第36.5話 ハイエナと侯爵令嬢のデート
脇CPの話です‼︎
よろしくどうぞ‼︎
その日ーー。
わたくしは緊張していた。
「ねぇ、ねぇ?おかしくないかしら?」
「大丈夫ですよ、ネッサ様」
専属侍女のマサーナが苦笑する。
でも、気になってしまうのよ。
今日はトイズ様と王都の喫茶店に行く。
この間のシエラ様達の結婚式で約束したからね。
貴族女性というのは、お屋敷でお茶会を開くものだけど……トイズ様は、美味しいコーヒーがあるからって喫茶店に誘ってくれたの。
お茶会の時のように豪奢なドレスじゃなくて、シンプルながらも品のいいモスグリーンのワンピース。
姿見の前で何度も確認してしまうくらいには、緊張してしまっているわ。
「そんなにフェンネル男爵とのデートが楽しみなんですか?」
「デッ……デートじゃないわ‼︎お茶をしに行くのよ‼︎」
「うふふっ、そうですか」
マサーナはクスクスと笑いながら、私の髪を梳いてくれる。
………いつもはこのまま、髪を巻くのだけど……。
「今日はこのままでいいわ」
「あら?」
「髪を巻いていたのは、強がりみたいなものだったから」
わたくしが髪を巻いていたのは、昔読んだ本の主人公がそうだったから。
強く、美しいその主人公に憧れたの。
わたくしも、そんな風に強い女性になろうと。
どんなことがあろうと傷つかないようにと。
わたくしの、虚勢の一つだった。
「………お嬢様はそのままの方が可愛いですよ」
「…………ありがとう」
マサーナは優しく私の髪を結い上げてくれる。
ハーフアップになったわたくしは、いつもとは違う印象を抱かせた。
そんな時、扉がノックされて、侍女の声が聞こえてくる。
『お嬢様、いらっしゃいましたよ』
「今、行くわ」
あぁ……ドキドキする。
楽しい一日になりそうね。
*****
小さなピンクの花束を持って、ロータル侯爵家に向かう。
今日はネッサ様と王都の喫茶店に行くんです。
まぁ、デートですね。
この間のエクリュ中佐の混沌と化した結婚式は、最後までグダグダ(というか、エクリュ中佐達がイチャイチャ過ぎてどうでもよくなったとも言います)になってしまったけれど……今日の約束だけは取り付けられたから良かったです。
というか、ロータル侯爵もよく認めてくれましたよね。
僕は所詮、男爵ですし。
というか、ハイエナですし?
なんとしてでも僕を近づけないようにするかと思ってましたが……諦めたんでしょうか?
まぁ、それならそれでネッサ様を手に入れやすいんでやりやすいんですけど。
「トイズ・フェンネルと申します。ネッサ・ロータル侯爵令嬢をお迎えに上がりました」
ロータル侯爵家に来て、家令らしき男性にそう声をかけると直ぐにネッサ様が現れました。
モスグリーンのワンピースに、ハーフアップの髪型。
…………縦ロールではない。
普通の、普通に美少女がそこにいた。
「トイズ様」
ふわりと微笑んで、彼女は僕の元に歩み寄って下さって。
そして、美しいカーテシーをして見せました。
「ご機嫌よう」
「……ご機嫌よう…」
あぁ、なんですか。
凄く可愛い。
僕はなんとか笑みを顔に貼り付けて、手に持っていた花束を差し出します。
「プレゼントです」
「まぁ‼︎」
頬を赤くしてネッサ様は花を受け取る。
そして、幸せそうな顔でこちらを見た。
「ありがとうございます、トイズ様‼︎誰か、この花束をわたくしの部屋に飾っておいて」
「畏まりました」
侍女が花束を受け取り、去って行く。
僕はそこでハッとして、彼女に手を差し出しました。
「では、参りましょう」
「はい」
強くて、凛とした一面もあるのに……こんな素直な一面もあるなんて。
可愛過ぎるだろう。
僕達は馬車に乗って喫茶店があるエリアに向かいます。
一応、近くに行ったらそこからは徒歩で行く予定なんですよ。
喫茶店はアンティーク風の落ち着いた雰囲気の内装で、ゆったりとした空気が流れるいい店です。
店内に入ると、ネッサ様はキョロキョロと周りを見ていました。
「どうされました?」
「その……喫茶店に入るのが…初めてで」
ネッサ様は侯爵令嬢ですからね。
普通はお屋敷でお茶会を開くものなんでしょう。
「なら、楽しみましょうね?」
「………はい」
奥まっているけれど、大きな窓ガラスから日差しが差し込む丁度いい位置に座って、コーヒーを二つ、今日のおすすめケーキを一つ頼む。
話す内容は何が好きとかどういう本を読むとか、些細なものばかりでしたが……とても楽しい時間で。
一つ、彼女のことを知るたびに……彼女も一つ僕のことを知る。
そうやって互いに教えあって、理解することはとても幸せで。
ずっと、こんな甘くて優しい時間が続けばいいのにと願わずにはいられませんでした。
ちなみに、コーヒーの苦さにネッサ様が凄い顔になり、急いでミルクと砂糖を入れていたのは可愛かったです。
どうやらコーヒーを初めて飲んだみたいですね。
