第27話 凄い雑魚っぽい声しか聞こえなかったわ
【注意】若干、残酷表現あります‼︎
ランキング、めっちゃ入りまくりました‼︎ありがとうございます‼︎
「悪役令嬢、五度目の人生を邪竜と生きる。–破滅の邪竜は花嫁を甘やかしたい–」を沢山の方に読んで頂いたので、お礼を兼ねてその後の話を投稿し始めました。そちらもよろしくお願いします‼︎
今後もよろしくどうぞ‼︎
わたし、ネイサン・ロータルは侯爵家当主だ。
はっきり言って、わたしは今、とても憂鬱である。
理由は分かっている。
目の前にいる三人の所為だ。
この国には、王族や王弟である公爵以外に、絶対に敵対すべきではないと言うか……余り関わるべきではないと言われている人物達がいる。
それが、騎士団の《騎神》。
精霊術師団の《華姫》。
軍部の《ハイエナ》だ。
騎神は、騎士としての剣術や忠誠心など……まさに騎士の中の騎士といった性格だが、いかんせん扱いにくい。
つまり猪突猛進タイプで思い込みで行動してしまうことが多々あるのだ。
それが理由で、問題を起こすことがある。
要するに騎士でありながら馬鹿なのである。
華姫の方は、精霊術師団と言えば想像がつくだろうが……エルフである。
しかし、自尊心が高いと噂のエルフの中で、華姫だけはそれに当てはまらない。
つまり、彼女は他の人に言われた通りにしか動けない人形なのだ。
ゆえに、他者に言われれば善行も悪行も全て行ってしまうため……強力な精霊術師でありながら、やはり扱いにくい。
そして……最後にハイエナ。
何も知らない者は、軍部に所属している=脳筋だと考える者が多いようだが……それは大きな間違いだ。
ハイエナは、その緻密な策略を仕掛けるがゆえ恐れられている。
噂では、優秀な彼にコンプレックスを抱いた同僚が、ハイエナを陥れようとしたらしいが……それを逆手に取られ、軍部から懲戒処分にされたらしい。
加えて、まともな仕事に再就職できなくなり……泣く泣く、辺境の地で農家を営んでいるとか。
これに加えてここ最近《ドラゴンスレイヤーとその婚約者》も仲間入りしたが……まぁ、とにかく。
今、わたしが憂鬱な気分になっているのは彼らの所為だ。
しかし、ことがことゆえにそんなことも言っていられないだろう。
わたしは一貴族として、国のため……民のために、愚か者へ裁きを下さねばならない。
わたしは、大きく息を吐いて……作戦案を聞いた。
*****
ロータル侯爵家で作戦を立ててから一週間後。
私達はグライツ公爵領の領都にいた。
王都近くにあるグライツ領に戻られていた公爵達に訪問の手紙を出し、了承してもらって……やっと今日。
作戦決行日になった。
私は今、どこにでもいるような茶髪の侍女の姿になって、ネッサ様の背後に控えている。
目の前にはソファに座ったネッサ様と、向かいのソファに座ったグライツ公爵とギルバート様。
見えないけれど、姿を消してルインとトイズ様がこの部屋の中にいるはず。
今、私達はトイズ様の作戦を決行していた。
問答無用でグライツ公爵家を潰すため、取った作戦はやっぱり揺さぶりかけて暗殺者を放ったところを捕まえる作戦だったわ。
でも、その揺さぶりをかける人が重要で。
私とルインは、強力な精霊術師&ドラゴンスレイヤーだから暗殺者を放とうと思わないんですって。
なら、逆に令嬢でしかないネッサ様なら消そうとするだろうってのがトイズ様の見解だったわ。
普通ならそんな危険なことしようと思わないはずなのに、ネッサ様は「構いませんわ」の一言で了承して下さった。
とても強い女性よね。
そんな危険な賭けに出てくださるネッサ様のため、護衛は私とルインが請け負ったわ。
まぁ、私も一応は令嬢だから普通は護衛なんてやらないんでしょうけど……私も普通じゃないから構わないわよね?
