16話 絆を育む二人の戦乙女
「アタシはもう、誰かを失いたくない……」
その場に泣き崩れるかのように言う綾乃。
イービルは彼女の気持ちを表したのでしょうか? 動きを止めてしまいました。
ですが、美月は……。
「なら、守ってほしいの」
「……え?」
美月だって勿論、死にたくありません。
ですが、同時に死なせたくもないのです。
なら、解決方法は単純でした。
だからこそ、綾乃へと告げるのです。
「私はもう、戦いから降りたくない……だから、綾乃ちゃんが守ってくれれば安心だよ?」
そう言うと綾乃は迷っているのでしょうか?
返事は帰ってきません。
ですが、美月はそんなことはどうでもいいとでもいうようにジャンヌの手を差し出します。
「ほら、ね?」
機械仕掛けの悪魔は世界を守る象徴です。
ですが、同時にそれに乗っている人間にとっては棺と言ってもいいでしょう。
事実、先日も仲間の一人を失ったばかりです。
足を止めてしまうのには十分な理由でしょう。
それでも少女は立ち止まりたくはありませんでした。
この世界には母もいます。
新たにできた友人もいます。
自分を助けてくれた恩人もいます。
助けた人もいます。
何より……まだ、美月にとっての大事な人は……。
「私は綾乃ちゃんを守るから!」
そこに居るのです……。
だからこそ、彼女はもう逃げるという選択肢は取る必要がありませんでした。
いえ、考える理由すらなかったのです。
怖いから、辛いから……。
そんなのはもうどうでもいいのです。
ただただ、大事な人を守るための力が欲しい。
そして、その力は自分に答えてくれる。
そんな自信があったのです。
だからこそ、彼女は強くなりました……。
守られる側から守る側へ……もう、彼女の中に自分を化け物と呼ぶ自分はいませんでした。
「私は、この魔法で皆を綾乃ちゃんを守るから」
力を恐れ、自ら偽善に走っていた少女はかつて母を助けた時のような気持ちで綾乃へと語りかけました。
助けたい……死んでほしくない。
一緒に居てほしい……ただ、それだけの願いを込めて……。
そんな思いは――。
「…………美月」
「うん?」
「…………そう、だね……美月は無茶するから、ちゃんと見ておかないと」
綾乃に伝わったのでしょう。
イービルを通して繋いだ手は確かな絆となってそこにありました。
二人は頷きあうとクラリッサへと向け動き始めます。
武器を構え――彼女の機体を堕とすために……。
「さぁ、来い!」
クラリッサは獰猛な笑みをイービルの中で浮かべているかのような声でそう言いました。
「「|やぁぁぁぁぁぁ!!《こんのぉぉぉぉぉぉ!!!》」」
二人の叫びが重なり……そしてついに……。
「むり、しんどい」
「つかれた、もう……つかれたぁ……」
訓練開始から3時間後、二人の少女はシミュレーターの機会に背中を預けるようにし喘ぐように息をします。
「情けない」
そんな二人を見てため息をつくのはクラリッサでした。
ですが、その表情は決して険しいものではなく、どこか優し気です。
「情けないって! あの後ぶっ続けで訓練する馬鹿がどこにいるの!?」
「ちゃんと休憩もしたろう」
「シミュレータの中でですよね? しかも5分ぐらいの」
訴える二人に対し何がおかしい? とでもいうかのようなクラリッサは……。
「日本人は連続して24時間働けると聞いたが……今は3時間も無理なのか?」
「いや、普通に無理でしょ!? 一日ぶっ通しで働いてたら死ぬよ!?」
「わ、私もそう思います! すごい偏見ですよ! それ!!」
いったいどこでそんな変な情報を手に入れたのかは分からない。
ですが、クラリッサが嘘を言っているわけではなく……。
事実彼女はそれを信じていた。
「まぁともかく、そうだとしたら師が私になったことに感謝すべきだな。
「「ひっ!?」」
二人は彼女の笑みを見ると互いに身を寄せ合うように抱き合います。
これからまた訓練だ。
そう言われるに違いないと感じたからです。
ですが……。
「今日の訓練は終わりだ。18時になってしまった。少し予定よりオーバーしてしまったが、ほんの誤差だ」
「……へ?」
「終わり……?」
予想外の言葉に二人は目を合わせます。
すると――。
「やはり訓練が――」
「「もう終わりでいいです! お疲れさまでした」」
再び訓練が始まる気配がし、二人は慌てたようにそう言うと部屋から慌てて逃げていくのでした。
一人取り残されたクラリッサはその背中を見送り……ふっと笑います。
そして……。
ロケットの中の写真を見つめ、何かを思い出したかのように表情を固めました。
「美月、美月!? いや、まさかな……」
初めて名を呼んだ少女の名を繰り返し……。
彼女は何か引っかかったのでしょう……。
「…………いや、よそう、彼女は関係ない」
やがてそう口にすると自身も部屋から出て行くのでした。




