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54話 暗い少女

 綾乃と口論した日の夜。

 彼女が泣いているのを聞いてしまった美月。

 美月は彼女が寝入るまで待ち、そっと部屋を抜け出すと……自身の機体ジャンヌダルクのコクピットへと向かう。

 何故か暖かく感じる機体の中で彼女は眠ってしまったのだった。

 次の日の朝、美月が食堂で食事を取っていると、いつも通りの内緒話が聞こえてきました。

 それは美月の事を咎めるものだったり、褒めたたえるものだったりと多様です。


「…………」


 咎める言葉の中にはナイフのように美月の心に刺さる心無い言葉もありました。

 それでも美月は食事を取り続けます。

 味は分かりますが、それが美味しいかどうか何て判断する余裕はありませんでした。


「…………」


 ただ黙々と口へと運び咀嚼し飲み込む。

 それを繰り返すだけの作業。

 傍から見ればその表情は固まっており、何処か不気味にも感じられました。


「ね、見た? あの子……ますます暗くなってる」

「怖い……きっと天使(アンゼル)との戦いの時には笑ってるんじゃない?」


 そんな会話も聞こえました。

 ですが美月は聞こえないふりを続けます。

 すると――。


「え? あ……」

「あの……あ、ああ……ニュース、ニュースの話で」


 美月を怖いといった声の主が焦ったかのような声になり、美月は初めて興味を持ちそちらへと目を向けます。

 そこには綾乃が居り、彼女達を睨んで居ました。

 何も言わずただ睨んで居るだけ、そして美月の方へと目を向けると居心地が悪そうに目を逸らします。


「……あ」


 その態度に美月の心はずきんと痛みました。

 昨日の事があったからだと理解はしています。

 それでも綾乃にそう言った態度を取られるのは嫌なのです。

 無表情から悲しみへと変わった表情。

 それに気が付いた綾乃は申し訳なさそうな表情を浮かべるとふさぎ込んでしまったのです。

 彼女もまた迷っているのでしょう。


 彼女が昨日の事を覚えていないなんてことはありません。

 美月に対し、感情を爆発させた。

 その事が後ろめたく、また今日も彼女を傷つけてしまった事に罪悪感を感じているのです。

 だからこそ、二人の間には微妙な距離がありました。


「あ、あや――」


 美月はそれでも綾乃の名前を呼ぼうとしました。

 ですが――。


「夜空! 飯が終わったら訓練だ」

「あ――」


 伊逹にそう言われてしまい、美月は思わず振り向きました。


「聞いてんのか?」

「わ、分かりました」


 そう答えた後、すぐに綾乃の方へと目を向けたのですが……。


「…………」


 美月はがっくりと項垂れます。

 そこに居たはずの少女の姿はなく……美月は避けられて当然だと思いつつ残りの食事を口へと運ぶのでした。



 食事が終わったら伊逹の言う通り、訓練へと向かう美月。

 やることは決まっています。

 シミュレーターです、とは言ってももう美月は何度もこなしている事で慣れたものでした。

 かといって、他にする事も無いのも事実です。

 悪魔乗りだから天使(アンゼル)が攻めて来るまで待機なんて事は無いのです。


「ふぅ……」


 美月はシミュレーターから降りると一つ深呼吸をしました。

 イービルのコクピットを模したその中では以前ゲームに使おうとしていた技術が活用されているそうです。

 ですが、美月はゲームなどしたことがありませんし、興味もありませんでした。

 唯一思う事は……。


「これだけ、現実に近いゲームだと怖いかも」


 という事でした。

 一時期アニメなどでVRと言うものが流行ったそうで、それを実現しようとした結果らしいです。

 そのお陰で美月達が訓練できるというのだから不思議な物で……また、恐ろしい物でもありました。

 本当に戦いを再現しているのですから当然です。

 そう、この機械に組み込まれている地形、敵の配置などは元々本当にあった戦闘の記録です。

 このシミュレーターでの再現戦闘を美月達は訓練と言うのです。

 当然、美月が初めて戦った時の物もありました。

 そして、前回も、前々回の戦闘の事も……。

 流石に堕ちた機体までは再現はされてはいませんが、今まで何人犠牲になったのかは知りたくもありませんでした。


「……よし、上手い事言ったな、この頃調子がいいじゃないか、焦らない様だしな」

「……はい」


 美月はそう答えますが、所詮シミュレーターはシミュレーター。

 実際の戦いと違うという事は彼女自身が身に染みて分かっている事です。

 ただ、こういう時にはこういう手が有効だ! と身体に覚えさせるのが目的です。


「あの……綾乃ちゃんは?」


 美月は自分を称賛する伊逹に尋ねてみます。

 すると彼は……。


「まだイービルには乗せれないな、何があるか分からない。後二、三日様子を見てからだな」

「そう、ですか……」


 結局彼女は戦う事から逃せないんだ、と美月はがっくりと項垂れるのでした。

 出来れば戦ってほしくない。

 そう思った所で綾乃は納得しないでしょう、ですが上から言われればきっと……。

 そう思っていた自分がいかに甘いかを思い知らされたのです。

 当然です……悪魔乗りは貴重な存在。

 そう簡単に戦いから逃げられるわけがないのです。

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