「回りくどい真似は止めておきましょう。わたくし、そちらのいざこざを全て把握しておりますの」
ネッサ様は扇子を片手に余裕のある笑みを浮かべ、グライツ公爵達を見つめる。
………ゲームで見た悪役令嬢の笑顔だわ。
「………一体何を……」
グライツ公爵は若干顔色が悪いけれど、知らぬ存ぜぬを通すつもりみたい。
でも、ネッサ様はそれを鼻で笑って口元に指を添えた。
「あら?しらばっくれるのかしら?わたくしがそちらの男の不貞も、グライツ公爵家の事情も、公爵の不正も知らないとでも?」
「「っっ⁉︎」」
何故知っている、って顔に出てしまっているわよ?
貴族ならもう少しポーカーフェイスじゃなくちゃね。
「この件は陛下にご報告させて頂くわ。それと、婚約解消もして頂きますから。婚約解消の書類はこちらよ」
ネッサ様が私に手を差し出したから、私は何も言わずに婚約解消の書類を渡す。
そしてスッと彼らに見せた。
「今すぐサインなさいませ」
「ネッサっ……お前っ……‼︎」
ギルバート様が怒りに顔を歪ませて、立ち上がろうとする。
しかし、それよりも先にパチンッ‼︎とネッサ様が扇子をテーブルに打ち付けた。
「お黙りなさい、放蕩男。まだ貴方の件を公にしていないのが、わたくしの温情だと分からないのかしら?」
「っっ‼︎」
…………ネッサ様、カッコ良過ぎるわ……。
堂に入った姿がまさに薔薇って感じね。
グライツ公爵はその目に怒りや増悪、殺意を宿しながら……あくまでもポーカーフェイスを装いつつ、婚約解消届けを受け取った。
「ギルバート、書きなさい」
「ですが父上っ‼︎」
「こちらの方が不利なんだ」
そう素直に応じたように見せて、その目に宿る感情は隠せてないわね。
私は精霊術を行使して、グライツ公爵の考えを探る。
あぁ……やっぱり。
トイズ様は凄いわ。
予想通りね。
サインを書き終えた書類をネッサ様は受け取り、確認する。
私もそれを受け取って確認した。
えぇ、ちゃんと名前が書かれてるわ。
これを提出すれば問題なしね。
「では、失礼致しますわ。これから陛下にお会いしなくてはなりませんので」
ネッサ様は優雅に挨拶して、颯爽と部屋を後にする。
私もその後に続いた。
廊下に立っていた侍女に案内してもらい、公爵家を後にして馬車に乗る。
そこでやっと、ネッサ様は息を吐いた。
「ふぅ……緊張したわ」
「うふふっ……堂に入っていて素晴らしかったですよ?」
「あら。なら、よかったわ」
ネッサ様とクスクス笑いあって、御者に出発の合図をする。
馬車が走り出すと同時に、私は先程見た公爵の心の内を話すことにした。
「どうやらトイズ様のプロファイリング通りのようね。グライツ公爵は暗殺者を放つつもりみたいだわ」
「………でも、このまま王宮に向かうのでしょう?暗殺者なんて放っても、それよりも先に王宮に着きそうじゃない?」
「ところが……どうやら子飼いにしている者がいるみたいね。多分、この街から出て、暫くしたら襲ってくると思うわ」
嫌ね、暗殺者を子飼いにしているなんて。
子飼いにしているってことは今までも消した人間がいるってこと。
……今回の相手は、貴族の中でも醜悪な部類に入るみたい。
「だ、大丈夫ですの?」
流石のネッサ様も不安げね。
まぁ、それが普通なんでしょうけど……。
「ネッサ様、お忘れですか?私達にはドラゴンスレイヤーがついているのよ?」
「…………ぁ…」
「というか、ルインの方が危ないかもしれないわ」
「……………え?」
「だって、私が乗ってる馬車が襲われるんですもの。暗殺者を逆に殺しちゃわないか心配だわ……ちゃんと生け捕りにして公的な場で処分しなくちゃいけないのに」
ふぅ……と息を吐いて頬に手を添える。
ルインったら、下手したら瞬殺してしまいそう。
ちゃんと我慢してくれるといいんだけど。
『シエラ〜。ルインから連絡〜』
『多分、王都に向かう途中の森で襲ってくる可能性大だって〜』
『トイズが推測したよ〜』
(分かったわ)
精霊達から連絡を受け取り、私はそれをネッサ様に伝える。
ちょっと緊張した面持ちになりながらも、ネッサ様は怯えることなく頷いた。
(ルインに半殺しにするくらいなら構わないけど、殺しちゃダメよって伝えてくれる?)
