⑪まずはあの方からです!
学園に着いて、まず行く場所は決まっている。
フィッツロイ先生のところだ。
この時間、魔法学の授業はないので多分魔術塔にいらっしゃる筈。
名を名乗ると、部屋にはアッサリ通された。
「やあ、よく来たね。 なにか思い出したかな」
書類の整理をしていたらしいフィッツロイ先生は、棚にファイルを収めながらも割と愛想良く声を掛けてくれる。
「あの……ちょっと相談に」
しかしそう言った途端に明らさまにガッカリされ、後は一瞥すらしない。
「悪いが個人相談は受け付けていない、するなら他の教諭にあたってくれ」
「いえ、その……」
評判通りの塩対応だ。
怯むは怯むものの、この対応には逆に安堵もしている。
これだけの美形でしかも希少な魔術師。『相談』と称して個人的にお近付きになろうという生徒は多いのだろう。断るのはむしろ教師として好ましい。
だとしても、ロビン様の仰ったニュアンスだと『フェリシアさんは近付けた』様子。よくよく考えるとそこが疑問に思えた。
ただ魔力量が多くて優秀だから、とは思えない。ロビン様のように研究室に顔を出しているなら接触の機会はあるだろうが、彼女は術式に関してはまだ私程度の知識しかないのだから。
フェリシアさんはきっと、『魔力量が増えた者』──研究の情報提供者として、フィッツロイ先生に認識されている。
やはり、彼女も転生者なのだ。
「う、受け付けなくても結構ですが、後悔されるかもしれません……」
「……ほう?」
振り向くと、先程まで一瞥すらしなかったのが嘘のようにジロジロ眺められる。
「そういえば、ホルブルック君は今日は一緒じゃないのか? なんだか一昨日とは随分雰囲気も違うようだし」
「きょ今日は一人で来ました!」
「フン……てっきりひとりじゃなにもできないお嬢さんかと思っていたが、私を脅すとはなかなか豪胆だ。 座りたまえ」
「!」
「──5分。 その間に私に『聞くほうが時間の無駄だった』と後悔させない程度に興味を引けたなら、続きを聞いてやる」
いかにも偏屈魔術師攻略対象っぽい、カッコイイ台詞をつらつらと吐く先生。
しかし、
「5ふ……っ?! あわっあわわわスタートは少々お待ちを!」
「……」
そんなのに浸っている余裕のない私は、みっともなくあわあわし、空気を台無しにした。
フィッツロイ先生の「豪胆でもないか」と呆れた声が聞こえる中、私は鞄の中からメモと手紙を取り出す。手紙はひとまず横に置き、今使うのはメモのほう。
「『一昨日フィッツロイ先生から魔力量増幅のことを聞いた私は──』」
「待て待て待て待て」
「えっ、カウントは大丈夫です?!」
「いやそれはいいから……なんだそれは」
「き、きっと緊張して上手く説明できないと思って、予め読み上げる用の原稿を纏めておきました……!」
「……『用意周到だ』とか褒めるべきかな? それは……」
大きな溜息を吐いたあと「調子が狂うなぁ」とボヤきながら、先生はメモをスッと奪う。
「直接読んだほうが早い」
音読用の原稿なので、ちょっと見られるのは恥ずかしいが、確かにそう。
「──ふ~ん、成程ね。 要はフェリシア・ロッドの目的を周囲の目線から知りたい、と。
で?」
「はい?」
「私の利はなんだね?」
「そ、その……」
「そうだな、ここからカウントを始めよう」
「あっ?! ……えっええと」
(あああ焦っちゃダメ! 興味を引ければいいんだから!!)
切り札はひとつしかないのだ。迂闊に口にしたら、もうそれで終わり。しかもフェリシアさんまで巻き添えである。
多分、フェリシアさんなら上手く情報を隠して小出しにしつつ、先生と持ちつ持たれつの関係を築いている筈。邪魔はしたくない。
(一言、一言でいいのよ……!!)
なら『5分もある』。
たっぷり2分を使ってどう話すべきか考えた末、口を開いた。
「せ先生は、信頼を得ることができます!」
「!」
「重要な情報提供者である私のっ、です! ……逆に、ここでフェリシアさんとの仲に亀裂が入った場合、私のみならず彼女の信頼まで失う可能性がありますよ!?」
モニーク様達に言い返した時と同じように、謎の高揚感と恐怖心が凄い。『興味を引ければいい』というのに脅し文句まで付けてしまったのは、完全に高揚感による勢いであり恐怖からの虚勢である。
「……」
「……」
(……いや、なんか言ってぇぇぇぇ!?)
沈黙されると冷静になってしまうので、逆にキツい。虚勢だろうがなんだろうが、言ってしまったからには、どうにかテンションは保ちたいのだ。
「──ふっ」
「!」
先生は吹き出したあと、声を上げて笑い出した。
(こ、これは……興味を引けた?)
「いやスマン。 君、なんていうかアレだな? 可愛い見た目に反して意外にも賢く警戒心が強い、良く吠える小型犬みたいな……」
「い、いえそんな、『可愛くて賢い』だなんて……!」
まさか褒められるとは思っていなかった。
「ぶはっ」
先程笑った私の啖呵を思い出したのか、先生はまた笑い出している。傍から見ても余程必死だったのだろう。恥ずかしい。
「君って……くくっ。 まあいい、座って待っていてくれ。 話は聞く、お茶を淹れてこよう」
「あっありがとうございます!」
緊張も焦りもしたが、それからフィッツロイ先生はとても親切で、色々聞くことができた。
私は礼を言い、最後に横に置いておいた手紙を取る。フィッツロイ先生への物ではない。
「あと、コレをお願いしたいのです」
「ん? コレは……」
イヴァンジェリン様へ、お約束を取り付ける為の先触れの手紙である。
おそらくあの時、フェリシアさんもフィッツロイ先生にお願いした筈だ。
公爵令嬢であるイヴァンジェリン様に確実に渡すことが可能で、フェリシアさんが託せる信頼のおける相手など、どう考えてもフィッツロイ先生しかいない。
「……フェリシアさんからのメモは託されて、私の手紙はダメとか、仰いませんよね?」
「ふっ、意外と図々しいな君は」
「よく言われます」
先生は「よく言われるのか」と、また笑っていた。案外笑い上戸らしい。
ご高覧ありがとうございます!
一人称だからか意外と更新が続きましたが、本当に一旦止まります。
現在、この⑪のフィッツロイサイドを書いていますが、このあとすぐ閑話で入れるか、それとも後に回すかで考え中でして。
悩んだ結果『全部書いてから決めよう……』となったんで、暫く出ないと思います。
なるべく早く出せるよう頑張ります!!




