⑧バディが決まりましたが……
「それで、どうだったんですか?」
「うん……」
登校すると、フェリシアさんが昨日の結果を聞いてきた。
──基礎魔法学では、肉体を『魔力を入れる器である』と定義している。
なので魔力量は肉体改造により増やすことができるが、勿論時間と労力がかかる。
一時的なら付与術やアーティファクトで増やすことも可能だが、肉体という器に別の器を持たせたようなものだそう。恒久的にとなると直接肌に術式を刻むなどの方法も一応あるが、肉体にかかる負荷からやはりすぐにとはいかないようだ。
ただし、『極めて珍しいが、なにもせずとも急に魔力量が増えることはある』とのこと。
フィッツロイ先生はこのようなケースを『なんらかの事象により器が広がった』と考えており、その方法を研究する為に情報を集めているらしい。
お茶まで淹れてくれたのは、なにかきっかけとなるようなことに心当たりがないか、聞き取りを行う為だったようだ。
「そういえばお前、入学式の日ちょっとおかしかったよな?」
「え、ええ……実はあの日のことはあんまり覚えてないんです。 も、もしかしたら学園の入学がきっかけ、なのかしら?」
「やはり入学直後か……」
「やはり?」
誰かは教えてくれなかったけれど、実は学年にもう一人、同じような方がいるらしい。
「その生徒からは聞き取りをしていないのですか?」
「ああ……是非したいのだが、まあ少し事情があってな……」
無難な範囲で嘘にならないようなことを答えた私と、件の生徒の特定を避けて話しているフィッツロイ先生。当然それ以上話題は広がることなく──最後に先生が「なにか思い出したら話してくれ」というのに曖昧に頷き、お茶のお礼を述べてその場を辞した。
私の魔力量増幅のきっかけは勿論、前世の記憶だろう。転生自体なら、元々魔力量が高かった筈だから。
(その方も転生者で、前世の記憶が甦ったのかしら……それに)
「ジリアン様?」
「あ、ああ、ごめんなさい! 『間違いじゃない』って仰ってたわ」
もしフェリシアさんが前世の記憶を持つ転生者なら、彼女の魔力が高いのにも説明がつきそう。
実はまだフェリシアさんに『転生者なのか』を確かめたことはない。ヒロインと思しき彼女に恋人がいて安心したのもあるけれど、それを理由に仲を深めるのが嫌だったから。
(もうちゃんと『お友達』と言えるくらいに仲良くなったので、聞いてみてもいい気はするけど……)
「これでバディが組めますね♪」
「えっ」
余所事を考えている私にフェリシアさんはそう言って、握手を求めてきた。
「わわ私でいいの?」
「勿論ですよ~、むしろ基礎の実技授業時から狙ってましたし。 『ホルブルック様がいらっしゃらなくて良かった~♡』と思ってたんですよ!」
「えっええ?!」
私の力など大したことないので、正直なところ何がお気に召したのか全くわからない。
「私、魔法学実技の学年末試験のバディ戦で、絶対に功績を残したいんです! ジリアン様なら一緒に頑張ってくれますよね?」
「うっうん、勿論……!」
だが、フェリシアさんは本気の様子。
益々『私でいいのかな?』とは思うけれど、彼女に上目遣いで可愛くお願いされてはとても断れない。
(それに、誰かから私自身の能力に期待をされるのは初めてだわ)
『期待』と称して強引に押し付けられることはあったけど、『一緒に頑張ろう』と言われたことは初めてで、なんだかドキドキしてしまう。
「じゃあ、早速午前中の授業を差し替えて訓練しましょう♪」
「……えっ?!」
「あ、大丈夫今日だけです! 傾向と対策の為なんで♡ ね?」
「一般課程の成績が優秀なんで、授業は多少出なくても平気ですよ!」と褒め殺され、押し切られてしまった。
ガッカリされたくないな~と思いつつ、怖々基礎中の基礎である『球』を作ったが、やはり『私にこんな魔力が?!』というより『あれ? 本当に魔力多いの?』といった感じ。
まあ、初めて行った基礎の魔力供給はすんなりできたから、相性はいいのかもしれないけれど。
「成程なるほど……」
「ご、ごめんなさい、ショボくて」
ちょっとその気になってしまったことが恥ずかしくて思わず謝ると、フェリシアさんは「全然ショボくないですよ?」と不思議そうに小首を傾げる。
「……そうなの?」
「ええ、むしろ期待以上です!!」
難しい顔をしていたのでてっきり『期待ハズレ』と思われたかと思いきや、まさかの高評価。
「大きさなんてどうでもいいんです。 それよりまだ数回目であんなに綺麗な『球』はなかなか作れませんよ! コントロールがお上手なんでしょうね。 授業の時にした予想より遥かに凄いので、コレはちょっと鍛錬方法の変更が必要かもって今思ってるところです」
(ええ……嬉しい……!)
