52話 友を怒る少女
心無い言葉を受けても訓練を続ける美月。
そんな彼女の元に綾乃が目覚めたとい知らせがきた。
美月は注意されつつも走り、彼女の元へと急ぐ……。
再会を果たした彼女と話している最中……彼女の言葉に美月は今まで感じたことの無い感情を抱え、つい、はたいてしまうのだった。
「…………」
美月にはたかれた綾乃はその表情を優しい物から険しい物へと変えます。
「美月には分からないよ」
そう言って、彼女は不貞腐れてしまいそっぽを向いてしまいました。
「あ、綾乃ちゃん?」
思わず手を出してしまったとは言え、いつもと違う態度の彼女に対し美月はそっと手を伸ばします。
叩いてしまった事を反省しながら……彼女に謝ろうとしたのです。
すると、その伸ばした手を綾乃ははたき落としました。
「っ!?」
大した力ではなかったはずです。
ですが、美月にとっては痛い物で……心が悲鳴をあげました。
「美月に何が分かるの? お兄ちゃんが死んだのはあいつらの所為だ!! あいつらさえいなければお兄ちゃんは居たんだ!!」
そう叫ぶ綾乃の瞳には黒い物が灯っているようにも見えました。
「アンゼル……ううん、天使なんて所詮は神の言いなり人形! 殺せと言われれば殺して、邪魔をしろと言えば邪魔をする!! アタシはあいつらを道連れにしてでも殺したい!!」
それは彼女の本音なのでしょう。
笑みを絶やさなかった彼女はその表情を変えており、瞳からは涙が流れています。
大切な誰かを失ったという事実が彼女を動かしていたのです。
美月は彼女の兄が死んだ理由は犯罪者によるものだとは知っていました。
ですが、間接的に言えば確かに天使の所為でもあります。
「…………」
「それが分かる!?」
美月には父親はいませんでした。
今、生きているかどうかも分かりません。
だから、今の綾乃の気持ちは分かりませんでした。
それでも彼女は――。
「分からない、でも、でも……!!」
「でもなに!?」
感情のまま叫ぶ綾乃に対し、美月もまた大粒の涙を流し……。
「それでも、私だって嫌だよ! 綾乃ちゃんは、私に初めてできた友達なの! だから……だから……死んでほしくなんかない……」
彼女の言葉もまた本音でした。
「怖かったんだよ、居なくなっちゃうって思ったら怖くて、怖くて……私……綾乃ちゃんが居ないなら、もう、本当に戦えないよ……」
美月は泣きながら自分の想いを伝えます。
すると綾乃は……。
「分からないの? アタシは……美月を利用してただけなんだけど?」
と口にします。
その言葉を聞いたのがもっと前であれば美月はショックを受けていたでしょう。
ですが、彼女は髪を乱しながら首を横に振ります。
「嘘!」
「嘘じゃない!!」
違うと口にするとすぐに反論をされてしまいました。
それでも美月は首を振ります。
何故なら彼女は綾乃の言葉が嘘であると信じ切っていたからでした。
確信があったのです。
「なら、何で戦わなくていいって……私を守ってくれたの!? もう戦いたくないって言っても機体だって無理やり乗せる事は出来たはずなのに!!」
「そ、それは――」
もう戦えそうにないから、そう言われても美月には返す言葉があります。
自分にしか動かせない機体、それを腐らせる理由が日本、そして彼女達にはないのです。
また美月の様に高い魔力を持ち、ジャンヌを動かせる人を探さなければならない。
それだけではありません。
通常のイービルよりずっと安全とは言え、その衝撃に耐えれなければ魔力を持っていても無意味です。
だからこそ、美月は彼女の言葉が嘘であると分かるのです。
利用するだけならとことんそうしているはずだと……。
「それは……」
綾乃もそれを分かっているのでしょう、急に勢いを無くし視線を逸らせます。
「お願いだから、もう……危ない事をしないで……」
イービルから降りて! そう口にしたかった美月ですが、それは言えませんでした。
彼女には彼女の想いがあり悪魔乗りへとなったのです。
それを無下にする言葉はどうしても使えませんでした。
「私だって嫌だよ……家族じゃなくても兄妹じゃなくても、綾乃ちゃんに死なれたくないよ」
「……………………」
綾乃は黙り込み、美月はすがるように彼女に抱きつきます。
友達なんていなかった……自分をどこかで化け物と思っているだろう。
そう考えた事もありました。
ですが、彼女だけは違った。
それが例えジャンヌダルクへと乗せるために近づいてきたのが理由だったとしても今は違うのです。
美月にとっては大事な大事な友人。
だからこそ、失いたくない……そう、心が叫んでいたのでした。
そんな彼女の想いは綾乃に通じたのでしょうか?
それは分かりませんでした。
ですが……。
「美月……」
何かを言おうとして口を開け、すぐに閉ざした彼女は先程よりも優しく美月を離すと……。
「ごめん、疲れた」
そう言ってベッドへと横になります。
「……うん」
美月は彼女の言葉に頷くと毛布をかけ……その場にあった椅子へと腰を掛けます。
食事までは自由時間、もう少しだけここに残ろうと考えたのでした。




