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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

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44 王子さまにお約束いたします!

「戦場で私がしたことは、それはもうひどいことばかり! 王族の皆さま方からご覧になっても、私の所業は目に余ったことでしょう」

「……っ、ああ、そうだ! 国王陛下(ちちうえ)は大層お怒りで……」

「ですから私、とても反省しておりますの」


 ランドルフの声を遮ったシャーロットに、彼はひくりと口の端を歪ませる。


「この国を、我が母国と考えて尽くすつもりでおりましたが。皆さまの一員に加えていただいたような生意気な物言いは、二度といたしません」


 自身の胸に手を当てて、シャーロットは恭しく彼に告げた。


「王族の方に、尽くします。――これに背けば、契約魔術に違反した私は、死んだ方がマシなほどの苦しみにもがき続けるのでしょう?」

「……っ!!」


 シャーロットの浮かべた微笑みに、ランドルフの顔が引き攣る。そこへ畳み掛けるように、シャーロットは重ねた。


「お約束しますわ。私は、王族の方の奴隷で構いません。むしろ、喜んでこの身を……」


 シャーロットはそこで、言葉を切った。

 後ろに立ったオズヴァルトが、手のひらでシャーロットの口を覆ったからだ。


「……!」


 そのまま後ろから強引に、それでいて何処かやさしく抱き寄せられる。

 そしてオズヴァルトは、シャーロットの耳元で囁いた。


「……これ以上はいい」

(オズヴァルトさま……?)


 普段のシャーロットならば、ここであらゆる混乱に掻き乱されていただろう。

 けれども正気を保てたのは、シャーロットにだけ聞こえるように紡がれたその声が、一種の痛みと切実さを帯びていたからだ。


「シャーロット。あまり誓いの言葉を重ねると、却って効力と誠実さに欠ける。――国王陛下の契約魔術の厳密さは、ランドルフ殿下も十分にご存知のはずだからな」

「オズヴァルト、貴様……!」

「ランドルフ殿下、あなたさまも。シャーロットの無礼については、何卒ご容赦いただきたく」

「許せ、だと? ふん! 馬鹿を言え。貴様になんの権限があって……」

「お忘れですか?」


 中庭の空気が、再び先ほどのように張り詰める。


「いまの彼女は、私の妻です」

「――――!」


 ランドルフが奥歯を噛み締めた音が、こちらにまでも聞こえてきた。

 

「……その言葉に免じてやろう。どのみち今日は、聖女の顔を見て楽しむだけのつもりだったからな」

「それでは、ご用件は達成できたようですね。――シャーロット、殿下にご挨拶を」

「はい、オズヴァルトさま。……ごきげんよう、ランドルフ殿下」


 ランドルフは舌打ちをしたあとに、夜会のホールへと歩き始めた。


「まあいいさ。どうせまだ……」


 ぶつぶつと呟きながらも、その背中はホール内の人々に隠れて見えなくなる。

 再び静寂に満ちた中庭で、オズヴァルトは深い溜め息をついた。


「くそ。あの様子じゃ、今後も余計な干渉を続けるつもりのようだな」


 すっかりくたびれたらしく、彼は前髪を手でかきあげる。苛立っていつつも緩慢な仕草が、内心の辟易を物語っていた。


「……あー……シャーロット。その、いまの話だが」

「…………」


 オズヴァルトは言葉を選びながら、シャーロットを気遣うように重ねてゆく。


「国王陛下は冷酷で、酷薄なことをなさるお方ではある。だが一方で、大変に利を重んじる方だ」

「…………」

「君が稀代の聖女であるからこそ、君が使いものにならなくなるようなことは、そうそう決行を許可なさらないだろう。よってランドルフ殿下も、陛下に無断で契約魔術を悪用することは無いはずだ」

「………………」

「その点においては、安心して……シャーロット?」


 オズヴァルトははっとしたように、シャーロットの両肩を掴んでくるんと回す。


「……まさか」


 その瞬間、オズヴァルトの顔面を正面から直視して、シャーロットの色々なものが崩壊した。


「うあああああ……っ!! じゅ、十二分四十八秒ぶりに真正面から拝見する、オズヴァルトさまのお顔……っ!!」

「……やはりか……」


 がくりと両手で顔を覆ったシャーロットは、ずっと耐えていた思いをその場で噛み締めた。


「とどめです、いまのは最後の一撃です……!! ずっとずっとオズヴァルトさまが大変だった上に、なんですか先ほどの攻撃は……っ!? その美しい御手で私のお口を塞いで、わた、私のことを妻と……っ!!」

「忘れろ!! というかあれは仕方がないだろう、でなければ他にどう言うんだ! 大体口を塞いだのは、君が」

「あ……駄目です。オズヴァルトさまの手の感触と香水の香り、思い出した瞬間にくらくらして…………」

「おい!? 待て、いまここで、そんな理由で失神するやつがあるか!?」


 そんなことを言われても、受け止めきれなかったのだから仕方がない。

 シャーロットはすべての覚悟を決め、すっとお腹の上に手を重ねると、安らかな笑顔で意識を遠退かせる。


「くそ! すまないそこの君、陛下の従者殿に伝達を。聖女が体調を崩したため、これより転移陣を展開して連れ帰ると――……」

(ああ……。頭上から、オズヴァルトさまの麗しいお声が聞こえて来ます。ご迷惑をお掛けして、申し訳…………いま聴こえた溜め息を子守唄に眠りたい……!!)


 そして、薄れゆく思考の傍らでこんなことも考えた。


(記憶を失う前の、悪女だった私。あなたは一体、どんなことを、考えて……)


 それっきりシャーロットは、意識を手放したのだった。




***

ここまでで4章は終わりになります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの決壊……限界……っ! [一言] 契約魔術に縛られている聖女が戦場で他の人の聖力を封じて自分は禄に怪我人を治さない悪逆非道をしていた……王族はシャーロットに何を課していたんでしょうね…
[一言] いっそ今のシャーロットが本来の姿なのかなぁと思いました。 隷属させる王族に対する反発といいうか抵抗というか。 子供の頃からこき使われ搾取されてきたのだから、悪辣な性格は環境に依るものですよね…
[良い点] 馬鹿王子が登場すると物語が動く・・・覚えました。 ・・・ 再登場、御待ち致して居ります ・・・ (嘲笑) [気になる点] シャーロットが外国人である事実は どの階層まで周知されているので…
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