『分かった〜‼︎』
(あ、ちゃんと我慢できたらご褒美をあげるっていうのも伝えて頂戴)
『りょーかい‼︎』
これでルインが敵を全滅させる可能性は減ったわね。
後は待つだけ。
………でも、待つだけだとつまらないから、私はネッサ様に聞いてみた。
「で。ネッサ様はトイズ様のこと、どう思ってらっしゃるの?」
「なっ⁉︎」
そう言われた彼女は顔を真っ赤にして、ギョッとする。
あらあら〜……その反応は……。
思わずニマニマしてしまうのをなんとか我慢しつつ、目を逸らしモジモジするネッサ様を見つめる。
「その……どう思っているって……」
「少なくとも好ましく思ってるんでしょう?」
「それはそのっ……」
あの気高い悪役令嬢がこんなにも可愛らしい反応をするなんて……。
ネッサ様は「はぁ……」と息を吐いて、ちょっとアンニュイな感じで微笑んだ。
「………好ましく、思ってるんだと思うわ……でも…わたくしは、侯爵令嬢で。相手は軍部の方でしょう?」
………あぁ……ネッサ様も結局それが問題になるのね。
身分の差という、壁が。
「………エクリュ侯爵は武功を挙げて爵位を得たけど……フェンネル少尉は、軍人ではあるけど爵位は……」
貴族女性というのはどうして自由に恋愛できないのかしらね。
結婚は家のためにするもの。
政略結婚してから愛が芽生えるタイプもあるでしょうけれど……恋愛結婚ができる貴族はほとんどいないんだもの。
なんて、面倒なんでしょうね。
「でも、ルインと一緒にいたら簡単に爵位なんて得てしまいそうだけどね」
「…………そう、かしら……」
「それかどこかの貴族の養子になるしかないだろうけど……」
「平民が、高位の貴族に養子入りなんて……滅多にない話だもの。きっと無理だわ」
男爵や子爵までなら養子入りできそうだけど、伯爵家は微妙なラインよね。
侯爵令嬢であるネッサ様なら、相手はできれば伯爵以上の家系の方がいいだろうし。
「…………それに、初恋は叶わないと言うわ」
そう告げたネッサ様はどこか寂しそうで。
私はーー。
ガタンッッ‼︎
「「っ‼︎」」
馬車が大きく揺れて止まる。
何事かと思えば、どうやら強襲されるであろうポイントに着いたみたいで。
外から剣戟の音が響いた。
『ヒィィィィィッ‼︎』
『貴様はっーぐふっ⁉︎』
『ドラゴウグッ⁉︎』
「「………………」」
…………どうしましょう……凄く雑魚っぽい声しか聞こえなかったわ。
私とネッサ様は互いになんとも言えない面持ちで見つめ合う。
そして……数秒もしない内に馬車の扉がノックされた。
『終わったよ、シエラ』
その声はいつもと変わらぬルインの声。
私が急いで扉を開けると………。
血塗れになりながら倒れ臥す黒服の男達と、返り血すら浴びていないルインがいた。
「……………ルイン……」
「あ、出血は派手に見えるけど殺してないよ?ちゃんとシエラにご褒美もらえるように頑張ったんだ」
ルインの背後でトイズ様がせっせと縄で暗殺者達を拘束していく。
あ、微妙に呻き声を漏らしてるから本当に生きてるみたい。
「シエラ?ご褒美、頂戴?」
蕩けるような笑顔でルインは私の頬に手を添える。
若干、忠犬っぽいって思っちゃったけど……私がルインに言ったことだから。
「うふふっ、頑張ってくれてありがとう」
私は彼の唇に、優しくキスをした。




