104 暴走
反射的に芽生えた叫びと共に、邪魔な男への雷撃を放つ。
こちらが先にシャーロットと出会い、言葉を交わした。誰よりも早く彼女を手にする権利を得ていたのは、本来であればクライドの方だ。
「俺は何年も長い間、彼女をずっと想っていた!!」
「……っ」
クライドが放った雷撃を、オズヴァルトが守護石で弾く。結界を張らないことに違和感を覚えたが、それはすぐさま怒りで忘れた。
「彼女がいない世界なら、どうでもいいと思っていた……! 彼女が治癒してくれた体、それを朽ちさせる訳にはいかないと、それだけを生きる理由にするしか……くっ!!」
凄まじい炎の濁流が、竜のようにクライドへと襲い掛かる。再び結界魔術で弾きながら、業火の向こう側に怒鳴った。
「俺が、ロッティを手に入れる……!!」
オズヴァルトから繰り出されるのは、魔力消費量の多い魔術ばかりだ。
国一番の天才魔術師と、そう呼ばれる実力がある男だとは知っている。その差を見せ付けたいのかもしれないが、それこそが驕りだ。
(お前の魔力量が多いほど、こちらにとっては都合が良い。オズヴァルト・ラルフ・ラングハイム……!!)
クライドが再び放つ雷撃を、オズヴァルトはまたしても守護石で弾いた。
「先ほどから、聞いていれば」
指輪が砕け散って輝く中、それを煩わしそうに払いながら、オズヴァルトが言う。
「貴殿の言葉に込められているのは、自分の望みばかりだな」
「なに……?」
「シャーロットが何を望むのか。彼女の何が幸せか。……そんな思考が、貴殿にはひとつも存在しない」
「…………」
クライドの中にあるシャーロットへの想いを、オズヴァルトが明確に否定した。
その事実を飲み込んだ瞬間に、一層強い憤りが噴き上がる。
「黙れ、オズヴァルト!! 彼女はお前ではなく、俺の妻になるべき女性だ!!」
「その呼び名を、許したつもりはないと言ったが」
「うるさい……!!」
「!」
転移魔法を瞬時に発動させ、一気にオズヴァルトの懐へ飛び込む。クライドはオズヴァルトの首を掴み、顔を歪めて笑った。
「終わりだ。オズヴァルト」
「――――……」
大量の魔力を消費して、強大な魔法陣を発動させる。
これこそがクライドの持っている、『魔力暴走』の魔術だった。
(あのお方に教わった魔術。魔力が高い人間の、暴走を引き起こすもの……!!)
オズヴァルトほどの男の魔力は、暴走すればひとたまりもない。
「オズヴァルト、お前は自分の魔力に耐えきれない……!! 魔力暴走を起こし、周囲にあるすべてを犠牲にしながら、お前も共に爆ぜて死ぬ運命だ!」
「……っ、く……」
オズヴァルトが左胸を押さえながら、苦しそうに顔を歪める。
これによってクライドも魔力を消費し、半分近くまで擦り減ったが、オズヴァルトを排除できるのなら構いはしない。
「ロッティの幸せを、俺に説いたな……!? しかしこれ以降のお前がロッティに出来ることは、彼女を魔力暴走に巻き込まないよう、遥か遠くに転移して野垂れ死ぬことだけだ!」
「…………」
クライドの魔法陣に呼応して、オズヴァルトの魔力が脈動する。
「どうした。ロッティの幸せを、第一に考えられないのか?」
「……やはり。貴殿に、シャーロットの夫を名乗る、資格はない」
「……なに?」
「執着心を、満たしたいだけだ。本当にシャーロットを守りたいのであれば、俺の魔力を暴走させるより先に、彼女を守る結界を張るだろう」
そう言われ、はっとして階段上のシャーロットを見上げた。
祈る彼女の周りを取り囲むように、オズヴァルトの結界が展開されている。そのことに今初めて気が付いて、クライドは舌打ちをした。
「……黙れ」
シャーロットへの結界を優先していなければ、オズヴァルトは自身の守りが間に合い、魔力暴走の魔術から逃れていただろう。
「綺麗事を言うな!! 俺はロッティを手に入れるために、なりふり構わない覚悟がある……!!」
「……周囲を犠牲にする癇癪を、よりにもよって覚悟と呼ぶか」
「余裕を見せられるのもこれで終わりだ。お前の膨大な魔力は、制御不能に……」
そこまで言って、気が付いた。
「……なぜ」
オズヴァルトは顔を歪めている。魔法陣は確かに展開し、魔力暴走を誘っているはずだ。
「魔力量が多い人間ほど、この魔術には耐えられない。だというのに、何故……」
その瞬間、クライドはある可能性に思い当たる。
「まさか……」
オズヴァルトは先ほどから、魔力消費量の多い魔術ばかり選んでいた。
それでいて自分の身を守るための結界は、すべて守護石で賄っている。
これではまるで、最低限の身を守れる状況を確保した上で、自身の魔力量を極限まで減らす調整を行なっていたかのようだ。
「おかしいだろう、お前。魔力をすべて失えば、どんな人間も例外なく死ぬんだぞ?」
「……」
「それなのに」
少し俯いたオズヴァルトが、口元だけで笑う。その表情を見て、クライドは悟った。
「魔力量を極限まで減らした上で、俺との戦闘を行なっていたのか……?」
そうしてそんなふたりを、シャーロットが祈りの姿を取ったまま、聖堂の前から見下ろしている。
***




