茶をした。……封印解除の衝撃を耐えて、転移陣まで引き千切るとは」

「すっごく、すごく頑張りました……!! オズヴァルトさまをお助けしたくて、お役に立ちたくて……!!」


 話しているだけで泣きそうだ。オズヴァルトが呼吸をしていて、心臓がちゃんと動いている。

 シャーロットには、その事実が何よりも嬉しかった。


「ですからどうか、褒めて下さい。あなたのお声で、お言葉で……!」

「……シャーロット」


 オズヴァルトは、僅かに目を細める。


悪い子(ノー)だ。俺が展開した魔法陣で、君は逃げておくべきだった」

「あう……!!」

「上手く行ったのは結果論だ。――とはいえ」


 シャーロットの鼻を摘んだオズヴァルトが、その手を離して微笑んだ。


「君が無事ならなんでもいい。……生きていてくれてありがとう、シャーロット」

「……っ!!」


 その瞬間、シャーロットの左胸の奥の奥が、じわりと温かさに包まれる。

 昔から、誰かにこんな言葉を掛けてもらえることを、自分がずっと望んでいたような気がした。


 きっとそれは間違いではなく、オズヴァルトはいつだって、シャーロットの欲しいものをくれるのだ。



「……それにしても、本当に無茶をした。君に対し、ランドルフの命令による契約魔術が発動しなかったのだって、奇跡のようなものなんだぞ」

「そのことですがオズヴァルトさま。私はきっと……」


 そこまで言いかけたところで、シャーロットは口を噤んだ。

 この部屋の中央に、新たな転移の魔法陣が生まれたからだ。それを見て、オズヴァルトも意外そうに目を丸める。


「まさか……」


 オズヴァルトが何か言い掛けた瞬間、その場にひとりの人物が現れた。






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― 新着の感想 ―
[一言] いつも予想を超えた展開にワクワクしてます!書いてくださりありがとうございます。 シャーロットいつも可愛くて賢くて頑張ってて、何より心の在り方もの凄く尊敬してます。あと3話待ちきれないほど楽し…
[一言] 二人のイチャイチャタイムを邪魔するとはけしからん。 どのような立場であれ分からせねばなるまい。
[気になる点] 庭師のおジィちゃんかな?先々代の王様なのかな? 今の王様って40〜60歳だと思ってるから総白髪なら先々代と予想(王と決めつけて) 最初のキスによる契約で王家との奴隷契約上書きされてる…
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