58話 体調が変化する悪魔乗り
昼間の一件は美月にとって本当に不思議でした。
立ち上がろうとした時、ふらっとではなくふわっとしたのです。
だからふらついてしまった。
今回もそうなると思っていました。
ですが、美月は何ともないのです。
ふらつく事も無く、ベッドへと腰を掛け、もう一度立ちあがります。
「ちょ!?」
突然の行動に綾乃は慌てて美月を支えようとしますが……。
「あれ? 美月?」
美月は普通に立ち上がり、歩き始めます。
ふらついている様子もありません。
「やっぱり変だよね?」
美月はそう尋ねました。
綾乃は呆然としつつも首を縦に振ります。
そして、彼女は部屋に着いていたボタンを押し、吉沢を呼び出しました。
モニタリングしている吉沢ですが、常にと言う訳にはいきません。
だからもしもの時に備えボタンがあったのです。
「どうしました?」
一応カメラを見てきたのでしょう。
落ち着いた様子の彼女が入ってくると綾乃は美月へと指を向け……。
「何か調子良さそうだけど……」
「何を言ってるんです? 昼間に倒れかけていたじゃないですか」
吉沢は焦るほどではないとは判断してはいても昼間の一件を忘れた訳じゃありません。
「とにかく安静に――」
「ねぇ、逆に調子よすぎて身体が慣れてなかったとかないの?」
休ませてと吉沢が言いかけた時、綾乃がそう口にしました。
すると吉沢はピタリと言葉を止め……。
「そんなはずは……いえ、まさか?」
ありえない! そう口にしたいのでしょうが彼女は一旦部屋の外へと向かいました。
恐らくバイタルを測る為の機器を持ってくるつもりなのでしょう。
何故この部屋に無いのか? そう疑問に思ったのですが、ふと部屋を見回してみると……。
何処か生活感があります。
「ここってもしかして……」
「多分信乃お姉ちゃんの休憩スペースだね」
綾乃がそう答え美月は慌ててベッドから降ります。
まさか自分が吉沢のベッドを占領しているとは思わなかったのです。
「駄目だよ、今からバイタル測るんだし安静にしておかなきゃ」
「そ、そうだけど……流石に悪いよ」
いくら自分に対して優しく接してくれる人であろうとも礼儀と言うものは必要だ。
美月はそう考えたのですが手を腰に当てた綾乃は美月に迫り。
「良いからおとなしくする!!」
と一括してきました。
それに対し美月は……。
「は、はい……」
観念してベッドに腰かけると……。
「お待たせしましたって……どうしたんですか?」
首を傾げた吉沢信乃がバイタル計測器を持ってきたのだった。
「血圧も安定、脈拍も良いですね……酸素濃度も低いとはいえ問題はない程度……」
彼女は次々と美月のバイタルを計測していき……。
「軽くで構いません足踏みなどしてもらえますか? そうですね腕も降ってなるべく身体をこう、捻る様に」
彼女の言う通りに身体を動かすと思いのほか軽くはない運動でした。
それが終わった後再び酸素濃度を測るのですが……。
「変化は無しですね」
「今ぐらいだったらそう変わらないんじゃない?」
綾乃の言葉に吉沢は首を振ります。
確かに綾乃が同じ事をすればあまり変わらないでしょうですが……。
「魔法使いにこの運動は肺を切除している人と同じぐらいの負荷がかかるはずですよ」
「つ、つまり?」
「呼吸が荒くなります……呼吸困難になる場合もありますね……つまり血中酸素濃度が低下してもおかしくありません」
彼女はそう言うと美月へと目を向けます。
そして、再びバイタルへと目を落とし……。
「どうやら、彼女が言っている通り身体に不調は無いみたいです」
「じゃぁ、アタシが行った通り?」
綾乃が訪ねると吉沢は首を傾げつつ、やがて頷きます。
「そうですね、目立った副作用はみられませんが体調が回復する事で身体が追い付かずふらつく、と考えた方が良いかもしれません」
「……つまり、薬は?」
気になる点を今度は美月が訪ねます。
「おおむね完成かと、後は飲み続けて他に副作用が出ないかを確認した方が良さそうです」
「本当ですかっ!!」
思わず美月は立ち上がり吉沢の手を握る。
すると吉沢は驚き今まで見せたことのない程に顔を真っ赤に染め。
「ほ、ほほほ本当です!!」
と何度も言葉を詰まらせます。
美月はそんな事には気が付かず今度は綾乃へと抱きつき……。
「これでリンちゃんも助けられるね!!」
と喜びを表すのですが……。
「ちょ!? ぁああ、あ、ちょ!? その当たって!?」
彼女も慌てふためく結果になってしまい、ようやく現状に気が付いた美月は離れ首を傾げます。
「どうしたの? 二人ともおかしいよ?」
「おかしいって!? と、とにかく、抱きつくのは駄目! その、良い匂いとか、やわらかいとか……」
ごにょごにょと言いよどむ綾乃に対し美月は怪訝な表情を浮かべました。
一体どうしたのだろう? 首を傾げつつ今度は吉沢へと目を向けます。
「美月さんが笑顔で手を、手を? この手は洗いません」
「お医者さんなんだから手は洗ってください……」
もっともな事を言われると彼女はぴしりと音を立てるかのように固まってしまい。
「これから毎日手を握ってください、感触を思い出して夜のおかずに致します」
「……おかずが何だか分からないけど、なんかすごく嫌な予感がするのでお断りします」
それは美月にとってもドン引きと言うものだったのでしょう、彼女は冷静に言い返すのでした。




