表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/116

56 『聖女』の存在とその結果

『オズヴァルトさまのお役に立つためなら、どんなことだってこなしてみせます』

『今朝の私よりも、いまの私の方がオズヴァルトさまに恋しています。明日の私は、もっともっとあなたのことが好きになっているでしょう』


 想像もしていなかった発言に驚いたが、彼女に封印以前の記憶がないことを悟ってからは、こちらも妙な警戒心が消えた。


 それからのオズヴァルトは彼女の話を聞き、表情を見て、まずは居場所の分かる守護石を与えた。

 その上で、魔力を無駄に消耗する監視魔術を解くことにしたのだ。


 それに気付かないシャーロットは、逃げたり危険なことをしたりする素振りもない。


 ただただ一心に、懸命に、オズヴァルトへと想いを注ぎ続けた。


『俺が生まれなければ、死ななくて済んだ人がいたんだから』


 幼かったオズヴァルトは、いつもこんな風に自責していたのだ。

 けれどもシャーロットは、そんなものを吹き飛ばすほど迷いなく、オズヴァルトに向かって真っ直ぐに言い切った。



『――私、オズヴァルトさまが生きていて下さるだけで、嬉しいので!!』



 その瞬間のことを思い出し、思わず笑ってしまう。


(……君は知らないだろうな、シャーロット)


 ランドルフの炎に取り囲まれ、守護石によって作られた結界の中で、オズヴァルトは静かに考える。


(君の言葉が、子供だった俺にとって、どれほど得難く。……どれほど、望んでいたものだったのかを)


 耳飾りにつけていた守護石が、新たな結界を作り出すのと同時に割れる。


『オズヴァルトさまが帰って来てくださって、すごくすごく嬉しいです!』


 シャーロットはオズヴァルトが帰る度に、きらきらと目を輝かせた。


 かつてのオズヴァルトは、城の片隅に存在することすら疎まれて、恐れられていたというのに。


『私が恋慕う旦那さまは、なんと尊敬できるお方なのでしょうか。……そう思うと、心から嬉しくて嬉しくて、お口がふにゃふにゃになってしまいました』


 そう言って、オズヴァルトがやることなすことを、心底幸せそうに眺めている。


 それは、オズヴァルトが王族の利にならない行動を取ると、すぐさま処分を仄めかしてくる父とは真逆のまなざしだ。


 泣いてしまった彼女に対し、どうすれば泣き止むのかと尋ねると、シャーロットは泣きじゃくりながら言葉にしたのである。




『オズヴァルトさまが健やかで、毎日幸せに長生きして下されば』

(――そんなことを、誰かに願われたことなんて、一度もなかった)



 燃え盛る炎を抑え込みながら、オズヴァルトは小さく息を吐き出す。


「オズヴァルトさま……!」


 抱きかかえているシャーロットが、死にそうな顔でこちらを見ていた。


 彼女が暴れれば、ぎりぎりで制御している結界が不安定になり、守護石による防御が難しくなる。


 それが分かっているからか、シャーロットはあまり動くことも出来ず、悲痛な声でオズヴァルトを止めようとするばかりだ。


 とはいえ、シャーロットがこれまで以上の抵抗を見せ始めたのは、足元に出現させた魔法陣が原因だろう。


「どうして、なぜ転移陣を……!! ただでさえ、魔力がほとんど枯渇なさっているのに、これでは御身が……!!」

「転移陣なのだから、これは転移のために使う」


 守護石の数は、残りひとつだ。


 ランドルフの魔術を制御できるほどの石は、それほど出回っていない。炎に遮られて姿の見えないランドルフは、確かな実力を持っているのだった。


「ですが、この陣に込められている魔力では、ひとりの転移が限界です……!」

「そうだな」


 オズヴァルトが何をしようとしているのか、シャーロットはどうやら察している。


「これより君を、この塔からなるべく離れた地点まで飛ばす」

「いけません! それでは、オズヴァルトさまが危険ではありませんか……!」


 本当は、ハイデマリーの邸宅まで転移させたかったのだ。しかし、生憎オズヴァルトに、そこまでの魔力は残っていない。


 そのことを察しているのだろう。シャーロットは必死に首を横に振る。


「オズヴァルトさまがお逃げください。どうか、どうかお願いですから……! 私を助けにいらっしゃらなければ、オズヴァルトさまは危険な目に遭わずに済んだのです……!」

「元はと言えば。君があいつに攫われたのも、俺が原因だ」


 つくづく自分は、厄介な存在なのだと自嘲する。


「……君は恐らく、このあと気を失ってしまうだろう」

「――まさか」


 己に出来る限り、一番柔らかく微笑んで、彼女に告げた。


「この外套があれば、織り込まれた魔力の効果で、外で眠っても凍えずに済むはずだ。……気絶から目が覚めたら、俺のことには構わなくていい。ハイデマリー殿のところへ転移しろ」

「……!!」


 そこでいよいよ、シャーロットの顔色が変わった。


 ランドルフの怒鳴り声と共に、炎の勢いが増す気配がする。


 最後の守護石が壊れる前に、抱えているシャーロットの首裏に手を添えた。


「君は以前、『自分には俺を好きなことしか取り柄がない』と言っていたが、そんなはずはない」

「オズヴァルトさま……!!」

「俺は、君の存在に救われた。……そして、『悪人は幸せになってはいけない』とも言っていたが、それも間違いだ」


 シャーロットをぐっと引き寄せる。


 オズヴァルトの目的を果たせば、シャーロットの意識はそこで途切れてしまうはずだ。

 だから、そのつもりで言葉を選ぶ。


「少なくとも、俺は」


 最後に一度、間近に視線が重なった瞬間に、彼女へと告げた。


「――俺の命を失ってでも、君を幸せにしてやりたいと、心からそう願う」

「……っ!!」





 そうしてオズヴァルトは、シャーロットに柔らかく口付ける。



 くちびるを開かせ、舌で触れて、そこに刻まれた封印を解き放った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オズヴァルト様〜〜〜! [一言] 炎の向こう怒鳴って出力増してるランドルフ殿下の影が薄いw こんな時にいちゃつきやがってという怒りでしょうか……
[一言] う〜〜〜! オズヴァルトさまーーー!(;ω;)
[一言] ぁぁあーー! オズヴァルト様かっこ良すぎます、、! (すみませんシャーロットが憑依しました)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