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【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

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28 治癒する力がありますか!?

 シャーロットの背中に向けて、オズヴァルトが叫ぶ。


「言葉の中身をはき違えるな!! 君に残している神力は、生命維持に必要な最低限の量なんだぞ!?」

「大丈夫です! オズヴァルトさまの格好良いお姿を拝見した瞬間の方が、命の危機を感じますので!!」

「なんら大丈夫ではないだろう!!」


 フェンリルと対峙するオズヴァルトが、いまは下手に動けないであろうことは、立ててみた予想の通りだった。


 そしてそれは、フェンリルの方も同様だ。


 檻の中に入り込んだシャーロットに、フェンリルが驚いて飛び掛かろうとした。再び舌打ちをしたオズヴァルトが、新たな睡眠魔法を放つ。

 フェンリルがそちらに気を取られ、頭を正面に向けた瞬間、シャーロットはその首に抱き着いた。


「っ!!」


 傷口はもちろん避けるものの、しがみつくのは大変だ。フェンリルは全力で体を揺すり、シャーロットを振り落とそうとする。


「大丈夫……っ、大丈夫ですから……!!」

「シャーロット!!」


 後ろから、オズヴァルトの駆ける足音が聞こえて来た。


 彼が助けに来てしまう。そうなれば、オズヴァルトにも危険が及ぶ。

 シャーロットはぎゅうっと目を瞑り、必死に思考を回そうとした。


(思い出すのです、神力の使い方!! あの日記帳、一ページ目を開いたときの、対象に力を注ぐ感覚を……!!)


 額をフェンリルに押し付け、振り落とされないよう震えるほどに腕の力を強める。

 日記帳を開こうとしたとき、とにかく強く念じたのだ。そのときの記憶を引き寄せながら、シャーロットは祈った。


(私の神力を捧げます。生命維持に必要な分も、持って行って下さって構いません!! だからどうかこの怪我を治して下さい。癒して下さい)


 左胸に、温かな感覚が生まれてくる。


(魔法があっても眠れないくらいの強い痛みを、このフェンリルさんから消し去って……!!)


 願いと共に、力が溢れ出てくるのが分かった。

 心臓の辺りで生まれた光が、すぐさま辺りに広がってゆく。光は柔らかな毛布のように、フェンリルの傷口を包み込んだ。


「傷口が、塞がりました……! オズヴァルトさま!!」

「――っ」


 すぐ傍で足を止めたオズヴァルトが、瞬時に魔法陣を展開する。

 短い光が走り、稲妻のようなそれがフェンリルに絡み付いて、フェンリルがとすんと尻餅をついた。


「っ、大丈夫ですか……!?」


 フェンリルに駆け寄ったシャーロットは、もう一度その首筋を確かめる。

 痛々しかった大きな傷は、跡形もなく消えていた。ほうっと息をついたシャーロットに、フェンリルがそっと顔を寄せる。


 そして、甘えたようにクゥ……と鳴いた。


「よしよし、良い子。……痛くて、怖くて、我を忘れてしまったのですね?」


 シャーロットがそっと手を伸ばすと、フェンリルは鼻先を擦り付けてくる。


「怪我をしているのに、檻に入れられて運ばれて、泣きそうな思いでいたのですか? ……大丈夫。もう、大丈夫ですから……」


 フェンリルをあやすシャーロットに、氷柱の間を抜けて来たオズヴァルトが尋ねてきた。


「……君こそ大丈夫なんだな? シャーロット」

「はい。私に怪我はありません!」


 大きく頷くと、オズヴァルトは溜め息をついてから教えてくれる。


「集団で生きるフェンリルは、有事の際に群れで一番弱いものを守ろうとする。負傷によって恐怖心を感じていたフェンリルは、自分が感じている恐怖から、人間の子供を守ろうとしていたのかもしれない」

「……そういえば。フェンリルさんは、小さな子のところに向かおうとしていましたが、子供たちに唸ったり牙を剥いたりする様子はありませんでした」


 考えてみれば、フェンリルの様子がおかしくなったのは、母親である女性が娘を連れて檻から離れようとしたときからだ。


「小さな子を守ろうとして、傍に行きたかっただけなのですか? それを邪魔する人たちを、あなたや子供たちの敵だと感じて、攻撃しようとした……」

「……人々がフェンリルを止めようと行動するのは、当然の動きだ。君だって、一歩間違えれば殺されていてもおかしくなかったし、神力が枯渇すれば命に関わるんだぞ。何故あんな無茶をした?」

「それは、もちろん!」


 フェンリルの鼻先を撫でながら、シャーロットはにこっと笑う。


「少しでも、大好きなオズヴァルトさまのお役に立ちたかったからです!」

「……」


 オズヴァルトは眉根を寄せたまま俯いて、前髪を掻き上げるように額を押さえた。


「頼むから、そんな理由で命を懸けるんじゃない」

「そうは仰いますがオズヴァルトさま……」


 オズヴァルトだって、フェンリルを傷つけたくなかったはずだ。


 氷柱は、フェンリルに一本も刺さっていない。民衆が声を荒げても、オズヴァルトは極限まで、攻撃せずに済む道を探っていたのだ。


 そのとき、フェンリルが大きなあくびをする。


 緩やかな瞬きを二度重ね、前足を投げ出すように座り直した。そのあとで、もう一度シャーロットに鼻先を擦り付けたあと、前足の上に頭を乗せる。

 それを見て、人々が安堵の息をついた。


「見ろ、ようやくだ……」

「っ、ああ……!」


 フェンリルがゆっくりと、幸せそうに目を閉じる。


 その瞬間、周囲からわあっと歓声が上がった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「すげえなあの、姉ちゃん!」 「治癒魔法使ったぞ! 聖女様なんじゃねえのか?」 「聖女様!」 「聖女様ばんざい!」 「兄ちゃんも凄かったぜ! でも聖女様にはかなわねえな」 オズヴァルトの受…
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