第52話 混沌過ぎる戦場–まさかのダークエルフ化–(2)
ちょっとタイトル通りに混沌としてますw
私もどうしてこうなったか分かりません。
よろしくお願いします。
国王陛下とブルーノ君の放置が決定した後ー。
ルインはアイラとクリストファー殿下に視線を向けたわ。
ビクッ……‼︎
アイラはあざといくらいに、涙で目を潤ませながら……震える。
それを見てルインは大きな溜息を吐いた。
「精霊姫アイラ・ジキタリス」
「はっ……はいっ……‼︎」
「………はぁ……」
アイラは名前を呼ばれただけで、顔を真っ赤にする。
………うわぁ……隠す気ないわね。
「えっと……君は洗脳されて、異母姉であるシエラを殺そうとしました。今もナハーム王国側にいたしね」
「そっ……それはっ‼︎」
「はいはい、洗脳されてたって言うんでしょ。分かってるよ。でも、流石に殺人未遂を許すことはできないよね。つーか、本当は俺のシエラを殺そうとした時点で、生きてる事を後悔させてから殺したいぐらいなんだけど……」
「………っ…‼︎」
アイラは息を飲んで目を伏せる。
ルインは、酷く面倒そうな顔で呟いた。
「なんか精霊姫を殺すと、精霊達の負担が増えるからやらないけど」
「………負担にならなかったら?」
「シエラを殺そうとしたんだ。普通に殺す」
シンッ……と静まり返る戦場。
多分、ルインに取って私が逆鱗なんだって全員に知れ渡ったでしょうね。
「とゆー訳で。お前、王太子の婚約者から外れるから」
「………えっ⁉︎」
「こんな最悪の空気の中、話を続けるのかっ⁉︎」
比較的常識人な殿下がツッコミを入れるが、ルインはスルー。
「一応、なんの処分もないってのも問題だから……情状酌量の余地ありとして、領地に引っ込むだけでいい。ジキタリス領で慎ましく暮らせよ」
「………………え?」
アイラの顔から表情が抜け落ちる。
……そうでしょうね。
領地で暮らすってことは……ルインと離れるってことだものね。
「嫌ですっ‼︎」
「嫌ですじゃない。これは既に決定事項だ」
「嫌ですっ、そんなことしたらっ……ルイン様に会えなくなっちゃうっ……‼︎」
「「……………はぁ…」」
私とルインは同じタイミングで溜息を零す。
そして、呆れたような目で……アイラを見た。
「それ以上、口に出すな」
「っ……⁉︎」
酷く、冷たい声だった。
私に向けられたものではないと分かっていても、背筋が凍りそうになるくらいに。
でも、私も同じくらいに冷たい声で告げる。
「馬鹿ね、アイラ。なんでそれを口にしてしまったの?」
「………ぇ?」
「言われなかった?想いを口にすることで、傷つく人がいると」
ルインは、一言もこの子が自分を好きなことを言わなかった。
だって、今は両国に映像と音声が流れていて。
そんなことを言ったら、アイラが異母姉の夫に恋をしていると……公表するようなものなのだから。
「愚かね、とても……愚か」
「………なんで……」
アイラはプルプルと震える。
そして、振り切れてしまったのか、思いっきり叫んだ。
「私はっ‼︎クリストファー様の婚約者になる前からルイン様が好きだったの‼︎でも、クリストファー様の婚約者にさせられた‼︎」
「だから?」
「っ……‼︎」
私は静かに問う。
殿下の婚約者になる前からルインが好きだった。
だから、何?
