4話 押しに弱い悪魔乗り
美月は自身の気持ちに戸惑う。
同性だというのに綾乃とキスをしそうになったというのに嫌ではなかったのだ。
寧ろ、母が訪ねてくるのがした後だったらとも考えてしまった。
彼女はもんもんとし夜を過ごす。
そして、翌朝も……その所為か体調が少しおかしい様にも感じられた。
「ひゅ、ひゅ……けほっ……こほっ」
美月は急ぎ足をしていたからでしょう。
途中で苦しくなり、立ち止まっていました。
呼吸を整えよう。
そう思って深呼吸をしますが、咳込んでしまい上手く出来ません。
苦しい、そう思う彼女の目の前に水が差しだされました。
「飲むと良い、少しはましになるかも」
その声は昨日食堂で話しかけてくれた男性でした。
彼は優しい顔で水を差しだしてくれたのです。
美月はそれを手に取りゆっくりと飲み始めます。
途中何度か咳込みましたがなんとか飲み干すと――。
「ひゅ……あ、ありが、けほ、ございます」
少し落ち着きを取り戻しました。
「一体どうしたんだい?」
心配そうに見つめて来る彼には感謝していましたが、何故か良い予感がしません。
彼のその笑顔や優しさには偽りはなさそうに思えましたが、何故だろう? 美月はそう思いました。
「い、いえ……急いでただけで……」
「そうか、でも気を付けた方が良い魔法使いは人より体力が無いんだから」
それは綾乃にもいつも言われている事でした。
美月は引きつった身を浮かべると、頭を下げその場を去ろうとします。
すると――。
「ま、待った!」
「きゃ!?」
急に目の前の道を遮られ、壁に追いやられた美月は思わず小さな悲鳴をあげます。
そして、何が起きたのかを確認する為に目の前の男性へと目を向けました。
すると彼はにっこりと笑みを浮かべ――。
「やっぱり、可愛いね」
なぜ今そんな事をと思いますが、美月に逃げ道はありません。
何故なら彼は逃がさないように壁に手を付いているからです。
「あ、えと……」
怖い、正直美月はそう思いました。
吉沢とは違った怖さです……。
「あのさ良かったら、付き合ってくれないか?」
「えと、あの……付き合うって、何にですか?」
ただこの場をどうにか切り抜けたい彼女はそう口にし彼は苦笑いを浮かべます。
「もしかして、それ本気? 可愛いなぁ」
「――ぁ、あの」
もう、行っても良いでしょうか? 美月はそう言いたかったのですが、そう言えない雰囲気がその場にはありました。
そう、これは昔流行ったという壁ドンと言うものでしょう。
今も一部の女性には人気らしいですが、美月にとってはただ怖いだけでした。
あまりよく知らない男性に逃げ場を奪われているのですから当然です。
「だから、俺と付き合ってほしいんだ」
そして、そんな事を言われ美月は引きつった笑みで首を傾げます。
「だから、恋人になって欲しい」
痺れを切らした男性にそう言われ美月は思わず固まります。
そして――。
「え?」
まさか、自分が告白されるとは思っていなかった彼女は狼狽しました。
そんな彼女を見て男性はにっこりと微笑むと……。
「前から可愛いとは思っていた、だけど今の髪型にしたらもっとね。こんなご時世だろ? お互いに楽しもうじゃないか、そしてゆくゆくは子供を……」
「こ、こど!?」
美月は飛躍する彼の妄想について行けず驚きます。
すると彼はそれを承諾と取ったのでしょうか、顔を近づけて来て――。
「――やっ!?」
美月は当然拒否の言葉を口にします。
ですが、彼は照れ隠しだと思ったのか、近づけるのを止めてくれません。
「魔法使いの出産が一般人と比べてさらに危険だって知っているんですか?」
そんな時、聞こえた声は最も恐れる声です。
ですが、彼女が現れた事で彼は止まり……。
「へ?」
「ただでさえ出産は危険と隣り合わせです。ですが、魔法使いはそれ以上に大変なんですよ? 何せ一般人より体力が落ちているんです。実際にそう言ったケースは聞きます」
彼女はそう言うと笑みを浮かべて二人に近づいてきます。
「それに今とても嫌がっている様でしたけど?」
普段は怖い彼女が今は救世主の様に見えました。
そう、美月はいつもこの人に恐怖を感じていましたがこの時ばかりは来てくれて助かったと思いました。
「だ、だって今……」
「沈黙は肯定ですか? 貴方の言う事に戸惑っていたように見えましたが?」
吉沢は笑みを浮かべてはいますが、憤りがその身からあふれているようにも感じられます。
それをようやく察したのか、彼は慌てて美月から離れるとその場を去って行くのでした。
美月はようやく解放されたことに安堵のため息をつきます。
ですが、そこに吉沢がいる事を思い出し身構えました。
すると――。
『パシャッ』
と言う音がし、美月が呆然としていると嬉しそうな笑みを浮かべた女性は……。
「ああ、可愛い顔が取れましたこれで夜困りません、ふふ……ふふふっ」
夜とは何の事でしょうか? 美月は彼女に問いただしたいとは思いましたが、すぐに喉まで出かかった言葉を飲み込みます。
聞くのが恐ろしいと思ったからです。
「ああ、先に言っておきますね、ごちそうさまです」
「な、なななな!? た、食べないでください!?」
何やら嫌な予感を感じた美月は慌ててそういうのですが吉沢は怪しく微笑むだけでした。
ですが、急に真面目な顔になると……。
「でも、真面目な話気を付けてくださいね、美月さんは隙が多く付け入れば行けそうという声も上がってますので」
「あ、え? 行ける?」
意味が分からず首を傾げると彼女はふふっと微笑み。
「つまり、押せば強引に付き合えるのでは? と勘違いされています」
「そ、そんな!?」
驚き狼狽する美月でしたが、吉沢はうんうんと頷き……。
「とにかく、気を付けてくださいね」
と言って去って行ってしまった。
美月は暫くぼーっとしていたのですが、はっとすると……。
「写真消してもらってない……」
と呟くのでした。




