17話 傷ついた悪魔乗り
新谷と新たに表れた悪魔乗りのお蔭で綾乃は助かった。
女性の悪魔乗りはその足で自らが死神と呼ぶ男……司の元へと向かう。
彼女は話をし……自らの目的でもあるジャンヌとナルカミのパイロットを育てる事を告げたのだった。
だが二人は戦いに傷つき倒れている……。
果たして、そう上手く行くのだろうか?
医務室で少女はゆっくりと瞼を持ち上げます。
どうやら意識を失っていたようです。
どのぐらいの時間かは分かりません。
ですが、唯一分かることは自分がまだ生きているという事。
そして、生きているからこそ……。
「……ぁ……ぐっ、ぅ……」
痛みを感じます。
「おい、ほら、動くんじゃない。処置が出来ないだろう」
そう口にされても痛いものは痛いと彼女は言いたかったのですが、それは無理でした。
言葉を出そうと息を吸うだけで痛みが走り、それ故に喘ぐしか出来なかったのです。
美月……。
彼女がいてくれたらこの苦しさを紛らわせてくれたでしょう。
魔法という手段だけではありません。
美月……。
彼女は優しい。
その優しさに触れるだけで……それだけでも十分だったのです。
何故なら、彼女は幼い頃の自分をそうやって助けてくれたのですから……。
ですが……。
「先生! 夜空さんの容体が!」
「こんな時にか……全く邪魔な道具だ……放って置け、今は手が離せない」
「で、ですが!!」
その彼女は今は眠っていて、更に悪い結果へと向かおうとしている様です。
綾乃は目を見開き、処置をしてくれていた彼を初めてまともに見ました。
見た事も無い医者でしたが彼に対し目で訴えます。
声は出せなかったのです。
それでも、彼女は必死に訴えました。
同時に女性の声が響きます。
「――このままでは彼女、美月さんが死んでしまいます!」
綾乃には自分の状態なんて分かりませんでした。
それでも、懸命に訴えると医師は彼女の意図に気が付いたのでしょう。
彼は信じられない事に呆れた顔をしました……。
「化け物より人間が優先だ……生きていて意識もある……当然だろう」
その言葉に綾乃は愕然としました。
違う……美月を診て! アタシの事なんてどうでもいい!
そう叫んでも心の中では意味がありません。
大粒の涙を流し尚訴えますが……。
「……目で訴えても意味はない。あれはもう目覚めないだろうからな」
その言葉に綾乃は彼を睨みます。
彼は申し訳なさそうな顔を一切浮かべず……綾乃の手当てをし始め――。
「なら私がそれを診よう、多少の心得ならある。貴様はあの悪魔乗りを診てやれ」
部屋の中に響いたのは聞いた事も無い女性の声でした。
その声に対し医師は舌打ちをします。
ですが女性は……彼を睨み。
「ああ、そうだ先ほどの言葉、とても医者とは思えないな? これを我が祖国や他国に知られたら貴様どうなるのだろうな?」
「余計な事を……」
医者は悪態をつきながら急ぐ様子もなくその場から去って行きました。
彼女をじっと見つめる綾乃。
すると彼女はふんっと鼻を鳴らし……。
手をかざすと綾乃の傷を治していきます。
――治癒魔法!?
今まで美月を含め数人しか使い手が居ないとされていたものです。
ですが、その女性は魔法を確かに使いました。
「傷ぐらいならこれで治るだろう」
そう言いますが、一向に傷が良くなっているとは思えません。
美月とは違う……なんか、冷たい? それに寂しい気持ちがする。
嘗て夜空美月から治療を受けていた綾乃だからこそ感じたのでしょう。
美月からは感じられた暖かさがその魔法にはなかったのです。
やっぱり、美月が……良いな……。
折角、治してくれているというのに綾乃はそう思うとゆっくりと目を閉じました。
彼女が目を覚ますと其処は白い部屋。
嘗て美月が寝泊まりしていた部屋の様です。
「……アタシ……」
声を出すと自分が無事だったのが分かりました。
立ち上がり、近くの姿見で自分を確認します。
まだ体は痛みを訴えていましたが、目を覚ます前ほどではありません。
ですが……。
「傷、残っちゃったか……」
自身の額の残る傷を見て綾乃は胸が痛みました。
当然です彼女は年頃の女の子。
身体に傷が残るのはショックでしょう。
それも額と気になる部分だからです。
「美月は……大丈夫かな?」
彼女はそう呟くと部屋を出て、美月の元へと向かおうとしました。
「どこに行くつもりだ?」
「……え?」
その声は先程聞いたものでした。
彼女は部屋の外に立っており、綾乃とは一切目を合わさないように口にします。
「どこに行くつもりだ?」
「どこって……あ、そうだ。あの、ありがとうございます」
この人は何を言っているのか? 綾乃は困惑しながらもお礼を告げました。
すると彼女は鋭い瞳を綾乃へと向け――。
「どこに行くつもりだと聞いている! 貴様は軍属だろう! この駄犬が!!」
「だ、駄犬!? って言う必要ある!? 何処の誰だか知らないけど、助けてくれたのは嬉しいけど! そんな風に――」
彼女が思わず反論すると彼女は綾乃の胸倉をつかみました。
普段の服とは違い患者衣です。
「ちょ!? や、止め!? み、見えちゃ――!?」
「そんな事で顔を赤らめるな! お前のが見えた所で私は気にしない!」
むちゃくちゃだ! そう思った綾乃でしたがふと疑問にも感じました。
なんで、この人……魔法使いなのに……。
それは魔法使いなのに思ったより力がある事でした。
しかし、それもすぐに羞恥により頭から外れると――。
「あ、アタシは気にするの!!」
と叫ぶのでした。




