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59話 傷つける少女

 戦いに追いつけなくなる。

 その報告を新谷は司令官である司へと告げる。

 それは彼も予想していた事であったが、早すぎる事実に彼は何か手を打たなくてはと考えた。


 一方美月は訓練を終えシャワーを浴びている最中。

 自分に芽生えた綾乃への気持ちに困惑をするのだった。

 美月は部屋に戻ると疲れた体を癒そうとベッドの上へと横たわります。

 何もすることが無いと頭に浮かぶのは決まって今日の訓練の事です。


「綾乃ちゃん……かっこよかった……」


 その感想は訓練中で起きた事。

 美月は油断していました……そんな時決まって綾乃が助けてくれるのです。

 まるで騎士の様に……もし、彼女が男性であったなら美月は迷わず綾乃を好きになっていたでしょう。

 今もそうだと言えばそうなのですが、同性である事に迷いがあります。


 ですが、彼女の事を思い出すと胸が熱くなり、心臓もバクバクと言い始めました。


「ぅぅ……」


 やっぱり、おかしい。


 美月はそう思うと枕へと顔を押し付けます。


 綾乃ちゃんは女の子で私も女の子で……だから、こういう風に考えるのはおかしくて……。

 でも、綾乃ちゃんはかっこよくて……それに、あの時もう少しで……。


 美月は廊下での出来事を思い出し、耳まで真っ赤に染めていきます。

 そう、迫る綾乃の顔を思い出しただけではなく。


 わ、私……泣いて、嬉しくて、だ、だだだだだき!?


「~~~~~~!?」


 ベッドの上、枕へと顔を押し付けたままバタバタと悶える美月。

 彼女は当時の事を思い出し、なんとも言えない気分になってしまったのです。


「み、美月?」

「…………へ?」


 すると、物音を聞き心配してくれたのでしょう母がいつの間にか部屋に入っていました。


「ど、どうしたの?」

「あ、あああああ!?」


 母に見られた。

 ただそれだけでも恥ずかしいと思う美月でしたが、続く言葉にますます顔を赤くしました。


「綾乃ちゃんってあの子と喧嘩でもしちゃったの?」

「あ、あああやのちゃん!?」


 消え入りそうな声で彼女の名前を呼ぶと目が回りそうになりました。

 無意識のうちにどうやら彼女の名を呼んでいたようです。

 美月はあわあわとしながら……。


「な、何でもないの……大丈夫、喧嘩してないから……」


 そう答えると母は怪訝な顔をして「そう?」と残し部屋を去って行きます。

 美月は母が去ったことにほっとしつつも再び枕に顔をうずめるのでした。

 そして、いつの間に彼女は眠ってしまうのでした。


 翌日も彼女は迷います。

 それは恋愛感情なのでしょうか?

 これは恋なのでしょうか?