「………だからっ‼︎殿下と婚約者じゃなくなった以上、私の気持ちを伝えたって問題ないはずよっ‼︎」
「いいえ、問題大有りだと思うわ」
「ルイン様、私は貴方が好きなの‼︎貴方の、妻になりたいの‼︎」
「うわぁ……なんか吹っ切れ過ぎてとうとう、告白してきたよ」
ルインはくわぁ……と欠伸をして、一世一代の告白を受け流す。
それはそれで酷い態度だと思うけど……私の夫に告白してるんだもの。
自業自得ね。
「第一夫人じゃなくてもいいわ‼︎私も、貴方のっ……」
「クリストファー殿下。改めて、これは婚約者としていらないって判断したでしょ?」
「………エクリュ侯爵……こんな混沌とした状況でわたしに話しかけないでくれ……胃痛が……」
アイラは立ち上がってルインに抱きつこうとする。
でも、そうなる前にルインは黒鎖でグルグル巻きにして再び正座させた。
「ルイン様っ……‼︎」
「んじゃあ次は……」
「どうしてっ……‼︎私を見てくれないのっっ‼︎お姉様は狡いっ……お姉様は好きな人と結婚できたのに、私はっ‼︎」
「…………煩いなぁ……」
ゾワリッ……。
いつもと違う気配に、私は勢いよく背後を振り返る。
そこには、漆黒の粒子を纏い……皮膚が黒に変わったルインが……。
えっ⁉︎まさかのダークエルフ化したわよっ⁉︎
「ヒィィィィイッ‼︎」
『ウワァァァァァア⁉︎』
アイラと精霊達の悲鳴が響いて、世界がギシギシと震える。
あ、ちょっと待って‼︎
本当に世界が軋む音と地震が起きてるわ⁉︎
「この俺を見てもまだ付き合いたいと思うのか」
「嫌だ、嫌ぁ‼︎こんな化物と一緒にいたくなぃっ‼︎ごめんなさいっ‼︎もう結婚したいなんて言わないからぁ‼︎助けてっ‼︎助けてぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
………え?何事かしら?
アイラの豹変っぷりに流石の私も、殿下達も目を丸くする。
そんなの彼女を見て、ルインは満足気に微笑んで……闇の粒子を霧散させた。
「よし、言質を取った」
言葉と同時に肌も、元の美しい白磁の肌へと戻る。
………あの……本当に何事だったのかしら?
「あぁ。単に制御版《穢れの王》化しただけだよ」
「えっ⁉︎」
「精霊の天敵みたいなモードだからねぇ。精霊に感性が近い精霊姫も参っちゃったってことだよ」
「……………あれ?私は?」
私も、精霊寄りの存在になってるのよね?
でも、アイラほどの拒絶反応は出てないのだけど?
「俺のお嫁さんだからね。お嫁さんを怖がらせる気はないよ?」
「………あぁ、そうなのねぇ……」
若干、威圧で背筋がゾワッとしたけれどね。
まぁ、えぇ。
深く考えたら負けなんでしょうね。
『……あぁ……世界の歪みが……』
『徹夜決定だぁ……』
………なんか、精霊側の二次被害が凄いみたいだけど。
ガクガクと震えるアイラを見て、私は目を逸らす。
ほら……ちょっと、人としての威厳が悲しい感じになってしまっているから。
涙とか鼻水とか……色んな液体が漏れ出してしまっているから。
「そーだ。言っとくけど、俺、お前のこと好きじゃないよ」
「好きじゃなくていいですぅぅっ‼︎ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
『……………』
………精神に異常をきたしてるみたいなのだけど。
大丈夫なのかしら……。
「じゃあ次ね」
「え?アイラ嬢を放置するのか?」
殿下がギョッとしながら聞いてくる。
ルインは普通に頷いた。
「別に怖がってるだけで、頭イかれた訳じゃないからいいんじゃない?」
『………………』
ルイン……。
「よし。じゃあ最後はナハーム国王」
「ヒィッ⁉︎」
「終戦したのにまだ戦争しようってんなら……俺が相手にするぞ?ちなみに、間違って国ごと消えても仕方ないよな。戦争だから」
「うぐぅっ……‼︎」
ナハーム国王はルインの威圧に負けて、冷や汗をダラダラ流す。
そして、大声で叫んだ。
「しかしっ‼︎我が国は食糧難でっ……」
「目的は食糧難の解決かよ。ってか、だからって戦争しようとするなよ」
「だがっ……‼︎」
ナハーム国王はそのまま黙り込んでしまう。
………どんだけ切羽詰まってるの?