モンブランを食べて頬を緩ませている姿は小動物のようでした。
お茶をして直ぐに帰るというのも味気ないので、僕達はそのまま王都を見て回ることにしました。
ここら辺は手頃な値段の品物が多いので、色んな人が集まっています。
そんな中、ネッサ様がある場所を見ていました。
それは少し道を外れた、人目のつきにくい場所。
あぁ……どうやら、一人の女の子を複数人の男が囲んでいるみたいですね。
女の子は嫌がっているみたいで……って。
「その手を離しなさい、下郎」
………あぁ……思いっきり関わるつもりなんですね、ネッサ様。
彼女は男達を無視して、無理やり女の子の手を引っ張り自身の後ろに隠す。
柄が悪い男達は、ネッサ様を見て目を見開きます。
「へぇ……いい身なりの姉ちゃんだなぁ。あんたがそいつの代わりになってくれるのか?」
「嫌がっているのが分からないんですの?とっとと失せなさい」
「強気だなぁ‼︎」
男達がネッサ様に手を伸ばそうとする。
その手が触れる前に、オレは動き出していた。
「何、人の女に手ェ出そうとしてんだよ。潰すぞ」
オレはネッサ様を抱き締め、男の身体に前蹴りを噛ます。
一応、軍人だからな。
参謀所属だったとしてもそこそこ鍛えている。
「何すんだ、テメェ‼︎」
「ア゛?ここらのゴロツキはオレがシメたと思ってたんだがな?」
「…………っっっ⁉︎」
男達の中にいる数人がオレに気づいて絶句する。
そのまま勢いよく土下座してきた。
「申し訳ありません、ハイエナさん‼︎貴方様のお連れの女性に手を出そうとした訳じゃ……」
「…………え?」
腕の中にいるネッサ様はこの状況にキョトンとしている。
まぁ、うん。
言ってしまえば、ちょっと王都に潜伏していた麻薬密売組織を壊滅させるついでに、ゴロツキどもをシメたことがあって。
そこからオレには逆らうべからずみたいなルールができたらしい。
「テメェら……ほどほどにしねぇと、ドラゴンスレイヤーと騎神を使って壊滅させるぞ」
「ヒィェッ⁉︎前よりも凶悪な伝手ができてるぅ⁉︎」
「失せろ」
「失礼しましたっっ‼︎」
ゴロツキ達は猛ダッシュで逃げて行く。
オレはネッサ様に向き直って、彼女の頬を左右に引っ張った。
「いひゃいでしゅわ‼︎」
「行くのはいいけど、せめて一言、言ってからいけよ‼︎お前に何かあったら心配するだろ⁉︎」
「っ……‼︎」
ネッサ様は目を見開いて固まる。
でも、真っ直ぐな瞳で見つめ返してきた。
オレはゆっくりと手を離す。
「確かに何も言わずに行ったのは悪いと思っています。ですが、後悔はしていませんわ。困っている人を見捨てるのは、わたくしの矜持が許しませんでしたもの」
………こういう強い女だって分かってたけどさ。
それと心配するのはまた別の話だから。
「はぁ……かっこよかったけど、心配させないでくれ。オレはお前に何かあったら、どうにかしてしまう」
「………それは……どういう…意味で……?」
強いと思えば、頬を赤くして初心な反応を見せる。
期待したような瞳は、この言葉の答えを求めてる。
だけど、まだ。
「こういうのはもっとロマンチックなシーンでやるべきだろ。取り敢えず、そこの女の子を兵に引き渡そう」
それから、僕達はその女の子を巡回兵に渡し、帰路についた。
流石にゴロツキと絡んだとなったら、隠れて護衛している奴らが心配するでしょうしね。
ロータル侯爵家についた僕達は、互いに顔を見合わせる。
もう少し一緒にいたいと思う気持ちと、さっきの不完全燃焼の言葉で少し居心地が悪くて。
僕は大きく息を吐いて、ポケットの中から紙袋を取り出した。
「ちゃんと言葉にするので、もう少し待っていて下さい」
「…………え?」
「これは今日のデートの記念です」
「っっっ‼︎」
ネッサ様は紙袋を受け取って、ゆっくりと中身を取り出す。
そこには普通の値段だけど、羽を模した髪飾りが入っていて。
彼女は目を潤ませて、微笑んだ。
「待っていてあげるけど、早くしないと……こちらから言ってしまうわよ?」
やっぱり、この人は可愛いだけじゃないな。
強くて、美しい人だ。
「…………そうならないように、頑張ります」
「えぇ、頑張って?」
「では、また」
「またお会いしましょう、トイズ様」
最後は気恥ずかしくなってしまい、その場をそそくさと退散してしまいました。
僕が裏からコソコソと動いているのを知っているんでしょう。
ネッサ様を手に入れるために、小賢しいハイエナが動いていることを。
でも、彼女は表向き気づかないフリをする。
それは僕の行動を、見過ごすことで許しているということで。
………なんか、敵わない気がしますね。
その後ーー。
エクリュ中佐から「楽しいデートだったみたいだね?」と言われて悶えたのは、恥ずかしかったです。
ちなみに、ルインがデートのことを知っているのは、ネッサがシエラとのお茶会で惚気て。
それをシエラがルインに教えたからです。




