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5話 代償を知る少女

 寄生虫ミュータント。

 それは魔法の力を与えてくれる生物だ。

 しかし、その影響でなのかは分からないが宿主は著しく体力が落ちる。

 だが、これは摘出手術も可能なのだ。

 だというのに看護師は手術をすれば死ぬ、そう口にするのだった。

 寄生虫ミュータント。

 それは宇宙からもたらされた地球外の寄生虫。

 その力は寄生した相手に魔法と言う力を授けてもらえるのです。

 しかし、全員が全員魔法を授かるという訳ではないのです。

 それは美月も知っている事でした。

 寄生虫を宿し、その命を失ったものは少なくはなく……しかし、この寄生虫は取り出すことはできるのだという事は最初の説明で聞いていました。

 勿論手術をする訳なので、危険が無いかと言うと嘘になります。

 ですがその手術が成功すれば魔法は使えなくなりますが、看護師の言っている死ぬという事は聞いていません。

 確かに失敗すればそうでしょう。

 ですが、明らかに彼女の言い方は……。


「ちょっと待ってよ、その言い方って……だって……おかしいよ……そんな、そんな事って……!」


 それは美月だけではない姫川綾乃、彼女も知っている事だったらしく看護師の言葉に信じられないと驚いたのです。


「成功すれば寿命や体力にはよりますががすぐに死ぬという事は無いでしょう、ですが彼女の場合違うのです……寄生虫との適合率が高すぎ、摘出すれば脳に取り返しのつかないダメージを負うのは医師ではない私にもわかります」

「そんな……そんな……じゃぁ、夜空はずっと苦しむの!?」


 姫川綾乃は叫びました。

 ですが、看護師は淡々と言葉を続けます。


「ですから、彼女は貴方達を守ることが出来たのです。恐らくあの力はきっと寄生虫との適合率が高かったから出来た事なのでしょう」


 …………え?


 頭痛に襲われながらも美月は彼女の言葉を聞き逃しませんでした。

 守ることが出来た、それがどういう意味だったのかは分かりません。

 ですが……。


「では、先生を呼んできましょう……ほら、此処にいたら迷惑です」


 看護師はそれで話は終わりと言う事でしょう、姫川の腕を掴むと引っ張っていきます。


「ちょ!? アタシは――!!」

「いくら貴方でも許される限度を超えますよ?」


 その言葉はやけに冷たく、姫川綾乃は「うぐぅ」と唸り声をあげると黙り込み、大人しく歩き始めるのでした。

 部屋の外へと出た姫川は看護師を睨みます。


「アタシ達を助けたのは夜空って決まった訳じゃないっしょ?」

「あの状況では他にそれが出来る人は居ません」


 姫川の言葉に淡々と返す看護師は彼女の方へと向き直ると――。


「余程嫌みたいですね」

「あたりまえっしょ!? ってゆーか! 何考えてるの!? 何かしたら許さないからね! 夜空は気が弱いし、強くはないし! 誰かが守ってあげなきゃ!!」


 歩きながら必死に訴える姫川はどうやら看護師の事を信用していないようです。。

 そんな彼女の言葉に看護師は「ふぅ」と溜息をつきました。


「分りました、分かっています……だから貴方が守っていたって言いたいんでしょう?」

「そうだよ! アタシはずっと――ずっと……父さんを助けてくれた夜空を――」


 まるで食らいつくかのような顔で看護師に告げる姫川に対し、看護師は更に「はぁ」と溜息をつきました。


「まぁ、貴方がなんと言おうと勝手ですし、それは私にも言えた事です。それとその気持ち悪い恰好はどうにかした方が良いんじゃないでしょうか?」

「――な!? ちょっとそれどーいう事!? アタシのどこが気持ち悪いの!?」


 三度溜息をついた看護師はまるで汚物を見るような目で姫川綾乃を睨みます。


「いえ、その格好で暴れられますと気分を害する物が見えそうで……ああ、昔の貴方とは違って今の貴方は本当に気持ち悪いです。出来れば私はあの夜空美月と言う女の子と一緒に居たいのですが本当に面倒ですね。仕事と言うのは……」

「……はぁ!? 夜空に変な事したら怒るからね!!」


 変な事をしたらと言いつつ看護師の言葉にすでに怒っている姫川という少女。

 しかし、看護師は態度を改める様子も無いようです。


「……本当に面倒ですね」


 そして、しみじみとその言葉を繰り返すのでした。


「ですが、どうするのですか? 綾乃さん……恐らくこれからあの子に起きる事は避けられません」

「…………分かってるよ! でも、そんな事言ったってしゃーないって……夜空はきっと……自分の意志で選ぶと思うし」


 姫川はそう口にしながら困ったように笑います。

 それに対し看護師は首を傾げ……。


「そう言えるのはさ、聞いちゃったんだよね……」

「聞いた? ですか本人に?」


 看護師は名を呼び、綾乃は首を横に振ります。

 そして、何度か口をパクパクと動かしました。

 言って良いものか、どうなのか迷っているのでしょう……。

 ですが、意を決したように彼女は話し始めます。


「違う、夜空が魔法使いになる前の話で……その人はその場に偶々いたらしいんだけどー……まぁ、どうせ仕事かなにかの最中に耳に入ったんでしょ?」


 彼女の言葉に看護師の表情は硬くなります。

 ですが、その事を口にする医師は固まったのか綾乃は会話を続けました。


「夜空さ、危ないって知ってて受け入れたみたい……お母さん助けるためだって……それが今ではいろんな人を助けるでしょ? 病院でもさ……一人だけ逃げる事は出来たはずなのに夜空は逃げなかったんだよ? 怖いーって思ってもきっと選ぶと思うんだ」

「…………」


 言葉遣いはふざけた様でも、確信を得ているものでした。

 だからこそでしょう看護師にそれは伝わったようで……。


「だから、貴方も……?」


 その言葉には彼女は首を横に振ります。


「……アタシはそんな立派じゃないよ、まっ! これはアタシのけじめってやつだし……それに……」


 綾乃はそこまで言うと立ち止まり、窓の方へと目を向けます。

 そこには青空が広がっていて……。

 嘗て空を舞っていた飛行機などはもう飛んでいません。

 何時、アンゼル達に襲われるか分からないからです。


「アタシは絶対に許さない……あいつらを……絶対に!!」


 それまでのふざけた口調は何処に行ったのか、少女は空を憎んでいるかのような表情で睨み、拳を握りました。


「…………本当に、面倒ですね」


 看護師はそんな彼女を眺めながら何度目かになる溜息をつきました。


「まっ! アタシにはアタシの理由もあるってこと」


 そんな彼女の言葉に気が付いたのか、それとも気分を切り替えたのかは分かりません。

 綾乃はいつも通りの笑顔へと戻し……口調も元に戻りました。

 再び溜息をついた看護師は先を歩き、綾乃はその背中を眺めた後再び空へと目を向けます。


「何が天使よ……物語と全然違うくせに」


 その呟きは誰にも聞こえない小ささで……再び前へと目を向けた彼女は看護師を追いかけるのでした。

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