表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/116

40 旦那さまにきちんとお伝えします!


 オズヴァルトの表情は、ひとつも変わらない。

 真摯さを感じる無表情のまま、黙ってシャーロットを見据えていた。けれどもそれは、肯定の証だろう。


「オズヴァルトさまは、私を魔法で監視していると仰っていました。事実、私が無自覚に神力を発動させてしまったあと、すぐに気付いて私のお部屋にいらっしゃいましたよね?」


 あのときは、冷え切ったまなざしで警告されたのだ。

 

「ですが、ごめんなさい。……私はそれ以降も、何度か神力を使ってしまっているのです」

「……」


 オズヴァルトに叱られたのは、日記帳の一ページ目を開いたときだ。

 そのあともシャーロットは、その次のページを開き、過去の映像を目にしている。それだけでなく先日は、ハイデマリーの温室で、怪我を負った令嬢イレーネを治癒した。


 けれどもオズヴァルトは、そのことでシャーロットを叱らなかった。


「オズヴァルトさまが、私の神力使用に言及なさらなかった理由は。――私の監視魔法を、解除なさっているのですよね?」

「……」


 両手の指を、胸の前できゅっと絡めながら、シャーロットは思い出す。


「オズヴァルトさまが発動なさった魔術は、どれも繊細で素晴らしいものでした。最低限の消費魔力で、最大の効果を発揮する……」


 シャーロットがハイデマリーに教わったことに対し、オズヴァルトも同意していた。

 あれは、決して社交術の話ではなく、自身の魔術について思うところがあったからではないだろうか。


「フェンリルさんとの一件で、オズヴァルトさまが睡眠魔法にこだわったのは、フェンリルさんの身を案じてが第一だとは分かっています。……ですが次点の理由に、強大なフェンリルを倒すほどの魔力を、あの場で使いたくなかったこともおありなのでは……?」


 攻撃魔法に比べれば、睡眠魔法は使用魔力が少ないのだ。

 オズヴァルトが目を閉じて、小さく息をつく。


「……それが、君の悩んでいたことか?」

「!」


 尋ねられて、ふるふると頭を横に振った。


「正直に、申し上げなければなりません」


 指先が少し震えていることが、どうかオズヴァルトに気付かれなければ良い。そう祈りつつ、こう言い切る。


「――私の神力は、回復しつつあります」

「…………」


 フェンリルのことがあった一件で、それとなく自覚は生まれていた。

 あのときのオズヴァルトは、シャーロットが神力を使うことで、生命維持のために残された分を消費すると案じてくれたのだ。けれども実際のところ、シャーロットは至って元気である。


 そのあとも、イレーネのために治癒魔法を使った。

 それでも何も異変が起きていないのは、シャーロットの中にある神力が、どんどん回復しているからに違いない。


「オズヴァルトさまが監視なさっていない間に、治癒魔法を問題なく使えるほどになりました。これは……これは、いけないことです」

「……」


 シャーロットの神力は、国王の命令によって封じられた。

 そしてシャーロットは悪人だ。国王には、封印を判断するだけの理由がある。そして、それを行ったのはオズヴァルトだ。


「神力が戻ってしまっているのなら、再度封じ直していただかなくてはなりません。下手をすれば、オズヴァルトさまが封印に失敗したと思われてしまいます! なのに、私は……」


 胸の前で組んだ両手を、シャーロットはぎゅっと握り込んだ。


(正直に話すことを、怖いと思ってしまったのです)


 それは、神力を封じられることそのものへの恐怖ではない。


(私が記憶を失ったきっかけは、神力の封印以外に考えられません。――神力と記憶が結びついているのです。神力が封じられてしまえば、きっと私の記憶も消えるのでしょう)


 閉じた瞼の裏に浮かぶのは、目覚めてからこれまでの、ほんの短い日々のことだ。


(この記憶が。オズヴァルトさまが私に下さったお言葉、表情、思い出の全部が。……消えてしまうのが、とても怖かった……)


 けれど、と思う。


(それでも。――こんな葛藤は、ここで何もかも捨てましょう)


 シャーロットは目を開き、オズヴァルトを真っ直ぐに見上げる。


(この恋心は、確かにとても大事なもの。ですが、私にとって何よりも大切なのは、愛するオズヴァルトさまのお役に立つことです……!)


 まなざしに強い意志を込めて、オズヴァルトに告げた。


「もう一度、私の神力を封じてください。オズヴァルトさま」

「…………」

「封印魔法の魔力消費は、封印の陣を刻むときに発生するもの。封印の解除や、再封印には、魔力を使用しないはずですよね?」


 だからきっと、大丈夫だ。

 回復を申告した以上、オズヴァルトはこれで滞りなく、シャーロットの神力を封じ直してくれるだろう。記憶は再び無くなるだろうが、それで終わりな訳ではない。

 シャーロットはもしかしたらまた、オズヴァルトのことを好きになれるかもしれないのだ。


(もう一度、最初からこの方に恋をできるなら、それはとっても素敵なことです。……だから、大丈夫。泣かない、怖くない、怖くない……)


 そんなことを、必死に自分へと言い聞かせた。

 けれどもどうしても、体が小さく震えてしまう。視界が滲みそうになっていることを悟られないよう、くちびるをぎゅむっと噤んだままオズヴァルトを見つめる。


「…………」


 オズヴァルトは、静かなまなざしをシャーロットに注いだまま、ゆっくりと口を開いた。


「――こちらへ来い。シャーロット」

「……っ」


 こくりと頷いて、はい、と返事をする。


 シャーロットが一歩を踏み出すと、金色の髪がふわりと靡いた。

 同じ色をした月の光が、長い髪を透かしてほんのりと輝く。それをどこか他人事のように感じながら、オズヴァルトのすぐ目の前に立った。


 彼の手が伸ばされる。

 オズヴァルトに伝わらないよう、心の中で別れを告げた。


(……さようなら。大好きなオズヴァルトさま……)


 覚悟をし、ぎゅっと目を瞑ったそのときだ。


「――――……」


 オズヴァルトの手が、シャーロットの頰をむぎゅっと挟んだ。


「…………ふぁれ?」

「…………」


 驚いて、思わず目を見開いてしまう。

 するとオズヴァルトは、なんだか真顔に近い顔で、今度はシャーロットの髪をわしわしと撫で回し始めた。


「ふわわわわ、お、オズヴァルトさま……!!」


 編み込みの部分が乱れないよう、ちょっとだけ気を使われているのを感じるが、それ以外は無遠慮に頭を撫でられる。

 シャーロットも、ハイデマリー邸にいるフェンリルの頭を、こんな風に撫で回したことがあるのを思い出した。


 オズヴァルトは最後に、シャーロットの頰を両手でむにっと引っ張る。


「つまり」

「はひ」


 彼が目を伏せると、長い睫毛が強調されてとても色っぽい。

 オズヴァルトは、赤い瞳でシャーロットを眺め、どこか掠れた声でこう言った。



「――君は俺に、またキスをして欲しいということか?」

「キ………………っ!?」



 ぼんっ、と顔が赤くなるのを感じる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そうなのよね!! んにゃーー!(*ノωノ) [一言] 興奮しました、失礼しました
[一言] そういやそうだったなwww
[良い点] いやっ、これ、天然……っ!? どこまで本気ですの!? いいぞオズヴァルド様!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