なら、戦争とか植民地化とか目論まないで、普通に貿易でなんとかしたりすればよかったのに。
………視野が狭まるくらい、追い込まれてたのかしら。
ルインは考え込むように黙り込むと、思いついたように顔を上げた。
「……あ、クリストファー殿下」
「………なんだ……」
また急に話を振られた殿下は胃を押さえながら、ルインを見る。
「あのさ?精霊姫の処分、領地に戻るんじゃなくてこいつらに貸し出しは駄目?」
『はぁっ⁉︎』
クリストフ国王とナハーム国王はそれを聞いてギョッとする。
でしょうねー。
普通、精霊に愛される姫君を簡単に……国に豊穣を与える存在を貸し出そうなんてしないでしょうね。
「お前、何言ってんだっ⁉︎普通、そんなことしないぞっ⁉︎また我々が精霊姫を利用したらどうするっ‼︎」
子供を叱るように、ナハーム国王が注意する。
まさかのそっち側からのツッコミだわ。
「いや、実際に利用してたナハーム王国側の人間が何言ってんの」
「お前があり得ないこと言ってるからだぁぁぁぁっ‼︎」
「えー?だってさ?ぶっちゃけると……精霊姫なんかいなくてもこの国は大丈夫だし。半精霊……っていうか、半神な俺とその妻であるシエラがいるんだぞ?それに当然、俺が精霊姫の力に制限かけるし」
「……………半、神……?」
「あれ、知らない?精霊王ってある意味、神様なんだよ。だから、息子の俺は半神な」
ナハーム国王はそう言われて黙り込んでしまって、頭を抱える。
なんとも言えない気持ちなんでしょうね。
うん。
話せる状態じゃなくなった国王を見て、クリストファー殿下は慌てて聞いてくる。
あ、話を逸らすつもりね?
「というか、なんでわたしに話を振ったんだ……」
「だって、あんたが次の王様じゃん。ある意味、精霊姫の貸し出しはナハーム王国へ恩を売ることになるぞ?そしたら、そう簡単にまた戦争しかけようとかできなくなんだろ」
「よし、話を聞こう」
「流石、話が分かる〜。いやぁ、よかった……………精霊姫がこの国にいたら俺がまた殺したくなっちゃうかもしれないし」
ルイン……精霊姫をナハーム王国に貸し出したいのって……最後の言葉が本心ね?
「よし。じゃあ、後の面倒くさいことは偉い人達に任せよう。取り敢えず……クリストファー殿下。後はよろしく」
「えっ⁉︎」
「俺が作った擬似精霊を置いてくから、もし従わなかったら擬似精霊がお仕置きするから、安心しろ」
「擬似精霊っ⁉︎」
ルインはふわりと、自身の手から翡翠色の光を浮かび上がらせる。
「擬似精霊は誰でも見ることができるから、なんかあったらこいつで俺に連絡して。でも、なるべく連絡するなよ?シエラとイチャイチャするんだから。じゃあ」
「それ、実際には連絡するなって言ってるよっ⁉︎って、この状況を放置して転移すーーー」
シュンッ‼︎と光が私達を包んで、エクリュ侯爵家のルインの部屋へと転移する。
ルインは私の頬にキスをしながら微笑んだ。
「やっとシエラとイチャイチャできるね」
「置いてきてよかったの?」
「うん。面倒くさくなってきてたし」
………ルイン……なんか、マイペース感がアップしてるわね……?
かくして、ドラゴンスレイヤー……ルイン・エクリュによる〝喧嘩両成敗〟は無事(?)に終えたわ。