 何度、何度と自身に聞いても答えは出ません。

 ただ分かるのは新谷の顔を思い浮かべた時と同じ気持ちが綾乃の顔を思い浮かべた時にも湧いてきます。


「…………」


 気を抜けばその場で悶えてしまいそうな美月でしたが、何とか耐えていました。

 そんな彼女が廊下を歩いている時……前から声が聞こえてきます。

 その声には聞き覚えがあり、美月は途端に気持ちが覚めていくのを感じました。

 それどころか恐怖が沸き上がり、どこか隠れる場所はないか? と辺りを探すのですが、何処にもそんな所はありません。

 なら、戻って行こうか? そう思いましたが、迷っている間にその声は近づいて来てしまいました。

 今、後ろを向いて歩いて行っても不自然でしょう。

 諦めてまっすぐ進む事にした美月でしたが……彼女達は美月を見つけるとそれまで楽しそうに話していたのに表情を変えました。


 そして――。


「げほっ!?」


 すれ違いざまにわざと美月のお腹へと拳を当て……。

 突然の事に対処できなかった美月はお腹を押さえその場に座り込んでしまいました。


「あ、ごめんね?」


 やはりわざとらしい謝罪を口にします。

 彼女達の目や口元は嫌らしく歪んでおり、美月は突然の事で呼吸がまともに出来ず。

 怯えながら彼女達を見上げます。


「それにしても『げほっ!?』なんて女の子があげる声じゃないよ」

「あははは! 確かに……凄い声だったねー」


 愉快そうに笑う、二人の女性。

 美月は今まで直接的ないじめには遭った事はありませんでした。

 だからこそ、恐ろしく得体のしれない人達だと彼女達に畏怖を感じていました。


「おい、なんだよその目」

「人間のように振る舞うのは辞めたら? 化け物なんだし」


 美月の目を見て不機嫌そうになった二人。

 彼女達は美月へと手を伸ばしました。


「あ!? い……」


 怖い、嫌だ……そんな感情が美月の中にあふれ。


「テメェの所為でこっちは給料減ったんだよ!!」

「何も護れない癖に偉そうに歩いてるなよ化け物!!」


 そう言って彼女を乱暴につかもうとしたのが……二人の運の尽きだったのかもしれません。


「ひっ!? 嫌あああああああああ!?」


 化け物とはっきりと呼ばれ、また何かされることを察した美月は悲鳴をあげます。

 すると廊下に突風が吹き荒れ――。


「――え?」

「嘘――!?」


 まさか魔法を使うとは思わなかったのでしょう。

 対処できるはずもなく二人は壁へと叩きつけられました。


「…………ぁ?」


 美月は2人の悲鳴を聞き、ゆっくりと顔をあげます。

 そこには壁にたたきつけられ苦しそうに悶える二人の姿が見えました。


「…………ち、違……違う」


 こんな事をしたかったわけじゃない!

 そう叫びたかった美月ですが、すぐにそれどころでは無いと気が付きます。

 人よりも弱く、脆い身体を持つミュータントを寄生させた人々。

 ですが、そんな彼女達には人にはない力があります。

 それが魔法、身体が弱い事を覆すほどの強力な力です。

 その力で吹き飛ばされた二人が無事だという保証はありません。


「――っ!!」


 逃げたい、今すぐにこの場から逃げ出したい。

 そんな事が彼女の中に生まれました。

 ですが、美月は――。


「治さなきゃ……助けなきゃ……」


 そう呟く事で逃げそうになった身体と意思を止め、二人の元へと急ぎ治療の魔法を使います。

 すぐに対応したのが良かったのでしょう、二人は苦しそうではありますが、怪我などは治ったようです。

 ですが……。


「何してくれてんのよ!! 化け物」

「そうだ……この!! 化け物!!」


 治したのは確かに美月です。

 ですが、傷つけたのもまた美月。

 美月を刺激し、恐怖に落としたという理由があったとしても彼女達が自分も悪いなんて事を考える事はありませんでした。

 彼女達に命の別状がなさそうだとほっとする美月は――迫る拳に対応する事は出来ず。

 そのまま殴られてしまいます。


「――っ!?」


 余りの痛さ、そして突然の事に美月は声を上げる事は出来ませんでした。


「こんな化け物が! この中に居るなんて……殺さなきゃ殺される!! 天使(アンゼル)同じだ!!」

「――え?」


 叫ぶ声と惚けた声。

 美月の物ではありません……。


「ちょ、それはまずいって……何持ち出してんの!?」

「殺されかけたんだよ! 殺して当然だろ!!」


 美月が恐る恐るそちらの方へと向くと信じられないものが見えました。

 激昂し、目を血走らせた女性はその手に消火器を持っていました……そして美月を睨むのです。

 その瞳は人を見る目ではありませんでした。

 対し、怒ってはいたものの、もう一人の行動に冷静さを取り戻したらしい女性は慌てて彼女を止めようとしています。


「まずいって! そいつ死んだら給料下がるどころじゃないって! 殺人だよ!?」

「殺人? アンタだってこいつは人じゃないって言ってんじゃん、それにこの化け物が先にやったんだよ!!」


 焦る声で必死に止めようとしますがもう一人は止まりません。

 美月は怯えそこから動けませんでした。

 そして、消火器は振り上げられ……。


「くたばれ!! この――――化け物が!!」


 叫び声が聞こえ美月は――。


「ひっ!?」


 小さな悲鳴を上げ、身を守ろうとします。

 すると――。


「何やってるんだ?」

「――っ!?」


 男性の声が聞こえ、息をのむ音が聞こえました。

 美月は聞き覚えのある声を聞き顔をそちらへと向けます。


「新……谷さん?」

「これなに? 凄い音がしたから来たんだけどね、何が起きたの? 説明してくれるかな? 勿論この場に居る全員でね」


 彼はいつもの優しい顔とは違う、真面目ではありましたが、怒っているのを隠すことなく表情に表して言いました。

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