31話 絶望を感じる少女
再び天使と戦う美月。
ですが、まともに武器は使えず新谷の指示に従いながらの戦闘になりました。
接近戦へと持ち込んだ彼女は剣を抜き戦おうとするのですが衝撃を受け――何が起きたのかと確認をすると……。
新谷を乗せた戦闘機は黒煙を上げているのでした。
新谷は死に……天使は二体。
その二体に囲まれた美月は呆然とするしか出来ませんでした。
どうにかして動かなければならない。
そうは思っても恐怖で動けないのです。
「あ……ああ?」
呆けた声を出す少女の視線の先には黒煙。
人の死とはあっけない物です……あれでは死体すら確認できないでしょう。
『夜空美月! 後退してください!!』
そして、今の美月では何も出来ない。
そう判断したのでしょうか? オペレーターからの声が聞こえましたが、美月は何も答えませんでした。
いや、答えられなかったのです。
そうしている間にも天使は距離を詰めてきます。
戦わなければ……そうは思っても自分では何も出来ないのです。
それだけ、美月は混乱していました。
戦場で迷ったら死ぬ。
それは誰もが始めに聞く言葉のはずでした……ですが、迷う暇すらなかったのです。
頼りにしていた新谷はもう、何処にもいません。
「新谷……さん?」
ようやく、言葉らしきものを発した美月。
ですが……その声に答える者はもう居ません。
「ああ!? や、いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
そして、ようやく何が起きたのかを理解した少女は喉が張り裂けるような悲鳴をあげます。
死ぬのが怖い、というのもあるでしょう。
ですが、彼女にまず浮かんだのは「助けられなかった」でした。
誰かの為にイービルに乗る。
そう決意した彼女にとっては一番辛い事です。
そして、普段は無意識に制限をかけていたそれはあっけなく外れてしまうのです。
「ああああああああああああああああ!!!」
咆哮の様な悲鳴は続き、同時に彼女の声にかき消されながらもそれは――。
『魔力増幅確認、テンペスト展開……完了』
魔法となって形に現れる事をシステムに知らせます。
すると、まるで彼女の心情を現すかのような荒れ狂う風は天使を襲いました。
彼女へと近づこうとする天使達でしたが、その暴風に翻弄され動けないのです。
ならばと銃を構え撃ちますが風によって狙いが定まらず、彼女の近くの地面へと当たります。
美月と言えば大粒の涙を流しつつ、咆哮を上げ続けます。
透明な画面はREDっという文字が刻まれていましたが、美月は気が付けませんでした。
それほど彼女は今、余裕が無かったのです。
何も考えずに魔法を使ってしまっているのです……そうなれば当然、彼女自身の限界が来てしまいます……。
「ああああ!! っ!? ――――!!」
突然彼女を襲ったのは頭痛。
すると……。
『魔力減少を確認……テンペスト展開終了まで後10秒』
というアナウンスが流れます。
ですが、美月はそれどころでは無く、頭を押さえるだけ……。
『夜空さん! 早く帰還を――!!』
オペレーターも焦った声を出しましたが、美月は届きませんでした。
すっかり光を失った瞳は何を捉えているのか?
魔法を使いすぎ頭痛に襲われた美月はその場で動けなくなってしまったのです……。
もう駄目だ……誰もがそう思った瞬間。
『メイユエ!!』
誰かの声が聞こえました。
すると真っ赤な何かが迫ってきます。
新手の天使でしょうか? いいえ、違います。
それは――。
『――破ッ!!』
リンチュンが乗る悪魔……斉天大聖の姿でした。
天使へと鋭い蹴りを繰り出した赤い悪魔は続けざまに拳を振りかぶります。
あっという間に一体の天使を鉄くずへと変えた赤い悪魔はまるで守る様に美月のイービルの前へと立ちます。
すると――。
『新谷は生きてるよ! 左側に居る! だからメイユエ早く立って!』
その言葉は美月には信じられない物でした。
痛む頭を抱えながら美月は辺りを見回します。
すると、確かに新谷が居ました。
彼は遠くで手を振っています。
一体どうやって助かったのでしょうか? 美月は不思議に思いましたが――。
「つぅ!?」
すぐに頭痛に苦しみ始めました。
『メイユエ! 早く!!』
新たなイービルが来た事を警戒しているのでしょう残る天使は微妙な距離を保ちます。
それは隙があるとはいえません。
ですが、リンチュンは焦る事無く、美月に指示を出していました。
美月は頭痛に顔を歪めながらもオーブへと手を乗せます。
ここから逃げなければ、新谷を連れて逃げなければ……そう思った矢先でした。
「――!! リンちゃん避けてぇぇぇえええ!!!」
顔をあげた矢先見えたのは天使が襲い掛かってくる姿。
そして、それにリンチュンが気が付いていないという事。
銃声が鳴り響き、剣を構えた天使は赤いイービルへと切りかかります。
やけに遅く感じたそれを見た美月は……。
「たす…………けな、きゃ」
そう呟き、オーブを握る手に力を入れます。
同時に頭痛が襲い顔を歪めた彼女でしたが、それでも目的をしっかりと意識した彼女は――。
「助けなきゃ!!」
強く思い、魔法を使いました。
最早、身体は疲れ切っています……魔法なんて使えないでしょう。
誰もがそう思って当然だったはずです。
ですが――。
『魔力増幅確認、プロテクションフィールド……展開完了」
美月のイービルがリンチュンの前へと躍り出た瞬間、透明な膜は銃弾を弾き、剣を防ぎました。
そのお陰もあり、隙が出来た天使へと華麗な足技を繰り出したリンチュン。
彼女の強さは折り紙付きでした……連撃という言葉がふさわしい功夫で天使を撃退するリンチュン。
まるで生身の様にしなやかに動く機体は圧巻です。
ですが――美月にはそんな事を感じる暇はなく……。
「……っ、ぅ…………」
美月は頭の痛みに耐えきれず、その場で意識を暗闇に落とすのでした。
「メイユエ!!」
リンチュンは彼女の名を叫びます。
ですが、反応が無く――彼女は焦りました。
すると――。
「っ!? きゃぁぁああ!?」
衝撃を受けた斉天大聖が大きく揺れました。
どうやら銃を受けてしまったみたいです。
ですが、リンチュンの機体にはプロテクションヴェールと言う魔法が使われています。
軽傷で済んだ彼女は残る一体の天使へと向かいました……。
ですが、天使は彼女に攻撃が効かなかった事に気が付くとその場から離れていくのです。
「待て!!」
制止の言葉など利くはずもない天使はその場から去り、リンチュンは美月達を放って置く事は出来ずその場に留まるのでした。