考えてみたら、これは私にとっても自信をつける絶好のチャンスかもしれない。なにより自分の身を守る術を身につければ、今よりも憶さず他人と向き合える筈だ。
「ふぇ、フェリシアさん! 私……私も頑張りたい! 宜しくお願いします!」
「ジリアン様……!」
フェリシアさんが彼との未来の為に頑張るように、私も……
(ロビン様の隣に、堂々と立てるように……!)
そう思ったけれど、流石に恥ずかしくて口には出せなかった。
フェリシアさんは有能なので、きっちり私の当面の自主練メニューを作ってくれた。
それには『ホルブルック様と帰る放課後の時間は取らないように』という配慮もあるあたり、流石である。
そして、放課後の馬車内。
「なんだ? なんか今日はご機嫌だな」
「バディが決まりました!」
「…………ふ~ん」
(あれ?)
予想では『見つからないと思ってた』と意地悪を言いながらも、一緒に喜んでくれると思っていたので、肩透かしだ。
(でも考えてみたら『一緒に喜んでくれる』とか、自意識過剰~!)
最近ロビン様が優しいので、ちょっと調子に乗っていたのだろう。自覚すると恥ずかしい。
「……早いな。 誰だよ」
ロビン様は興味なさそうにしつつも、質問してくれた。もしかしたら、意外にもバディが決まるのが早かったことに驚いていたのかもしれないな、とちょっと安堵する。
「フェリシア・ロッドさんです、入学式で代表だった」
「へぇ? なんか魔力量スゲー多くて、既にかなり魔法も使えるって聞いたけど……彼女とジルがバディ?」
「えっええ……」
(しまった……! 興味を持たれてしまったわ!)
攻略の意思がなくとも、彼女がヒロイン(じゃなくても魅力的)であることには考慮すべきだった。
ロビン様のほうがフェリシアさんに惹かれない、とは限らないのだ。
「練習とかしてんの?」
「はっはい……というか、自主練メニューを作って頂きました」
「見せろ」
私は嫌な予感を感じながらも、おずおずとフェリシアさんから貰ったメモを渡す。
ロビン様は探究心が強い。一度興味を抱かれたら、結局確かめるに違いないので、こういう時に抵抗するだけ無駄なのだ。
「──ふ~ん……」
ロビン様はサラッとメモを見ると「コレじゃわかんねーな」と呟く。
「え? 成果が見込めないってことですか?」
「いや……そういうことじゃねぇ。 ただ……そいつ他になんか言ってなかったか?」
「ロロ、ロビン様のことですかッ?!」
「ああ? なんで俺なんだよ、お前のこととかだ馬鹿」
「私の……あ、そうですよね」
どうやら興味は今のところ、純粋に魔法関連っぽい。
「褒めてくれました!」
「20点。 もっと詳しく」
しかし、詳しく話すとロビン様は何故か難しい……というかなんとなく嫌そうな顔をした。
それから馬車内は無言のまま、子爵邸タウンハウスに着いた。一旦私に手を貸す為に馬車から降りたロビン様は、メモを返しながら──
「明日放課後、俺もそいつに会う」
「えっ……」
拒否する間もなく「伝えとけ」と残し、さっさと馬車に乗って帰ってしまわれた。




